日本人の勝算

今日からお金賢者になれる「1分書評」/ 日興フロッギー編集部

自己啓発書でもないのに、心が燃えます。日本人全員が読んだ方がいいのでは? とすら思えます。お金賢者になるために、投資対象としての日本をこうした側面から考えるのもありでしょう。在日30年以上、伝説のアナリストによる日本経済への警鐘と再生のための書。

日本人の勝算は「最低賃金の引き上げ」にしかない!?

2060年までに日本の人口は4000万人ほど減ります。これは「かつて誰も経験したことがないレベルの急激な人口減少」であると同時に「どの国も経験したことがないレベルの高齢化社会」に突入します。

このままではGDPの成長を維持できず、経済のシュリンクは必須! 「大好きな日本が三流先進国になってしまう」と危機感を覚えたイギリス人の著者が海外の論文にあたり、「勝算」を導き出したのが本書になります。

キモは「生産性の向上」と、それを実現するための「最低賃金の引き上げ」。

評価機関のランキングによると、日本の労働者の質は世界第4位、これは先進国のトップです。なのに、最低賃金は先進国の最低レベル。「本来あるべき賃金の3分の2程度!」だと著者は驚愕します。読者もビックリしますよね。そのためか、日本の生産性は世界第28位と残念なポジションとなっています。

「正当な評価=最低賃金の引き上げ」こそが人を動かし、生産性につながるというのが著者の論。「雇用に悪影響があるのでは」という疑問には、イギリスの例(10年ほどで最低賃金を倍に→失業者は減り、所得格差も縮小)を引き出し、これを一蹴します。

その上で、「どの程度の引き上げ率がベストなのか」「舵を取るべきは誰か」、はたまた賃金引き上げにより地方創生や女性の活躍、少子化対策、消費はどう変わるかまでを予測します。その細かさたるや「国はこのまま使えばいいのでは?」というほどのレベル。かつ言葉が丁寧なので、経済オンチでも置いてけぼりになることはありません。

警鐘を鳴らす系の書籍は「どこかで見聞きしたような展開」に落ち着きがちですが、本書に既視感はなし。むしろ、日本の学者が触れないような話ばかりで「こんな考え方があったのか!」と素直に感動できます。今そこにある危機が新たなチャンスに思えてくる本でもあります。