「お客さまの反応を見て商品名は『プチッと鍋』しかないと思ったんです」【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部

「1プチッと1人前!」ーー2013年に発売し、「個食鍋」という新ニーズを開拓した鍋物調味料の『プチッと鍋』。ガムシロップなどに使われるポーション容器を調味料で使ったこともユーザーの目を引いて、エバラ食品工業の主力商品に成長中だ。開発の中心的存在だった同社・現マーケティング部の伊藤史子さんにヒットの裏側を聞いた。
「『平日だって鍋を食べたい』、お客様の声が『個食鍋』という市場につながったんです」【前編】を読む

「あったらいいな」を実現した『プチッと鍋』

――試行錯誤ののち、2013年8月に『プチッと鍋』(寄せ鍋、キムチ鍋、白湯鍋)シリーズを発売しました。鍋つゆ市場では「年間5億円で大ヒット」と言われるところ、初年度で売上高9億円、2年目でその倍の18億円に。個食鍋のニーズを捉えたわけですが、ヒットは予想通りでしたか?

実をいえば、ここまでのヒットになるとは誰も予想していませんでした(笑)。初年度の目標数字は3億円程度であり、あやうく欠品するところだったとも聞いています。

リモート取材に答える伊藤さん

消費者の「鍋をもっといろんなシーンで食べたい!」というニーズは想像以上に強かったんですね。これまでニーズを満たす商品がなかったために、そうした思いに気づけなかっただけかもしれません。鍋に関する意識調査を実施した時に「ストレートパウチを1回で使い切れないから冷蔵庫で保存し、数度に分けて使っている」と回答した方がいらっしゃったんです。これ、本当は衛生的にNGなんですけど(笑)、『プチッと鍋』ではお客様が求めていたような、「あったらいいな」を届けることができたんだと実感しましたね。

13年8月に発売した『プチッと鍋』の第一弾、3つのフレーバー。

――『プチッと鍋』というネーミングも印象に残りやすいです。現在消費者の認知度も7割と競合他社のブランドと比べても圧倒的に高いですが、発売前は賛否両論だったとも。

弊社の代表的な商品といえば『焼肉のたれ』や『すき焼のたれ』『浅漬けの素』といったメニュー名がそのまま商品名になっているものです。それと比べると『プチッと鍋』は少々違和感があったというか、会社的になじみのないタイプだったのではないかと思います。

一方で、お客さまの反応は高かったんです。

私もグループインタビューに立ち会いましたが、ネーミングは『プチッと鍋』で決まりだなと、ものの数分で確信しました。

『プチッと鍋』のような新カテゴリーの商品を出す時は必ず消費者の方にお話を聞く機会を設けます。この時も主婦層を中心に複数回のグループインタビューを実施して、商品のコンセプトやネーミングのボードをお見せしながら自由にお話いただきました。ただ、経験上、商品名をお伝えしてもインタビュー中に反応する方はほとんどいらっしゃいません。

ところが、この時は「そうそう! 『プチッと鍋』ね! まさにそんな感じ」といった声が挙がったのです。頭の中でコンセプトとネーミングがすぐに結びついたようで、インタビューの最中にも『プチッと鍋』の商品名を自発的に口にされる方がとても多かったんです。ネーミング案は複数ありましたが「これしかない」と思えた瞬間でした。

ヒットを受け、自社工場にポーション専用ラインを設置

――シリーズの大ヒットを受け、16年1月には自社工場に『プチッと鍋』(ポーション容器)専用のラインを設置。開発に関わった伊藤さん自身、印象深い出来事だったそうですが。

食品メーカーに入った醍醐味を感じた瞬間でもありましたね。

前編で触れましたが、発売当初は自社にポーション容器のラインはなく、ガムシロップなどを製造している協力工場に生産をお願いしていました。当時は口にこそしなかったものの、「いつか自社工場にポーションラインが持てたらいいのに」と思っていたところはあって(笑)。携わった商品が自社でラインを持つまでに成長したのは本当に嬉しかったです。

