中国トレンドマーケターのこうみくさんが中国のリアルをお届けする本連載。日本企業にも大きな影響を与える中国経済の動向は、投資をする際にも参考になるはずです。第1回は、中国で活躍するファーストリテイリングの事例をご紹介しながら、その特徴を紐解いていきます。
米中貿易摩擦で日本の製造業に激震!
まず、前提として、中国へ進出する日本企業の実態を見ていきましょう。安い労働力と大きな成長市場を求めて、過去数十年間において、多くの日本企業が中国進出を試みてきました。
そんななか、中国の経済、そして市場規模の拡大とともに成長を遂げてきたのが製造業です。現在中国には、1891社の日系企業が進出し、4380ヵ所の拠点を展開(※東京商工リサーチ調査より)していますが、その半数を製造業が占めています。
しかし、近年、製造業を中心とした日系企業の中国進出、躍進を揺るがす事態が起きています。それが、激化する米中貿易摩擦。アメリカへの輸出減による業績悪化、そして関税の引き上げによる原材料の高騰など、経済悪化の陰りを見せる中国では、日系企業にも暗い影が伸びてきています。
中国を軸に、「世界のユニクロ」へ
そんななか、米中貿易摩擦の影響を受けることなく、中国で急成長を続けている日系企業もあります。
その一つが、言わずと知れたユニクロ(「
ファーストリテイリング
」)です。
2018年8月期の同社の売上高をみると、海外ユニクロ事業の売上高が国内事業を上回っているのがわかります。絶好調な海外事業を引っ張っているのが、グレーターチャイナ(中国・台湾・香港)、特に中国の存在です。
中華圏全体で約20%の増収増益が続いており、今期末の売上高は5000億円に達すると会社側は予想しています。では、なぜ、ユニクロは中国で躍進することができたのでしょうか。
躍進の理由①EC起点でデザインする、オンラインとオフライン店舗の融合
さまざまな要因が挙げられますが、肝になるのは実店舗と連携したデジタル起点から考えた、オンラインとオフライン店舗の融合戦略です。前提として、中国ではECサイトで買い物をすることが当たり前。むしろ、アパレルや日用品であれば、オンラインとオフライン店舗の力学が逆転しており、オンラインで買う方が、より一般的と言っても過言ではありません。
多くの中小ブランドがこぞってデジタルマーケティングに力を入れるなか、ユニクロは敢えて中国本土でのオフラインでの実店舗展開にも力を入れ続けてきました。もちろん、SNSを中心としたECサイトへ来店させるためのデジタルマーケティングの手を抜いた訳ではありません。しかし、皆が皆、オンラインで勝負をする時代になったからこそ、オフラインの実店舗の拡大が、ユニクロの認知や存在感の向上、そしてブランドの価値向上に大きく寄与しました。
さらに、中国全土に店舗を展開することによって、店舗に倉庫機能を持たせました。そうすることで、実店舗は、オフラインで買い物をする場であるとともに、オンラインで買い物するお客さんのためのストックとしての機能も加わりました。そこで、お客さんがいつどこからECで買い物をしても、近くの店舗にある商品がすぐに手元に届くようになり、顧客満足度が向上。日本でも実現していない、オンラインと実店舗の融合が功を奏したのです。
躍進の理由②「安くて良品質で最先端」で圧倒的なブランド価値を確立
2つ目の理由は、「安い」「良品質」「最先端」のイメージを両立することに成功したからです。それが顕著に表れたのが、世界的なアーティストKAWS(カウズ)とのコラボTシャツのケースです。これは中国国内で“騒動”に発展するほど、大きな話題を呼びました。通常数万円するTシャツが1500円で買えるとあって、ECサイトでは午前0時の発売1分後には売り切れ。「転売ヤー」含め、手に入れることができなかった人たちが実店舗に殺到し、奪い合う様子もありました。
騒動の良し悪しはさておき、ユニクロがここまで中国人を熱狂させる仕掛けをつくることができたことは、注目すべき点でしょう。ここまでの大騒動を巻き起こせたのは、今までもAppleのiPhone新機種発売と言ったハイブランドの高価格帯の商品だけだったにも関わらず、たった1500円のTシャツで、それに劣らない話題性と熱狂を生み出したのです。
ちなみに、KAWSの同じ型のコラボTシャツは、後日、日本でも販売されましたが、このような騒動は一切ありませんでした。
では、一体どうして、中国でのみ、このような異常なまでもの熱狂が巻き起こったのでしょうか?
遡ると、そもそもKAWSが人気アーティストとなったキッカケが、2016年からのユニクロとのコラボにあります。当時、KAWSのコラボTシャツを買って着た、多くの中国のインフルエンサーや芸能人がSNSで自身の写真をアップロードしたことによって、中国国内でのKAWSの人気が急浮上しました。その後、KAWSの7500ドルのぬいぐるみが、中国のメルカリ的なフリマアプリで3倍もの価格をつけて転売されるなど、KAWSのブランド価値の急騰が大衆に知れ渡ったのです。
名だたる有名人を巻き込み、協業パートナーの価値すらも共に底上げするユニクロ。このように優秀な中国側のブランディングとマーケティングチームにより、中国では、従来の日本国内にあるような「コストパフォーマンスが良くてハイクオリティ」というイメージに加え「流行の最先端をいくかっこいいブランド」というイメージを確立させることに成功したのです。
実際に中国人の友人は、ユニクロは「お店に行けば、毎週新しい服があって、流行の最先端に出合える」ブランドだと言っていました。
躍進の理由③中国を軸に世界展開を目指す、柔軟な姿勢
中国事業の好調を受けて、ファーストリテイリングは「海外事業は各地域にCEOがいる。日本もローカルの一つとしてCEOを配置し、よりしっかりコミットしていく」と、日本事業にCEOを新たに据え、柳井正会長兼社長は、グローバル全体の経営にシフトしました。
このフラット且つ柔軟な姿勢こそが、ユニクロの強さの秘訣でしょう。伝統的な日系企業の多くは、どれだけ海外の売上比率が伸びていても、あくまで海外店舗のトップは日本であり、日本で成功したやり方を海外に輸出していくというスタイルにこだわります。
日本すらも、中国での成功事例をお手本にして、さらなる事業拡大を目指す、そんなユニクロの今後の動向には目が離せません。
今回は、中国で活躍する日本企業として、ユニクロ(ファーストリテイリング)をご紹介しました。日本のやり方にこだわらない柔軟な姿勢で、中国人の行動心理をよく理解した現地のチームによる徹底的なブランディングとマーケティングが成功の鍵と言えますね。次回は、ユニクロとはまた別の業界・規模で、中国で活躍する日本企業の別の事例をご紹介します!
・BtoC産業であれば、EC販売を中心としたオンライン・オフラインの販売導線を設計すべし
・中国人心理をよく理解したローカルチームによるブランディングとマーケティングの実施
・日本のやり方を輸出するスタイルではなく、現地のやり方への柔軟な姿勢が勝利の鍵!