「PERで読み解くANAホールディングス」を読む
今の業績に対する、株価の割安度を測る投資指標、PER。PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
PERは「事業計画」に左右される!?
PERは、企業に対する投資家の期待を表す指標でもあります。利益がこれから横ばいになりそうな企業と倍になりそうな企業とでは、PERがそれぞれ10倍、20倍と差がついていても、前者が必ずしも割安とは限りません。
そうした投資家の期待に大きな影響を与える要素の1つが、決算発表などの際に公表される事業計画や会社予想です。そこで今回は、企業が発表した事業計画によって、PERが大きく左右されるケースをご紹介します。
case20:J.フロント リテイリング
今回取り上げるのは、大丸、松坂屋などの百貨店事業を運営する「 J.フロント リテイリング 」です。2017年度からは、GINZA SIX、上野フロンティアタワーを含めた不動産事業を新たな事業としてスタート。2019年秋には、大丸心斎橋店本館や新生・渋谷パルコの開業が予定されており、「新しい百貨店」の運営を拡大させています。
弱気な会社予想をきっかけにPERが低下
同社の予想PER(東洋経済予想)は12.7倍と業種平均や過去の平均と比べて低い水準にあります。こうした現状のPERの低さのきっかけとなったのが、2018年4月10日に公表された2018年度の会社予想でした。会社予想がアナリストの予想を大きく下回ったのです。
会社予想は企業の「肌感覚」を表す
マーケットでは、2018年度の売上収益が4829億円、営業利益が533億円と予想されていました(2018年4月9日時点のQUICKコンセンサス予想)。一方、J.フロント リテイリングは、4月10日に2018年度売上収益を4850億円、営業利益を485億円という予想を公表。売上収益の水準はほぼ変わらなかったものの、営業利益は9%以上のかい離が生じる結果となりました。
事業計画や会社予想は、会社側が発信するその時点での事業環境に対する肌感覚を表すものです。後で下方修正することを嫌い、常に保守的に予想を出す会社もありますが、投資家にとっては、一種の業績シグナルとして、捉えられるもの。そうした会社予想が、事前のマーケットの予想を大きく下回ったことで、投資家心理が悪化したものと考えられます。
好調な事業に光が当たりにくい可能性も
足元ではGINZA SIXや上野フロンティアタワーなど不動産事業の賃料収入が増えていることや、インバウンド客の増加で百貨店事業が好調なことが、株価の下支え要因となっています。しかし、4月に発表された弱気な会社計画などにより、投資家心理は悪化したままです。そのため、百貨店事業が好調であるというニュースが伝わっても、PERや株価は低迷してしまっているとみられます。
期待を上回る会社予想を打ち出せるかがカギ
今後は、2019年秋開業予定の大丸心斎橋店本館や新生・渋谷パルコなどをきっかけに、いったん落ち込んでしまったマーケットの期待を取り戻せるかに注目が集まります。決算発表などのタイミングで、期待を上回る新たな会社予想が発表されかどうかに、PERや株価の行方がかかっていると言えます。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①と③からJ.フロント リテイリングを見てきました。投資家の期待を表す指標でもあるPER。公表される会社予想がマーケットの期待に届かないことで、失望につながり、PERの低下要因になることがあります。PERが低いからといってそれだけで割安と判断するのではなく、事業計画や会社予想とマーケット予想の差についても注目してみてはいかがでしょうか。