第12回 株価上昇を先回り!? 業績の上方修正は四季報でつかめ!

四季報ひとすじ20年! 達人が教える活用のススメ/ 渡部 清二日興フロッギー編集部

「会社四季報」を知りつくした渡部清二さんから、この”株式投資のバイブル”を活用した銘柄探しについてレクチャーしてもらうのが本連載です。前回に引き続き、今回も株価の動きにインパクトを与える業績にフォーカスを当てます。「業績予想の修正」と、「減益のよしあし」についてお話を聞きました。
第11回「業績転換を知らせる四季報のキーワードとは?」を読む

2度の上方修正で株価は大幅アップ

−−「通期の業績を上方修正する」という言葉をよく耳にしますが、これはどういったことを意味しているのでしょうか?

多くの上場企業は前期決算の結果を明らかにした時点で、併せて今期の通期業績予想も発表します。「通期の業績を上方修正する」とは、こうして期初に発表した予想値よりも業績が拡大する方向に見通しを改めることです。

基本的に上方修正は、ポジティブサプライズとなって株価の上昇に結びつきやすいと言えます。ただし、発表前からその可能性がかなり高いとの予測が株式市場で広がっていた場合には、発表後にむしろ下落に転じるケースもあります。

上方修正の具体例について見てみましょう。たとえば、東映系のアニメ制作会社である「 東映アニメーション 」。2018年7月に2019年3月期の第1四半期決算を発表した際、期初(昨年5月の本決算発表時)に作成していた通期の業績予想を上方修正しました。「ドラゴンボール」シリーズや「ワンピース」「プリキュア」シリーズなどといった人気作品がヒットを遂げて、過去最高の売上高と利益を記録したからです。

修正後の予想値は過去最高だった2018年3月期を上回っており、記録を更新する見込みとなっています。しかも、同社は第3四半期決算の発表時に再び2019年3月期の通期業績予想を上方修正し、株価も大きく上昇しました。

四季報を読んでいれば2回目の上方修正は先回りできた!?

−−でも、4期連続の過去最高益予想でありながら、株価は一本調子の上昇にはなっていませんね。下落傾向を示している時期も見られます。

会社側は期初の時点で今期の業績をそれほど強気で見ていませんでした。3期も連続で好調であったことから、そろそろ前期比での伸びは難しくなってきたという慎重なスタンスを示していて、かなり控えめな予想を打ち出していたようです。

四季報の予想値は、2018年3集夏号(2018年6月15日発売)の時点で、2019年3月期は売上高400億円、営業利益90億円でした(会社発表と同じ)。さすがに最初の上方修正は四季報も織り込めていなかったようですが、実は2回目の上方修正は四季報を読んでいたら気づけたかもしれないのです。

−−それって、四季報を読んでいたら株価上昇の前に株を買えていた可能性があるってことですか!?

そうなんです。1回目の会社側の修正に対応するように、2018年4集秋号(2018年9月14日発売)では売上高480億円、営業利益120億円に予想が変更されています。さらに、2019年1集新春号(2018年12月14日発売)では売上高490億円、営業利益135億円と、会社側の2回目の修正前に四季報は変更されていました。この2回目の四季報の変更に気づいていた人は、2019年1月28日に会社が発表した2度目の上方修正の前に、同社の株を先回り買いできたかもしれません。

必ずしも、「減益=マイナス材料」ではないケースがある!

−−増収増益の正反対である減収減益の見通しだった場合は、株価の下落につながりやすいと考えていいのでしょうか?

前期と比べて売上が減って利益も減ると予想されているわけですから、基本的には悲観視されやすいと判断できるでしょう。また、上方修正とは逆に当初の予想よりも業績が下ブレする見込みであることを発表するのが下方修正で、こちらは株価の下落を誘いがちです。

特に売上は利益を生み出す源ですし、これが順調に増えていくことが業績拡大をけん引すると言えるでしょう。一方で、利益については前期比で減益となっていても、必ずしも悲観材料であるとは言えません。

−−つまり、「良い減益」と「悪い減益」があるということですか?

そうです。売上が減っていたり、売上はさほど変わらないのに生産コストが増えたりして減益が見込まれる場合は、業績が悪くなってきていると言えます。

四季報なら「良い減益」で割安に買える可能性も

しかし、売上が減っていなかったり、生産コストが増えていなかったりするにもかかわらず、減益が予想されていることもありえます。それは次なる成長のために先行投資を行っていたり、過去の負の遺産を処分して特別損失が発生していたりして、それらが利益を目減りさせているケースです。そういった「良い減益」については、「会社四季報」の記者がコメント欄に記していることも多いです。

先行投資が実を結べば、先々で利益の拡大が見込まれますし、負の遺産がなくなれば経営も楽になってくるものです。本来、こうした「良い減益」は前向きに評価されて然るべきものです。ですから多くの投資家が「減益」というだけで悲観的に捉えて株価が下がっていたら、業績改善を見込める銘柄を割安に買えるチャンスとなりうるでしょう。

「会社四季報」を毎号見比べて業績の変化に気づいたら、記者が記している寸評やインターネット上で入手できる個別銘柄情報などをもとに、「変化の理由」を探し出すのが次のステップとなります。これができれば、株価の動きを事前に予測することにつながっていきます。

さて、次回は2019年度がどんな1年になりそうで、どういったところに投資のチャンスが潜んでいるのかについて考えてみたいと思います。株価に大きな影響を与えそうなイベントも控えていますので、どうぞみなさん、お楽しみに!

<まとめ>
・業績の上方修正は株式市場で好感されて、株価が上昇しやすい
・「会社四季報」の業績予想欄を毎号見比べていれば、いち早く変化をつかめる
・業績の下方修正は逆に悲観視されて株価が下落しやすい
・先行投資や負の遺産処理による「良い減益」なら、むしろ前向きに評価してもいい
本記事は、取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。