「もっと自由になろう」「旅に出よう」「好きなことで生きよう」
そんな夢のようなタイトルの、「外国の風景」や「外国の赤ちゃん」が表紙の本を見るたびに思うことがありました。
確かにワクワクはするし手に取りたくもなるけど、どうも胡散臭さが否めないし私のような一般ピーポーに真似できる気がしない。
これは、選ばれし人間にのみ実現可能な夢物語なんじゃないか?
今回は、そんな“自由なライフスタイル”を提唱するグローバルノマドの先駆者、現在ニュージーランドで大好きな釣りをして暮らしている(!)という四角大輔さんに、失礼ながら色々とツッコんできました!
<聞き手:いしかわゆき(新R25編集部)>
記事提供:新R25
ツッコミ1:旅をしないと自由になれないの?
いしかわ
まず、四角さんは「旅をするように生きる」をテーマに掲げていますが、一体どんな生活を送っているんですか?
四角さん
ニュージーランドの森に囲まれた湖の畔で、毎日大好きな釣りと畑仕事をして生きています。
あとは旅と冒険が大好きだから、年に数ヵ月は世界中を旅して、1ヵ月近くは山でテント生活をしています。
四角さん
旅はいいですよ! 旅というのは、誰にでもできて半強制的に自由になれる、一番簡単な方法なんです。
いしかわ
……すごい旅を推してますけど、必ずしも旅に出なきゃ自由になれないんですかね。私インドア派なんです。
四角さん
「旅」って言うと、みんな大げさに考えすぎなんですよ!
僕みたいな60ヵ国以上を旅してる人が言うと「ヨーロッパ中を訪れなきゃいけないの!?」「タイ北部の山岳地のような辺境に行かなきゃいけないの!?」と勘違いされがちだけど、旅に大小なんてないし、もっと自由なんです。
毎日家から会社に行く道のりをちょっと変えてみたりとか、一個手前の駅で降りてみたりとか、そういうのも立派な旅なんです。
いしかわ
えっ、そんなお散歩程度でいいの?
四角さん
大事なのは退屈な日常を壊すことなんです。何なら新しい本や過去に読んだことのない漫画に没頭することも立派な旅。
いしかわ
なるほど、じゃあインドアでも全然いいんだ……!
四角さん
そう。日常に慣れると感性が鈍ってしまうから、ちょっとでも新しい「何か」に触れることで、脳は刺激を受けてインスピレーションやアイデアが生まれます。
根拠のない「あたり前」や、自分を縛りつける「思い込み」から抜け出して変化し続ける。これが、僕の言う「自由」の本質的な意味なんです。
いしかわ
四角さんの言う「旅」とは、つまり「非日常体験」のことなんですね。
四角さん
そう。非日常体験を重ねることで、思考は柔軟になり、感覚は解放されて、「本当の自分」を取り戻せるようになります。
いしかわ
本当の自分……
四角さん
欲望には、「偽の欲望」と「本物の欲望」があるんですよね。「偽の欲望」は頭からくるもの。打算的に損得で考える。本心はやりたくもないのに、周りに影響されてやっちゃう。
逆に、「本物の欲望」は心のど真ん中からくるもの。何だか説明できないけど好き! ワクワクする! っていう心の声なんです。
いしかわ
(心の声……なんだかまた四角ワードが出てきたぞ……)
ツッコミ2:「心の声」ってなに? どうやって聞くの?
いしかわ
でも、いきなりそんな「心の声」を聞けと言われても……。具体的にどうすれば自分の本当の欲望がわかるようになるんですか?
四角さん
それにはおすすめのトレーニング方法があります! それは、ノートを取らずにメモをとること。
何かを体験している途中やその直後に、感じたことを単語のままメモに残すんです。このタイミングでは、文章にしてはダメ。なぜなら、頭を使ってしまうことで感じる能力が下がるから。
いしかわ
なるほど! 頭を使わずに直感でメモをするんですね。
四角さん
僕はこの、人間の創造性の源泉を拾い上げる行為を「クリエイティブメモ」と呼んでいます。このメモをもとに、頭を使って文章や企画をクリエーションするのはそのあと。
いしかわ
(いちいちかっこいいな……)
四角さん
できるだけ断片的な言葉でメモするのがポイントです。
だまされたと思ってやってみて! 初めて歩く道を散歩してみたり、新作映画を観たり、新しいことが詰まった1日を過ごしながらメモを取ります。
それをあとで、「さぁ、自分の心は何を感じただろうか」とメモを見返してみると、心に強く残ったことだけがザーッと出てきますから。
いしかわ
つまり、見返しても思い出せなかったらそれは感じきれてないってことになるんですね。「タメになりそう」と思っても、心に残っていなかったら結局自分にとってはいらない情報ってことか……
四角さん
残ったものこそが、もっとも大切にすべきあなた独自の感性であり、オリジナリティなんです。
心の声だけに耳を傾けて、いらないものを削ぎ落としていくと、「そういえばこういうのが好きだったな」「こういうことがやりたかったな」ということにどんどん気付けるようになる。
いしかわ
「とりあえず」で何でもインプットしがちだけど、それが好きとは限らないですもんね……。
四角さん
そうやって自分を取り戻していくんですよ。
すべて捨てて最後に残るものが、本当にやりたいことや大事なもの、つまり「あなた自身」なんです。
ツッコミ3:持っている釣竿は50本、マウンテンバイクは3台。全然ミニマリストじゃなくない?
