「もみ合い上放れ」で上昇トレンドに乗る

チャート分析キホンのキ/ 小泉 秀希とんぼせんせい

ちょっとコツを押さえるだけで大きな武器になる株価チャート。そんなチャートのキホンを紐解く本連載の第4回は、「もみ合い上放れ」で上昇トレンドに乗る方法について解説します。良い「上放れ」と悪い「上放れ」さえ見分けられれば、あなたの投資の成功確率がグンと上がるかもしれません。

最も有効な2つの基本戦略

前回までの連載で、株価チャートを使いこなすための基礎知識がそろいました。その基礎知識を使って、今回からはいよいよ実践的な戦略についてお話していきます。

株価チャートを使ったトレード戦略はじつにさまざまなものが存在しますが、そんな中で、昔から投資家たちに愛用され続け、いまだに高い有効性を誇るシンプルな戦略を2つご紹介します。

基本戦略① 「もみ合い上放れ」を買う
基本戦略② 「上昇トレンドの押し目」を買う

「もみ合い上放れ」とは横ばいの動き(もみ合い)から上昇し始めるタイミングで買う戦略であり、「上昇トレンドの押し目」とは上昇トレンドの中の一時的な下落場面を買う戦略です。

どちらもきわめてシンプルなパターンです。しかし、どちらもじつは奥深さがあり、コツをつかんで使いこなすほどに強力な武器になっていきます。今回は基本戦略①「もみ合い上放れを買う」のコツをご紹介します。

「もみ合い上放れ」戦略の成功確率が高まる条件

「もみ合い上放れ」戦略を成功させるコツは、移動平均線が収れんするほど十分にもみ合ったのを確認してから買う、ということです。2つの事例でそれを見てみましょう。

東亜バルブもパウダーテックも、もみ合いが続いた後に鮮やかな上昇の動きになっています。

東亜バルブエンジニアリング 」は発電所で使う高性能なバルブの製造と保守を行っている会社です。国内の原子力発電所は将来的に縮小していく見通しですが、再生可能エネルギーを利用する発電所や海外向けが伸びています。

パウダーテック 」は高性能な複写機や電子写真機のトナーに混ぜて使う「キャリア」という粉状の材料において世界で7割ほどのシェアを持つニッチトップ企業です。最近では電磁波シールドで5G関連としても注目されてきています。

どちらの会社も、好業績にも関わらずPER10倍以下、PBR1倍以下で放置されていて長い間もみ合いを続けていました。しかし業績見通しの上方修正をきっかけに、鮮やかに上放れする動きになりました。独自の技術・ノウハウを持ち、好業績であるにも関わらず、PERやPBRなどの面で割安な状態を続けていたのです。

チャート面での共通点は、もみ合いの動きが十分に長く続いていました。
もみ合いの動きが十分長く続くと、株を売りたい人たちがほとんど売ってしまい、売りの圧力が弱くなります。そのため、上昇し始めた時にスルスルと上昇しやすくなる、という点が指摘できます。

一般的には半年以上のもみ合いが続くと、その後上放れの動きが起きた時にスルスル上昇しやすくなります。「半年以上のもみ合い」は移動平均線からすぐに読み取れます。先ほど紹介した東亜バルブ、パウダーテックともに13週移動平均線と26週移動平均線と株価が収れんしてきていることがわかります。

収れんするというのは、横ばいになってくっついていくことです。これが、「十分にもみ合いが続いた」ことのサインになると考えられます。こうした状態から上放れが起きると、比較的スムーズに上昇しやすくなると考えられます。

良い「もみ合い上放れ」と悪い「もみ合い上放れ」の見わけ方

プラッツ 」は医療・介護用ベッドを製造しています。業界の中では後発の企業ながら、低価格を武器に成長中であり、在宅用ベッドでは国内シェア30%を獲得しています。

プラッツの株価チャートは先の2例ほどきれいな形ではありませんが、半年ほどのもみ合いがあり、Bの地点で力強く上放れの動きが出現して、上昇トレンドに乗りました。一方、Aの地点でももみ合いからの上放れの形になりましたが、この時には上昇が短期間で終わり、その後大きく下落してしまいました。

AとBの違いはどこにあるのでしょうか。
A地点ではもみ合いが時間的に短く、移動平均線と株価が収れんするどころかバラバラです。特に13週移動平均線が下向きになってきて、売りが増えていることがわかります。こうした状態で上放れの動きになっても、その後なかなかスムーズには上昇できません。

一方でB地点では、半年以上もみ合いが続き、移動平均線と株価が収れんし、さらに、2つの移動平均線がともに少し上向きかけています。もみ合いが十分につづいて需給状態が良くなっていることが感じられます。こうした状態が上放れをしたため、その後比較的スムーズに上昇トレンドに入れたのではないかと考えられます。

以上のように、一見単純に見える「もみ合い上放れ」の戦略も、その成功確率を高めるコツがあるのです。こうしたコツを踏まえながら経験を積んでいくことで、シンプルな戦略がどんどん研ぎ澄まされて、切れ味抜群になってきます。

次回は、基本戦略②「上昇トレンドの押し目」買いの戦略について、成功確率を高めるコツを見ていきます。

<まとめ>
・昔から愛用されているチャート分析の基本戦略は、①「もみ合い上放れ」を買う、②「上昇トレンドの押し目」を買う、の2種類がある
・「もみ合い上放れ」を買う戦略では、半年以上のもみ合いを確認してから買う
・もみ合い期間が短いと、上昇トレンドに転じなかったり、下げトレンドが続くケースもあるので見極めが大切
本記事は、チャート分析を解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。