ROEで読み解く花王

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部サヌキナオヤ 

「ROEで読み解くソニー」を読む
株価は下げ止まったものの、その後の反発に力強さが欠ける日本株市場。その理由を探るには、まずは1社ずつ、ROEなどの投資指標や業績を確認していくことが大切です。ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語だと「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

高ROE=株価安泰、ではない

積極的な増配などをすると、上記式の「自己資本」が小さくなり、ROEは高くなります。つまり、株主への利益還元に積極的な企業のROEは高くなる傾向があります。一般的には、こうした企業は株式市場でも高く評価されやすいです。しかし、高ROE企業だからと言って、ずっと株価が右肩上がりかというと、そうではありません。今回は、そんな高ROE企業でも株価が落ち込み始めている例をご紹介します。

case3:花王

今回取り上げるのは、ベビー用おむつの「メリーズ」やスキンケアに欠かせない「ビオレ」「キュレル」などを手掛ける「 花王 」です。同社は、ベビー用おむつが中国でトップシェアとなるなどアジア事業がけん引し、2018年12月期に過去最高益を更新。なんと29年連続の増配を達成しました。

高ROEだが、中国おむつ事業に黄色信号

連続増配企業である上、ROEも18%超と高い水準を維持していることから、投資家にとって非常に魅力的な投資先であることがわかります。業績も好調だったことから、株価も右肩上がりの推移が続いていました。しかし、2018年秋以降、株価の上値が重くなり始めました。その理由の1つが、「中国ベビー用紙おむつ」の販売不振です。中国事業は海外事業の約4分の1(売上高ベース)を占めており、同社が力を入れている地域の1つです。

花王の中国でのベビー用紙おむつが販売不振に陥っている背景は主に以下の5つです。

①転売品が多く出回り、正規品が売れにくいこと
②現地他社メーカーのシェアが上昇していること
③海外メーカー間で価格競争が過熱していること
④中国景気が減速し、購買力が低下していること
⑤2019年1月より中国政府が電子商取引(EC)の規制を強化したこと

ECの規制強化で売上減少!?

特に⑤の影響については、花王だけでなく、「 資生堂 」や「 コーセー 」など化粧品・トイレタリーメーカー全般に関わる課題として、注意が必要です。

これまでは、個人による代理購入者に営業許可証が不要でしたが、2019年1月以降、購入国と中国での営業許可証の取得が必要となりました。これまで代理購入目的で日本を訪れてきた中国人は、今後減少することが見込まれます。すでに昨年末から空港で代理購入品について厳しい検査が行われているとの報道もあり、同社の業績にも少なからず影響を与えたものとみられます。

今後の注目スケジュール

同社は、高付加価値品の拡販を行うことで、利益率を確保する姿勢を示していますが、予断は許さない状況と言えるでしょう。今回のEC規制の影響を見極めるためには、2月20日(水)に観光庁より発表される「JNTO訪日外客数」調査や、4月末~5月にかけて公表される「2019年1ー3月期決算」の内容をチェックしておきたいところです。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①と②から花王を見てきました。ROEが高く、連続配当を実施するなど株主還元に積極的な企業であっても、海外事業で展開する1ヵ国の法律改正などの影響で、株価が落ち込む可能性があります。しかし、逆に考えれば、その影響が軽微にとどまることがわかりさえすれば、再び株式市場で評価される可能性があります。今後の注目イベントをチェックしてから、投資の是非を検討するようにしましょう。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。