四角さん
もうひとつ、思考以外のノイズも除去することが重要です。不要なものを捨てる。
いしかわ
四角さんもやっぱり、家にはものが少ないんですか?
四角さん
僕はミニマリストと呼ばれることが多くて、余計なものはなくて普段着も家具も最小限でシンプル。でも、家には畑を耕す道具は多数あり、釣竿は50本以上、テント5張、マウンテンバイク3台、ロードバイク2台、そしてカヤックもある。
いしかわ
ちょっとツッコませてください! 全然ミニマルじゃないじゃないですか︎!!(笑)
四角さん
もちろん、どうでもいいことには一切お金を使いません。
僕が世間一般のミニマリストと違うのは、人生を確実にアップグレードしてくれるもの、本気で語れるもの、大好きでドキドキするものには、お金を惜しまない点です。
いしかわ
なるほど。例えば私はヲタクなんですけど、つまり、ヲタクの人たちはビジネス書にお金を払うよりもアニメのDVDに費やしたほうがいいということですかね?
四角さん
絶対にそう。他人には理解できない、自分だけの宝物こそ捨てたらダメ!!
「アニメのことだけはディープに掘り下げているけどそれ以外のことは何も知らない」「ベストセラーは1冊もないけど、アニメDVDは何百枚もある」。それでいいんです。
そうやって取捨選択していくと、家にあるものや、身につけるものが自分の心が本気で求めているものだけになります。
ツッコミ4:なんで「外国の赤ちゃん」が表紙の本が多いの?
四角さん
ちなみにベストセラーになった僕の著書に赤ちゃんの表紙のものがあるんですけど……
いしかわ
あーー︎!! これ︎!! 「自由になろう!」系の本によくありがちな表紙ですよね。「とりあえず外国の赤ちゃんを表紙にしておけばオッケー!」だと思ってません?
四角さん
あまり知られていないけど、ビジネス書の表紙に、外国の子どもの写真が使われたものはあったけど、どアップの赤ちゃんを採用したのは、実は僕が初めてなんですよ︎!
今やめちゃくちゃパクられてるけど!(笑)
四角さん
で、どうして赤ちゃんかっていうと、いらないものを捨てたあとに残るのが「その人そのもの」ってことを伝えたくて。
赤ちゃんって好きなことしかやらないでしょ。「これ言ったら損するな~」とか「空気壊すな~」とか思わない。
いしかわ
欲望のまま生きていますよね(笑)
四角さん
あと、僕らは誰もが、何も身につけず手に持たず、裸の状態で生まれてきたわけで。
だから、邪念や余計なものを捨てて「みんな、赤ちゃんのころのようにシンプルに生きようよ」っていうメッセージを込めてるんです。
いしかわ
赤ちゃんにそんな深い意味があったとは……
ツッコミ5:四角さん、ニュージーランドに移住したのに来日しすぎ問題
いしかわ
ところで、これもずっとツッコみたかったんですけど、四角さん、釣りがしたくてニュージーランドに移住したのに、今日本にいるのおかしくないですか?
