第19投・アートって興味ありますか?
アートには興味がありますか?
イチロー
例えば、美術館とか博物館とかには独特の空気があって、張り詰めた感じが、ちょっとあるじゃないですか。あれが苦手なんですよ。
イチロー
なんかしたくなるんですよね。いらんことしたくなるんですよ。
だから、うちの妻は僕と二度と行ってくれないと思います。
イチロー
僕のプレーを見たときにアメリカの新聞が「アートだ」って言ってくれたことがあって。それがすごく嬉しかったですね。僕自身がそうなれるというのは、一番のほめ言葉なんですよね。
イチロー
それは野球選手としては、一番うれしかったことです。
第20投・自伝に興味はありますか?
いろんな出版社から話がくると思いますけれど、興味はあんまりないですか?
イチロー
それだと僕が書かないといけないじゃないですか。
イチロー
そこはそうか。
イチロー
ない方がいいんじゃないですか。だって結局、それなりに頑張ってきたのに、これぐらいに収められたら、ちっちゃい男だなって。
イチロー
それは、なかったらないですからね、そんな幅は。
こんな本を出すわけにはいかないし、かといって、これはさみしいし。
イチロー
だったらない方が、なんとなくそれこそ人の想像で、これ、そろそろ終わりかという感じも嫌になるんですよね。こんな分厚くして、これぐらいはもう何も書いてない、白紙でやってもいいかなと。
イチロー
終わりが見えてくるさみしさというのは、本にはあると思うんですよね。
第21投・若い世代に感じることはありますか?
若い子が、やりたいことがないという人、結構いるんですよね。
イチロー
「じゃあ、そのまま生きていけ」と言うかな。そうしたら見つかるかもしれない。
「いつしかやらなきゃ」って、それを待つしかないんじゃないですかね。
イチロー
押し付けられるのがすごく嫌な世代だと思うので、自分で考えて、何かが生まれてこないと解決しないと思うんですよね。
イチロー
自分がある程度「年齢を重ねたな」と感じることは、昔は高校野球を観ていても、すごくお兄さんに見えたのに、ある時から、えらい子供に見えてきて。大学生もそうで、社会人もそうで。
イチロー
プロ野球選手がすごく大人に見えていたのが、今はすごく子供に見えて。メジャーもそうなんですけれど、アメリカの選手達はとんでもないやつらばかりだなと思っていたのが、ある時からそうでもないなと思いだして。
イチロー
そういう感覚は自分が歳を重ねてきたんだな、という証だと思うんですよね。
いずれは警察官とか、政治家さんとか、あの辺まで子供に見えてきたら、僕はもう死ぬでしょうね。
第22投・どんな人を応援したいですか?
学校を作る人とかもいますけど、そういうことはどうですか?
イチロー
具体的にできるかできないかではなくて、それはいいなと思います。
イチロー
結局、人が色んなものを作っていくわけですから。その優秀で心のある人が、育っていったらうれしいですね。
イチロー
今は、テクニックばかりで心がないんですよ、野球も。つまらないんですよ、その意味で。
イチロー
これから先は、そこなんじゃないか。人間の心、心にみんなやっぱり……。
技術に感動するけど、やっぱり、人ですからね。そういうものが失われつつあるのはすごく……。
最終投・理想の人生はどんなものですか?
イチロー
僕、死に顔を見られたくないので、そこは遺言に残しておこうかと思っています。
イチロー
嫌じゃないですか、見られたくないですよ。こうやって、やっているのをうつ伏せにしてくれと言っているんですよ。開けたら後頭部で、人がやっていないことだろうし。
イチロー
今後はもう描きたくないなと思っているんですよ。だから、理想というものをイメージしないで、終わったときにどうなっているかをみてみようと、そんなスタンスで生きられたらなと思っています。
イチロー
そうですね、はい。やっぱり、これまできっちりそうやってきて、それは楽なことではなかったですから。
イチロー
これからはその必要がないので、その楽に生きるという意味ではないんですけれど、結果として出るものを楽しみにしている……そんなスタンスですかね。
イチロー
ときめきをちょっと探しつつ、生きていきたいと思います。