第11回 業績転換を知らせる四季報のキーワードとは?

四季報ひとすじ20年! 達人が教える活用のススメ/ 渡部 清二日興フロッギー編集部

毎号、誌面の隅から隅まで読み込んでいる渡部清二さんから、「会社四季報」の活用法を教えてもらうこの連載。今回は、株価の動きに大きなインパクトを与える業績に関するキーワードに注目します。記事中にそのキーワードが用いられている企業は、業績面で大きな転換点を迎えている可能性が高いということですので、「会社四季報」発売直後にいち早く見つければ、株価が動く前に先回りできるかも!
第10回「『ニューフェイスのキーワード』で、最旬テーマを探す!」を読む

好業績続きでも、「増収減益」のキーワードを見つけたらご用心!

−−業績がよければ、その会社の株価も上がりやすいと考えていいのでしょうか?

「好業績=その会社が儲かっている」という意味ではその通りですが、肝心なのは、業績のトレンド(傾向)や拡大のピッチです。増収が続いていても、そのトレンドがそろそろ途絶えそうなら、株式市場では悲観的な見方が広がり、株価が下がることも少なくありません。

そして、その兆しとなるのが業績拡大のピッチです。それが鈍ってくれば、「業績拡大の流れがピークアウトしたかも?」と株式市場で受け止められやすくなります。つまり、まだ業績が目に見えて悪くなっていないにも関わらず、いち早く株価が下げ始めるケースも出てきます。

−−売上や利益などといった数字の変化をしっかりチェックしておく必要があるということですか? もっと手っ取り早く、「会社四季報」でキャッチする方法はありませんか?

B欄の「業績予想・材料記事」に出ているコメントに注目すれば、そのヒントをつかめるでしょう。特に注意を払っておきたいのは、「増収減益」というキーワードです。

先にも述べたように、たとえ「増収増益」が続いていても、拡大のピッチが鈍ったことにより株式市場が悲観的な捉え方をすることがあります。そして、「増収減益」という表現に変わると、売上は増えているにも関わらず、利益が減り始めている状態を意味することになります。業績拡大がついにピークアウトしてしまった可能性を示唆し、「なにやら雲行きが怪しい」と思う投資家が増え始めるのです。

そうすると、まだ株価が目立って下がっていなかったとしても、これからその傾向がハッキリとうかがえるようになる確率が高いと言えそうです。特殊な事情で一時的に減益になったケースを除けば、「増収減益」とコメントされている銘柄に強気のスタンスで臨むのは避けたほうが無難でしょう。

「減収黒字」「底入れ」のキーワードが出ていたら、株価反発の可能性が!

−−逆に、株価が上がる可能性を秘めた、業績に関するキーワードはありませんか?

ありますよ! その代表例が「減収黒字」ですね。株式市場では、業績の不振が続いて株価も低迷している企業に復活の兆しがうかがえるようになると、そのことをとても好感します。その結果ポジティブサプライズとして株価が急反発するケースがよく見られます。

「減収黒字」とは、まだ売上の減少に歯止めがかかっていないものの、それでもコスト削減などの努力を重ねたことが奏功して黒字化を果たし、大底(最悪期)を脱した可能性を示唆しています。こうした変化に目をつけた投資家が資金を投じ始め、さらに業績底打ちの感触が強まってくれば、その動きが活発化して株価が急上昇することが期待されます。もっと具体的に「底入れ」という表現が用いられることもありますが、そのタイミングではすでに株価が上昇してしまっているケースが少なくないようです。

ちなみに、「会社四季報」2019年1集新春号(2018年12月14日発売)で「減収黒字」というキーワードを用いられていた銘柄は1社もありませんでした。また、「底入れ」というキーワードが見出し語に使われていた会社は「 セイコーエプソン 」や、「 東洋インキSCHD 」「 サカタインクス 」「 長谷川香料 」「 第一精工 」など、17社しかありませんでした。

いずれもなかなかレアケースであることがうかがえます。しかし、だからこそ、見つけた時は大いに注目できるキーワードとも言えるでしょう。ぜひチェックしてみてください。

キーワードで探る、利益確定のタイミング

−−その後、業績の回復が本格的になったら、「会社四季報」のキーワードはどのように変わっていくのでしょうか?

前期比で黒字が伸びれば「増益」、売上も拡大に転じれば「増収」という言葉が用いられます。そして、業績の拡大基調が続いている局面では「増収増益」や「利益躍進」「増益幅拡大」「続伸」などと表現され、さらに絶好調となってくれば、「最高益更新」というキーワードも見られるようになります。

こうした業績拡大のトレンドの転換点を暗示するのは、冒頭で触れた「増収減益」や「微増益」、「一転減益」といったキーワードです。もしも好業績に注目してその銘柄を買っているならば、これらの言葉をヒントに利益確定の売りを考え始めるべきタイミングであるとも言えるしょう。

業績低迷のトレンドに移ってからは、「減収減益」や「横ばい」「減益幅拡大」「足踏み」といったキーワードで表現され、スランプのトンネルから脱していない状況がうかがえます。やがて、上向きの気配が出てくれば、「赤字縮小」などといった言葉も使用されますが、最も大きな期待を寄せられるのは前述の「減収黒字」でしょう。

「一転増益」はマーケットで好感されやすい

そもそも上場企業の多くは、株主から批判されないようにかなり控えめな業績予想を発表しがちです。こうしたことから、企業側の事前予想は「減益」であってもフタを開けてみると増益であるケースもよく見られます。そういった場合は「一転増益」と表現され、株式市場で好感されやすいです。

「会社四季報」2019年1集新春号で、「一転増益」と見出しでコメントされていたのは、「 バンダイナムコHD 」「 住友重機械工業 」「 西日本フィナンシャルHD 」「 東和薬品 」「 タカラトミー 」など13社でした。こちらも今の相場では、非常にレアケースであることがうかがえますね。

引き続き、次回も業績にスポットを当てて「会社四季報」の活用法について考えていきたいと思います。次回はさらに一歩踏み込んで「よい減益」と「悪い減益」の違いに関して説明しましょう。「よい減益なんてあるの?」とクビを傾げた人が大半かもしれませんが、実はそれがあるのです。次回も乞うご期待!

<まとめ>
・「会社四季報」B欄の「業績予想・材料記事」に用いられているキーワードに注目すれば、業績の状況をカンタンにつかめる
・業績拡大が続いていても、「増収減益」のキーワードが用いられていたら、トレンドが変わる可能性がうかがえる
・逆に、業績の不振が続いていても、「減収黒字」と表現されていたら、スランプを脱して急回復に転じる可能性が!
・企業の業績動向にはサイクルがあり、「会社四季報」のキーワードの変化によって、現状がどういったプロセスにあるのかを察することができる
本記事は、取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。