四角さん
(笑)
釣りや旅は昔から僕にとって最高の遊びなんだけど、今日本でやってることは仕事じゃなくて、全部新しい遊びなんですよね。
釣りや登山はもちろん、執筆も、日本でやってるトークライブやプロデュースワークも、何なら今受けているこの取材も「やりたい!」と思ってやっている遊びなんです。
いしかわ
(この取材は遊びなのか……)
四角さん
SNSのおかげで今は、大人が本気で遊ぶと、それがお金になる時代です。
でも最近、僕はお金じゃなくて物々交換や物技交換にどんどん移行してますけどね。僕のスキルや発信力を提供する代わりに、アウトドアウェアやギア、航空券やデジタルデバイスといった、ぼくのライフスタイルに必要なものを各企業から提供してもらう。
いしかわ
「遊び」と捉えているからこそ、お金に固執しないんですね。
四角さん
食料だけでなく、そういったものも自給することで年収を下げながら、生活をどんどん豊かにしているんです。そもそも僕はお金を信用していないので(笑)。
本当は自信がなかった。15年間も会社勤めをしたのは「慎重さ」の裏返し
いしかわ
最後に一つだけツッコんでもいいですか。
四角さんって学生時代からニュージーランドに憧れつつ、15年間も過酷なプロデューサー業をやってきたじゃないですか。なんで我慢して15年もやられていたんですか? 正直さっさと行っちゃえばいいじゃん、と思っちゃったんですけど。
そのくらい働かないと悠々自適な生活は手に入らないってことですか?
四角さん
正直、仕事は過酷でしたね。過労で駅のホームで倒れたこともありました。
実は、メンタルめっちゃ弱いから、原因不明の蕁麻疹や顔面マヒにもなったし(笑)。
いしかわ
えっ︎!? もうそれ完全に逃げていいやつじゃないですか。
四角さん
でも、仕事で出会った音楽アーティストたちは、人生をかけて音楽をやっていました。
そのピュアな姿を見て「守らなくちゃいけない!」と思ったんです。音楽業界はお金目当てなところもあるビジネスの世界だから、そんなノイズに侵されないよう、この美しい生命体を守ろう、と。
今思えば、彼らに自分を重ねて夢を託していた部分もありましたね。
いしかわ
そのころは夢を押し殺していたような状態だったんですか。
四角さん
「アウトドアが好き、自然が好き」って言って、どんなに忙しくても休みを取って、釣りや山に行きまくり、毎年10日前後の長期休暇を取ってニュージーランドへ通ってたら職場で叩かれ、「社会人としてダメ」って言われ続けてました。
四角さん
でも、愚直に純粋に、「好き」を追求し続けるアーティストたちの姿を真横で見ながら、「自分はこのままでいいんだ」って、泣きながら自分に言い聞かせてた。
もし20代のころにこれを言葉にして伝えてくれる大人がいたら、もっと楽だったなって思ったんですよね。今自分が本を書いたり発信したりしているのは、そのときの思いからです。
いしかわ
迷っている人の背中を押そうと。
四角さん
それと、本当の意味で自由になるために必要なのは、大金を稼ぎ続けることはなく、最低限の「衣食住」を確保することだと考えました。ぶっちゃけ、移住して働いて稼ぐ自信なんてなかったし(笑)。
いしかわ
えっ、そうなんですか……!
四角さん
古着が好きだったので「衣」にはお金がかからない。大好きな釣りと畑仕事で「食」を確保するイメージはできた。でも、さすがに家は作れないから「住」を確保するためにお金を貯めなくちゃいけないな、と。
だから、家を買うお金を稼ぐという目的に加え、移住後に好きなことを仕事にするためのビジネススキルをきちんと磨こうと、日本で10年は働こうと決めていたんです。
いしかわ
……しかし結果的に15年もサラリーマンをやってしまったと。
四角さん
そう、永住権を取るのに時間がかかったり、担当アーティストがビッグになりすぎて抜け出せなくなったり……そうするうちに15年もかかっちゃいました(笑)
いしかわ
……「自由に生きよう!」ってすごい抽象的だと思っていたんですけど、今日は、四角さんが結構現実的でびっくりしています(笑)。
四角さん
みんな「自由になろう!」ってすぐに言うけど、そんな簡単じゃない。エイッてすぐに自由になれる人は天才だけですよ(笑)。
僕がやっているのは、過去の僕みたいな、自分に自信をもてない慎重派を応援すること。ぼくのようにクソ真面目で硬い人が自由になるために活動してるんです。
いしかわ
四角さんは「自由になりたいけど自由になれない」私たち側の人間だったと。
四角さん
僕が特別だからニュージーランド移住という夢が実現したわけじゃない。勇気をもって心の声を聞き、ノイズを捨てて、やりたいことや好きに集中し、ちゃんと準備したから自由になれたんです。
これは決して、夢物語じゃないんですよ。
失礼な質問にもすべて真摯に答えてくれた四角さん。彼の語る“自由な生き方”を「どうせ夢物語なんじゃないの?」とひねくれて見ていましたが、自由になるためには、意外と現実的で具体的なステップがありました。
ちょっとでも不自由を感じている方。まずはクリエイティブメモを取って、心の声を聴いてみることから、自由になってみませんか?
<取材・文・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)>