ROEで読み解く日本電産

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部ery

「ROEで読み解くJXTGホールディングス」を読む
株価に左右されないからこそ、中長期で株式投資を続けたい人にチェックしてほしい投資指標がROEです。ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

業績下方修正で株価が反発するケース

一般的には、業績予想の下方修正は経営陣による業績悪化のシグナルと捉えられ、株式市場でもネガティブに受け取られがちです。ただ、経営陣から積極的に大幅な業績下方修正が発表され、投資家に明確なメッセージを発信することにより、逆に株価が上昇するきっかけとなるケースもあります。

case7:日本電産

今回取り上げるのは、スマートフォンや自動車などのモーターを開発する「 日本電産 」です。敏腕経営者として腕を振るう永守重信氏が有名なだけでなく、モーターに関連する企業を数多く買収し、「世界No.1の総合モーターメーカー」として地位を確立しています。

業績好調で長期的な株価は上昇傾向

同社のROEは2018年3月期に14.8%、2019年3月期予想は12.2%と、目安である8%を大きく超えており、ROEから見た投資家の評価は高いものと考えられます。さらに、「クルマの電装化」によるモーター需要の拡大などにより、2018年3月期まで5期連続で増収営業増益を達成するなど業績も好調。株価も長期で見ると上昇傾向が続いています(2015年3月期までは米国会計基準、それ以降は国際会計基準)。

「尋常ではない変化が起きた」

ただ、2018年春ごろから米中貿易摩擦による景気減速懸念が出てきたことで、グローバルに展開する同社の株価はいったん頭打ちとなりました。また、2019年1月17日には、2019年3月期の連結純利益が従来の増益予想から一転減益になる見通しを発表。「尋常ではない変化が起きた。46年経営を行ってきたが、月単位で受注がこんなに落ち込んだのは初めて」と永守会長が会見するほど、日本電産を巡る事業環境は悪化した模様です。

悪材料出尽くしで株価は反転へ

しかし、この業績下方修正と記者会見を境に株価そのものは反転上昇。下方修正の発表によって、投資家が「これ以上の悪材料は出てこないだろう」と感じる、いわゆる「悪材料出尽くし」と捉えられたことや、米中貿易摩擦に改善の兆しが見られたことなどが投資家心理を改善させました。株価は記者会見の1月17日から4月4日までなんと2割も上昇! 最悪期は脱したものと見られます。

もちろん米中貿易摩擦による影響は、今後もその行方を見極める必要があります。ひとたび関係が悪化し、関税強化となれば、景気が再び減速する可能性もあります。ただ、すでに日本電産は最悪なシナリオとして下方修正を発表しており、年初来安値である11,405円(2019年1月18日)を下回るような失望売りにはつながりにくいと考えられます

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①③から日本電産を見てきました。一時的な業績悪化で株価の長期上昇トレンドが途絶えたかに見える日本電産。同社が早目の業績下方修正を発表したことで、「悪材料出尽くし」から株価は再び上昇し始めています。自動車用を中心にモーターの需要はまだ伸びていくとの前提に立てば、長期上昇トレンドへ今まさに戻りつつある局面と言えるのではないでしょうか。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。