六本木ヒルズのイルミネーションと企業の挑戦

世界は株式会社でできている/ 本城 直季日興フロッギー編集部白根ゆたんぽ

冬の足音が近づく東京・六本木ヒルズ。
クライアントとの商談を終え、ユイとタカシは駅に向かっている。
2人は東京のITメディアで働く28歳。広告営業のユイと、根っからの経済オタクで金融ニュース担当のタカシは同僚で、最近同じプロジェクトを担当している。商談相手だったベンチャー企業の社長の話に全くついていけず、落ち込むユイ。街にはイルミネーションが点ろうとしている。

yui-05bユイ

今日はごめんなさい。私がクライアントのGunosy(グノシー)のビジネスモデルをきちんとわかってなくて……。今回の「ITで未来が変わる!」特集は記者のみんなが力を入れているのに、このまま広告を取れなかったらどうしよう?

takashi-05aタカシ

そうだなあ。「Gunosy」が、国内最大の情報キュレーションサービスを運営する会社だってことは、みんなわかってる。そのうえで、グノシーの独自性を理解しておく必要があったね。グノシーの強みは、ネット上にあふれる山のような情報の中から、ユーザーの嗜好に合うものを収集・選定して届けてくれるところ。国内のダウンロード数は、「グノシー」とニュース中心のサービス「ニュースパス」を合わせて1600万を超えるほど普及している。もともとは福島良典社長ら3人の東大大学院生が立ち上げた会社で、情報のパーソナライズを支える“技術力の高さ”がこの会社を支えているんだ。このくらいわかってないと、せっかく社長のアポイントが取れたのに、話がかみ合わないよなあ。

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横からタカシ君がサポートしてくれて、すごく助かったわ。ありがとう。福島社長って、私たちと同じ1988年生まれよね。世界を見据えたビジネスを語っていて、東証マザーズ上場まで果たしていて、本当にすごい。全然話についていけなくて情けなかった……。

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ま、うちもニュースソースを提供しているし、根気強く説明すればきっと協力してくれるよ。そんなに気を落とさずに、もう1回来よう。

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うん……。ありがとう。

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六本木ヒルズって久しぶりに来たな~。森タワーにはApple JapanやGoogle Japan、IT業界を引っ張ってきた名だたる企業の日本法人が入居している。まるで成り上がりのように「ヒルズ族」と揶揄する人もいるけど、僕は新しい技術に挑戦する経営者やエンジニアを心の底から尊敬するな。Gunosyのほかに、テクノプロ・ホールディングスという技術系の人材派遣会社もある。業界最大手で、技術者約1万1000人を正社員として雇用する会社だ。通常の人材派遣のような登録制ではなく、正社員として雇用することで、技術者が安定した環境でスキルを磨くことができ、質の高いサービスの提供を可能にしている。

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ずっと現場にいたいと思う技術者にとっては、いい職場でしょうね。

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その通り。リーマンショック後の景気悪化で、多くの企業が研究開発の予算をカットしてしまった。それでも技術者の力が必要な場面はあるから、信頼できる会社に頼みたいとなって、テクノプロに依頼が来る。業界で同社の存在感は高まっているそうだよ。

青色LEDの開発に10年粘って成功

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ノキアやフェラーリ、コーチ、海外の一流ブランドの日本支社も森タワーに入っているわ。伝統ある海外ブランドとITベンチャーの成功者が同居する空間って、面白い。

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インフラもユニークだ。森タワーのエレベーターには、2つの箱が各階の間を調整しながら移動する「スーパーダブルデッキエレベーター」が多く使われている。高層階をたくさんの人を乗せてスピーディーかつ機能的に移動できるエレベーターで、三菱電機も納入企業の1つだね。

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エアコンの「霧ヶ峰」でCMを打っている会社でしょ? エレベーターも作っているの?

