「もしも世界が、ファッションショーだったら」ウィメンズ編

ファッション経済学/ 土家 啓延

ファッションショー。それは最新の服をまとい、カツカツと高速で闊歩する無表情なモデルたちがいるところ。そんな世界は、自分には関係ないと多くの方は思われているかもしれません。でも実はわたしたちの住む世界の半年後を占っている場所なのです。

ファッションショーは、1年に2回、春夏・秋冬と開催される「クリエーション」の祭典です。パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンの四都市は、「世界の四大コレクション」と呼ばれています。特にパリコレクションは一番重要なコレクションです。それは世界中で知名度のあるラグジュアリーブランドが参加しているからです。
今回はパリでの事例をあげながら、「ファッションショーから見えてくる世界の経済」をお伝えできればと思います。
ファッションショーというビジネスモデル【前編】を読む

富裕層を探せ

第1回で少し解説しましたが、「ファッションショー」は欧州の伝統的な貴族階級向けにファッションブランドが始めたビジネスモデルです。オートクチュール(オーダーメイド)の場合、シンプルなスーツでも300万円〜という世界です。マネキン代わりとしてモデルの女性に服を着せて歩かせ、客席の貴族たちは服をオーダーするために眺めていました。

ブランド側のクリエーションに感銘し、そこに対価を払ってくれる人がいるから成り立つビジネスです。2000年に入るまでは、女性向けでオートクチュール、プレタポルテ(既製服)ともに、ドレスを提案するラグジュアリーブランドが多数存在していました。普段着というよりは、フォーマルな場にふさわしい服としてのドレスです。フランスのような階級がしっかりと根付いた国では、ドレスの需要が高かったのです。

ところが、時代の変遷とともにドレスの需要が縮小していきます。階級社会の中での世代交代も始まり、時代錯誤に感じられる豪奢で華美なものは好まれなくなっていきました。こうなると、ラグジュアリーブランドとしては新規顧客を開拓する必要があります。

トレンドはその時代の経済を占っている

2000年代に入った頃から世界経済とリンクしたクリエーションの提案が多く見受けられるようになりました。2006年ごろには、踝(くるぶし)まである丈の長い毛皮のコートや毛皮の帽子、毛皮の手袋など日本の冬には防寒性の高すぎると思われるアイテムが多くのブランドから提案されていました。実は、これはロシアがバブル経済だった時期と重なります。

また2015年ごろには、赤や黄色のような強い原色の色や、龍や花のモチーフが大きくデザインされたアイテムがトレンドになっていた時期も。これは中国の経済成長が著しかった時期と重なってきます。ある意味、購入先を見据えたようなクリエーションとも言えます。トレンドはブランド側からのデザインの提案だけのようにも思われますが、実はその裏側には経済とつながる戦略が隠れていたりします。

ファッションモデルも、時代を映す鏡?

ファッションショーは欧州から始まったビジネスモデルなので、当然モデルは欧米系の人種のみが出演していました。しかし1980年代後半に、アフリカ系モデルで初のスーパーモデルが登場しました。とは言うもののこの時代には人種差別が根強くあり、ショーに登場するのはごく少数のアフリカ系であり、アジア系モデルも同様でした。一部のクリエーターたちが閉塞的なファッション業界に対して抵抗していた程度です。

この状況が2010年代に入ってから大きく変わります。富裕層とリンクした人種のモデルの起用が顕著になったのです。時代の背景とつながっていたのは、服のトレンドだけではありません。モデルとなる「人」そのものにも実は変化が現れています。今日では、毎回コレクションにアフリカ系モデル、アジア系モデルが出演するようになりました。つまり出演枠が約束されているということです。

特にアフリカ系モデルは出演者が顕著に増えています。人種差別が減ってきた結果だと解釈することもできますが、有色人種によるラグジュアリーブランド消費が加速的に増えているということが大きな理由だと思われます。たとえば2017年のデータによると中国、アラブ首長国連邦ではラグジュアリーブランドで購入している1300人中70%の人たちが、「過去1年で消費額を増やした」と答えています。

アフリカ系モデルの活躍が意味するものとは

2月に開催された2018年秋冬のウィメンズのコレクションで話題になったことがありました。それは複数のブランドが、ショーの1番目に登場するモデルとしてアフリカ系モデルを起用していたことです。ブランド側にとって、1番目のモデルとはすなわちメディアに対してそのシーズンに一番最初に見せる服になります。これはコレクションのテーマを理解してもらう服でもあり、印象に残りやすい服になります。それを着せるモデルはとても重要になります。着せるモデルでイメージは大きく左右されます。

ブランド側にとってそれだけ重要な服なので、モデルにとっても1番目に登場することはステータスとなります。注目度が高いので、後々のモデル料にも影響します。そんな重要なポジションにアフリカ系モデルが多く登場したということが、世界の経済を色濃く映していると多くのメディアは推測しました。そして約30年後の2050年あたりには、アメリカ国内での欧米人と有色人種(アフリカ系・ラテン系・アジア系など)との人口比率が逆転すると言われています。ファッションのトレンドやモデルの変遷は、今以上に加速していくことになると思われます。

<まとめ>
・ファッショントレンドには、半年先の世界経済の動向がクリエーションに反映されている
・有色人種のラグジュアリー消費が世界的に伸びている
・2050年にアメリカ国内は、欧米系がマイノリティになると予測されている