原価率5割の激うまサンドイッチ。日本で食べられる所がないから店を作った【前編】

デリシャスな起業家たち/ 山本 海人

このごろ、既成の経営概念にとらわれず、新しい働き方や文化を生み出す魅力的な飲食店が次々と現れています。そんな飲食店を創り出す経営者インタビューシリーズ「デリシャスな起業家たち」。

今回登場するのは、渋谷にサンドイッチショップ「BUY ME STAND(バイミースタンド)」を2015年にオープンした山本海人さんです。

レトロなアメリカンダイナーのような店内。たっぷりのチーズがサンドされた、絶品のホットサンドイッチーーそこにしかない世界観が熱狂的に支持され、全国各地から若者が訪れる人気店となりました。現在バイミースタンドはフランチャイズを含めて、横浜、福岡、沖縄に展開。そして山本さんは、副業としてアパレルブランド「サノバチーズ」を運営しながら、他業態の店舗を開発しています。「アパレルの事業があるからこそ飲食業が成り立っている」と言う山本さん。いったいどんな思想のもとに、唯一無二のサンドイッチショップが生まれたのでしょうか。

女子が負い目なく食べられる、ジャンクなサンドイッチ

−−山本さんはどうして、サンドイッチショップ・BUY ME STAND(バイミースタンド)を開こうと思ったのですか。

日本にこうしたサンドイッチ屋がなかったからです。バイミースタンドで出しているのは、アメリカで言うところの「グリルドチーズサンド」。両面にバターを塗って、チーズを挟んでこんがり焼くサンドイッチです。2015年にバイミースタンドを始めた頃、グリルドチーズが食べられる場所って日本になかったんですよね。今もそんなにないと思います。

−−焼かない食パンで挟むサンドイッチや、トーストサンドはあるけれど、バターを塗って焼くサンドイッチはたしかにあまりないですね。

アメリカでは、子どもが大好きな超定番のサンドなんですよ。普通は、家で食べるものなんですよね。アメリカにいるときに食べてすごくおいしかったので、日本でも食べられたらいいなと思ったんです。

−−具材も、牛肉とオレンジとブルーチーズが入った「ブルーマンデー」や、豚肉とりんごとカマンベールチーズが入った「アップルチークス」など、他にはない食材の組み合わせでとてもおいしいです。

テーマは「女子が負い目なく食べられるジャンクフード」。チーズやバターたっぷりだから、結構ジャンクなんですけど、フルーツが入ってる分、ハンバーガーなどよりも罪悪感がないというか。で、飲食店は女性に人気が出たら男性も来ると思っていて。女性が好きそうなサンドを意識して作りました。

−−フルーツとしょっぱいものの組み合わせが好きなので、初めて食べたときに「なんておいしいんだ!」と感動しました。

それはよかったです。バイミースタンドのサンドイッチって、使うバターとチーズが高価だから、原価率がものすごく高いんです。5割くらいいってるかな。

−−道理でおいしいはずです。一般的に、飲食店の原価率は3割くらいですよね。

そうなんですよ。だから本当はこのサンドイッチ、2000円くらいで提供するべきなんです。まあでも、そんな高くすると敷居が高くなっちゃうな、と。この価格設定は、もうひとつの事業であるアパレルの収入がないと成り立ちませんね。

世界観を守るためお好み焼きは禁止。りんごをかじってほしい

−−バイミースタンド渋谷店の2階奥には、山本さんがやってらっしゃるブランド「サノバチーズ」の服が並べられていますね。お店の内装もすごくかっこいいです。

内装は、建築家と組んで全部自分たちでやってるんですよ。インテリアや小物も、いろんなところから自分で買い付けてきました。照明とか、値札ついてるでしょう? これ、全部売ってるんです。店がショールームにもなっているという。サノバチーズの服を置いてるビリヤード台も、普通に使えるんですよ。

−−どういうコンセプトで内装をつくられたんですか?

僕、この店を始める少し前に、目黒通りの近くにトレーラーハウスを置いて住んでいたんです。テラスにスケートボードをするためのプールを作ったりして、人が結構集まる場所になってました。

−−トレーラーハウスって、アメリカの映画とかによく出てくる移動式の住居ですよね。

そうそう。この店を作ったのがトレーラーハウスから引っ越すタイミングだったから、似たような空間にしようと思ったんです。まあ、アメリカを再現するっていうか、日本にアメリカのダイナーを持ってきたような内装にしようと。だから、最初はスタッフも全員外国人だったんです。今は日本人スタッフのほうが多いですけどね。

−−以前訪れた際に、若い女性2人と相席したんです。彼女たちは地元からわざわざ新幹線で来たようで「本当に来てよかったね」と言いながら写真をたくさん撮っていましたよ。地方でも東京のおしゃれスポットとして認識されているんですね。

それはよかった。この渋谷の店はファッション誌の撮影場所として使われることも多いので、雑誌の写真と同じ構図で撮ってる子もよくいるみたいです。そうした憧れの場所であってほしいから、スタッフには日本っぽいことをしないでほしい、と思っていて。ディズニーランド並に世界観は守ってほしい。一度、サンドイッチを焼く鉄板でお好み焼きを焼こうとしてたので、止めました(笑)。

−−ソースとかつお節のにおいがしそう(笑)。それだけで一気に日本感が出てしまいますね。

日本語の歌をかけるのも禁止。カップ麺とかも食べてほしくない。お腹がすいたら、りんごとかかじっててほしい(笑)。だって、地方から来てくれる人は何時間もかけてやっとたどり着くわけですよ。それで興ざめするようなことがあったら、申し訳ないですよね。