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三菱電機は大手総合電機メーカーで、エレベーターやエスカレーター、FA(ファクトリーオートメーション=工場の自動化)機器、人工衛星、鉄道車両など、幅広い事業を持っている。冷蔵庫や空調はビジネスの一部で、一番の稼ぎ頭はFA。この分野で三菱電機は世界のリーディングカンパニーなんだ。勝因は、2003年から自社工場で「e-F@ctory(eファクトリー)」と呼ぶデジタル化による工場の合理化を進めるなど、いち早くこの事業で技術・ノウハウを蓄積したこと。いま、産業界では「IoT」(モノのインターネット)がキーワードで、FAは世界的に注目されている。この潮流を10年以上前からつかんでいたといえるね。

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そんなにすごい会社なんだ。社名を知っていても、BtoBの事業って全然わかってないなあ。あ、見て、イルミネーション! きれい!

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もうそんな季節か~。どうりで寒いわけだ。LED(発光ダイオード)電球が普及して、イルミネーションも変わったよなあ。

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確か、「神戸ルミナリエ」も2015年から全面LEDになったはず。

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LEDは消費電力が少なくて長持ちするから、白熱球よりコスパがいい。熱を発しないから巻き付けた樹木に優しいし、耐久性が高くて風雨にさらされる戸外でも使いやすい。もともと好条件だったのが、青色LEDの開発でカラフルな色使いができるようになって、各地のイルミネーションが一気に置き換わったんだ。この青色LEDの研究開発に深く関わっているのが豊田合成だ。

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豊田合成って、自動車のトヨタと関係があるの?

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そう。豊田合成は、トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)のゴム部門が独立してできた会社で、自動車の内装やエアバッグを開発・製造し、トヨタグループを中心に世界中のメーカーに販売している。事業の第2の柱を作ろうと、技術的に難しいといわれていた青色LEDの発光をテーマに定めたのが、1986年。それから10年後に、窒化ガリウムをベースとした青色LEDの製品開発に世界に先駆けて成功した。それを指導したのが、名城大学終身教授の赤崎勇さんと、名古屋大学教授の天野浩さん。2014年にノーベル物理学賞を受賞したお2人だね。その後さまざまな用途開発を進めて、今はパソコン・携帯のバックライト用LEDチップ市場で世界トップシェア。一般照明への応用・製品化も進めているみたいだ。

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粘り強い研究開発で、新しい市場を創り出す。ものづくりの会社として、理想的な姿ね(それにしても、こんなにロマンチックな状況でも一切そっちに流れないオタクのタカシ君との会話、段々慣れてきたなあ……)。

ホッカイロのトップシェアはあの会社?!

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あ~、寒い! 僕、寒いの苦手なんだよ。ずっとあったかい部屋で本読んだり勉強していたいよね!

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はい、使い捨てカイロ。貼るとあったかいよ。

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え、くれるの?

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この間調べて知ったんだけど、使い捨てカイロって、小林製薬が国内トップシェアなのね。医薬品を中心にニッチな分野のヒット商品をたくさん持っていて、芳香消臭剤が国内トップシェア。「ブルーレットおくだけ」「熱さまシート」「のどぬ~る」とか、ネーミングがユニークでわかりやすく、消費財メーカーとして独自の地位を築いていることは知っていたけど、使い捨てカイロのイメージがあまりなかったから驚いたわ。

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使い捨てカイロって、専業メーカーが強いイメージだけど。

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もともとはそうなんだけど、2001年に小林製薬が国内カイロ市場でトップだった桐灰化学を子会社にして、一気にシェアを取ったの。海外市場にもどんどん進出して、今や中国と北米でトップシェア。中国では、小林製薬の商品名である「暖宝宝」がカイロの代名詞になっているそうよ。

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面白いね、全然知らなかった。ユイも勉強し始めたなって、ちょっと見直したよ。さ、会社入る前にご飯食べていくか。

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どうせまた、今日のお礼におごって、とか言うんでしょ……。

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いや、たまには僕が! 今日は反省点もあったけど、2人とも頑張ったわけだし……。僕の大好きなラーメン屋に行こう!

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ラーメン屋か~、やっぱりタカシ君ってわかってないなあ。ま、お互いに少しずつ成長していければ、いっか。

今回のテーマで取り上げた上場企業

Gunosy
テクノプロ・ホールディングス
三菱電機
豊田合成
小林製薬

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