エバラ食品の栃木工場にあるポーション専用ライン

同時期には自社オリジナルの40mlポーション容器も開発しています。当初から展開していた20mlに加え、新たなサイズを展開することで商品の幅は格段に広がりました。

というのも、20ml限定となると品質に縛りがあって。味噌や練りごまなどの原料は粘度が高く、その容器サイズですと、なかなかスムーズに出てきません。商品開発においてはおいしさの追求だけではなく、調理の際の使い勝手まで考える必要があります。「スルッと出てこない」「底の方に液が残る」となれば消費者のストレスにもなる。倍量の40mlポーション容器があれば、使える原料もグッと広がります。

現在は『担々ごま鍋』や『濃厚みそ鍋』などを40mlで展開しています。

鍋以外のレシピにも使えるのも強み

ーー『プチッと鍋』シリーズは今秋発売した『あさりとホタテの旨塩鍋』を含め、現在10商品のラインナップです。ポーション調味料としては『プチッと鍋』以外にもうどんやステーキソースなどに横展開し、19年度は総計37億円の売上をマークしました。

ポーション調味料には『プチッとうどん』や『プチッとステーキ』などもありますが、売上面では『プチッと鍋』シリーズの構成比が高いのが現状です。理由は汎用性の違いでしょうか。商品名になっているメニューでしか使えないと思われるのか、ほかの料理にも使いまわしが利くと思われるのか、その差が出たのかなと分析しています。

『プチッと鍋』の場合、鍋はもちろん、スープや麺のつゆ、炒め物や炊き込みご飯などさまざまなメニューの味付けに応用できます。キャンプやバーベキューなどのアウトドアでお使いいただく方もいらっしゃいます。秋冬だけでなく、さまざまな汎用メニューで通年使える商品としての位置づけを引き続き強化していきたいですね。

ポーション調味料のラインナップはうどんやハンバーグまで

一方、課題もありまして「1人用の鍋つゆだから、うちには関係ない」というお客様の声もお聞きします。発売して8年目になりますが、今でも「『プチッと鍋』=一人鍋」というイメージを抱いている方が一定数いらっしゃるんです。

個食鍋といっても、われわれとしては一人鍋に絞り込んでいるわけではありません。容器こそ「1人分ずつ小分け」になっているものの、お子さまと2人の時にお使いいただいてもいいですし、ご家族3人で鍋を囲むこともできます。1袋につき4個から6個のポーションが入っておりますので人数に合わせてお使いいただければと。そこは伝えきれていないところなので価値をしっかりと訴求していきたいですね。

開発者よりも詳しい『プチッと鍋』ファンに支えられて

――『プチッと鍋』の登場により、「休日に家族みんなで味わうメニュー」だった鍋料理が、「平日でも、使いたい人数に合わせて、食べたいときに手軽に味わえるメニュー」へと変化しました。改めて、商品開発を振り返って思うことはなんでしょうか?

エバラ食品には創業以来、『冒険、反論、失敗の自由』という行動指針があります。『プチッと鍋』のように、メーカーとして新たなカテゴリーや市場を創出する商品を世に送り出すには不安がつきものです。

営業はもちろん、現場のわれわれ自身も「絶対売れます!」と言い切ることはできません。ただただお客様の声を信じることで不安を拭い去り、発売へと突き進んでいった。そのプロセスを振り返ると「冒険」という言葉が一番しっくりするかもしれません。

開発者としてありがたく思うのはこの商品を繰り返し購入していただき、私たちよりも『プチッと鍋』に詳しいコアなファンができたこと。また、お客様相談室などを経由して「ふだん、料理をあまり作らないけど『プチッと鍋』で初めて鍋を作ってみました!」という声や「自分にとってはもはや『プチッと鍋』がおふくろの味」といった学生さんの話もたくさん届いています。そうした声の一つ一つがすごく嬉しいんです。

新規性と親近感を両立させながら、味わいや使い勝手のよさをもっと進化させたいと思っています。『プチッと鍋』の目指すところは「通年使える鍋物調味料から、何にでも使える万能調味料的な位置づけへ」。汎用メニューを拡充することで『プチッと鍋』の使用シーンをもっともっと増やし、これからも消費者の方に愛着を持っていただけるようなブランドに育てていきたいですね。
エバラ食品工業