追い出されるように行ったアメリカで、寿司屋の修行を

−−先程おっしゃっていましたが、山本さんは以前アメリカに住んでいらっしゃったんですね。

はい。18歳から23歳までいました。父親が厳しくて、高校卒業したら自衛隊に入るかアメリカへ行くかどちらか選べって言われて。

−−なぜそんな究極の二択を(笑)。

このままだと息子がだめになるって思ったんじゃないですかね……って自分のことですけど。父は原宿で結構有名なアパレルのショップをやってて。今でもめっちゃこわい人です。

アメリカは最初、超つまんないとこだなと思いました。東京のほうがおもしろいじゃんって。ボストンとかシアトルにいたんですけど、夜は店がしまっちゃうし、自分は英語をしゃべれないし。差別されることもありましたし、結構タフな生活でしたね。あの世界では何かをしていないと評価されないんだ、と早めに気づけたのはよかったと思います。

−−当時、学校などへは通っていたんですか?

最初は語学学校に行ってましたけど、なんとなく行かなくなって。そこからは寿司屋のバイトとかしてました。

−−お寿司を握ってたんですか?

いやあ、5年勤めて巻物までしかいけなかったですね。1年目は皿洗いとシャリづくり、2年目はサラダバーと盛り付け、3年目はグリル、4年目は下ごしらえや巻物を任せてもらえるんですけど、板場につくのが5年目からで。しかもお客さんがついてないと板場には立てないんですよ。

−−ちゃんとしたお寿司屋さんだったんですね。

料理人の修行は厳しいけど、寿司屋としてちゃんとしてたかどうかはわからないですね。ブラックライトでイカを光らせたりしてたし(笑)。

−−アメリカで一旗揚げてやろう、みたいな気持ちにはならなかったんですか?

一旗っていうか、寿司屋のバイト以外でも稼いでました。家を貸したりとか、アメリカでしか売ってないスニーカーを買って日本に売ったりとか。稼ぐチャンスはいっぱいありましたね。こうしたら儲かりそう、みたいなことを考えるのが好きなんですよ。

−−ではその頃から商売をされていたんですね。アメリカから帰ってきてからは、何をなさったんですか?

ドーナツ屋の深夜バイトをしたあと、3年くらい企画会社に勤めました。その会社はすごく変わってて、200万円の売上つくってこい、みたいな指示しか出されなかったんですよ。何をやるかはその人次第。焼き鳥屋をやってる人もいれば、服を作って売ってる人もいましたね。そこで、アパレルの仕事を始めたんです。

−−すごい会社ですね。

いろんなことをやってたら、結構売上が出るんですよ。で、200万円以上粗利で儲けられるようになると、ぶっちゃけ25万円くらいの月給で働くのがバカバカしくなっちゃうんですよね。

−−その会社、社員がどんどん辞めてしまうのでは……。

と思いますよね。でも、社長がこわくて容易に辞められないんです(笑)。その会社は自分の顧客とつながったまま辞めるのが許されなかったんですけど、僕は例外的にクライアントだった芸能事務所に転職して、そこから仕事をたくさん発注したので許されました。

ドーナツ屋をやるつもりが、サンドイッチ屋に

−−なるほど(笑)。トレーラーハウスに住み始めたのはその頃ですか?

はい、芸能事務所で働いているときです。もともとは、トレーラーハウスでサンドイッチ屋をやろうと思ってたんです。そのショップのグッズとしてTシャツとかを作ろうかなと。それがブランド「サノバチーズ」の原型です。でも、保健所からなかなかサンドイッチ屋をやる許可が下りなくて、アパレルの事業が先に始まりました。
さらにいうと、本当は渋谷のバイミースタンドの店舗って、ドーナツ屋をやるために借りたんですよ。

−−え、そうだったんですか。

ポートランドの「Voodoo Doughnut(ブードゥー・ドーナツ)」というお店とライセンス契約して、日本展開しようと思ってたんです。ブードゥー・ドーナツはポートランドですごく人気があって、呪いの人形のドーナツの中に真っ赤なラズベリージャムを入れたり、甘いドーナツの上にかりかりベーコンをのせたり、変わったドーナツばっかり売っていておもしろいんです。

−−ブードゥーって、アフリカなどの地域で信じられている「ブードゥー教」からきてるんですね。それは呪いの人形のドーナツもありますね……。

で、日本ではまず物件に契約のお金を入れてから、その物件の細かいことを聞くっていう順序じゃないですか。お金を払ってから調べてみたら、この物件にはドーナツを作る本格的な機械を入れることができなかったんです。ライセンスをとるのにも、国際弁護士など入れてやり取りしてたので100万円くらいかかったんですが、なんと契約後に営業することができないっていうオチがついて。

−−うわあ、飲食店はやっぱり初期投資が大きいですね。

オープンしたら絶対回収できる予定だったんですけどね。それでドーナツは作れないから、グリルドチーズのサンドイッチをやることにしたんです。グリルドチーズは焼くための鉄板があればできるし、具材を挟んで焼いて切るだけだから自分で作れるんで。

−−もうブードゥー・ドーナツの店舗を開こうという気持ちはないですか?

いやあ、今はそういう感じのドーナツ屋が日本に入ってきちゃってるんですよ。あと、ここ数年で写真映えする食べ物も当たり前になってきたから、出すなら違う業態の店がいいでしょうね。