ROEで読み解く武田薬品工業

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部ery

「ROEで読み解くダイキン工業」を読む
3月決算企業にとってはもうすぐ期末。マーケットでは来期の業績にすでに目線が移りつつあります。そんな来期に向けてどんな有望企業に投資をしようか考えるときに役に立つのがROEです。ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

会社も、やっぱり借金のしすぎには要注意!?

ROEが高かったり、グローバルな成長戦略を推し進めていても、株式市場で評価されないケースがあります。特に事業買収(M&A)の規模が大きすぎて、多額の借金を背負ってしまうような場合は、財務不安が台頭し、投資家が投資を避けるケースがあります。今回はそんな、成長戦略と借金の間で揺れ動く企業をご紹介します。

case5:武田薬品工業

今回取り上げるのは、アリナミンなどでおなじみの国内トップシェア製薬企業、「 武田薬品工業 」です。近年、同社はM&Aによる規模の拡大を進めてきました。2011年のスイス・ナイコメッド社、17年の米アリアド社、19年のアイルランド製薬大手シャイアー社などを買収し、世界トップ10の仲間入りを果たしました。

7兆円の大型買収が株価の重しに

武田薬品工業の実績ROEは9.6%と決して低い水準ではありません 。ただ、2018年の春先以降、株価は下落トレンドが続いています。これは2018年3月に、同社がシャイアー社の買収を検討すると報じられたことが主な要因です。7兆円規模となる大型買収の可能性が浮上したことにより、同社の借金急増、財務状況の悪化などを懸念した投資家が増えたものとみられます。

大型買収を進めた2つの理由

ただ、このシャイアー社に限らず、これまで武田薬品工業が大型の海外M&Aを手がけてきたのには2つの理由が考えられます。

1つ目の理由は、医薬品の研究開発には膨大な資金と長い時間が必要なことです。
医薬品は効果が認められ、特許を取ることができれば、莫大な利益を生み出します。しかし、そこに至るまでには数千億円もの研究開発費をかけて、10年以上にもわたる研究・開発をしなければならないのです。

そのため、世界中の医薬品企業がM&Aを活発化させ、規模の拡大による研究リソースの確保を実施しています。国内では医薬品シェア1位で時価総額が7兆円を超える同社ですが、世界を見渡すと、シャイアー社買収前はトップ10にも入っていませんでした。

2つ目の理由は、グローバル展開の拡大です。
薬価引き下げなどによって、国内市場が規模縮小を余儀なくされている中、成長を目指す同社にとっては、海外売上の拡大は必須です。手元の資金で研究開発を続けるよりも、すでに新薬を持っている会社を買収したほうが、「時間を買う」という意味でも、有効な手段と言えるのです。

「アリナミンのタケダ」じゃなくなる可能性も!?

一時的な財務悪化を乗り越え、シャイアー社買収による効果が見えてくれば、株価は再び反発する可能性があります。しかし、単なる財務悪化懸念だけではなく、「アリナミン」など大衆薬事業を売却することになるのでは、という懸念も一部では浮上しています。

すでに大阪本社ビルなどを380億円で売却するなど、借金返済を進めている同社。多額の借金を返済するために、医療用医薬品と相乗効果が見込みにくい大衆薬を売却候補とする可能性も捨てきれないと言えます。こうしたことから、しばらくはROEが高くても株価が上がりにくい局面が続くかもしれません。今後の経営陣の発言に要注目ですね。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①③から武田薬品工業を見てきました。大型買収によって財務不安が株価の重しとなっている同社。大衆薬事業の行方は気がかりではありますが、グローバルな競争に打ち勝つための戦略ならば、次第にマーケットでも評価されてくるのではないでしょうか。過度な懸念から株価がさらに落ち込む場面では、投資を検討してみてもよいかもしれませんね。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。