「10秒チャージ」で知られる、森永製菓「inゼリー」。忙しい時の食事や、風邪を引いた時の栄養補給として、買ったことがある方も多いでしょう。1994年に「ゼリー飲料」のパイオニアとして登場してから、26年。幅広いニーズを受け止める商品は、どうつくられているのでしょうか。同社が力を入れている健康事業の柱となる「inゼリー」を担当する健康マーケティング部の榎本浩二さんにヒットの裏側を聞いた。
26年、トップを走る
直近では、2019年に過去最高の売上を記録しました。同年の7月は記録的な冷夏になり、本来は最もニーズがある夏に苦戦したのですが、それでも通年で売上を伸ばすことができました。
近年の施策により、「inゼリー」の“強み”を、うまく引き出せているからだと思います。それは一言でいうと、「飲用シーンの幅広さ」です。
例えば、スポーツで体を鍛えるときの栄養補助や、最近増えている熱中症などへの対策。病気で体調を崩したときの食事代替や、受験勉強など大切な場面でのエネルギーチャージ。さらに最近は、災害時の非常食や、妊婦さんやダイエットされている方の体調管理にもお役立ていただいているようです。
時代のニーズは、強く意識しています。近年でいえば、健康・栄養意識の高まりや、食事を簡単に済ませたいというニーズを踏まえて、新商品を開発しています。
その際、スポーツの後には「エネルギー」や「プロテイン」の「inゼリー」、体調管理には「ビタミン」や「ミネラル」の「inゼリー」というように、商品とシーンを結びつけてご提案しています。こうした販売促進を続けてきた結果、売上を伸ばせているのでしょう。
これほど老若男女にかかわらず、あらゆる場所で使われる商品というのは、珍しい。ライフスタイルが多様化する現代において、「inゼリー」は、1つ1つのニーズにきめ細かく応えるポテンシャルがあると思います。
新商品は「考えるためのエネルギー」にフォーカス
「ブドウ糖」の「inゼリー」です。これまで、「inゼリー」は身体を動かすためのエネルギーや栄養補給をお手伝いしてきました。一方、「ブドウ糖」は脳のエネルギーと呼ばれ、集中したいとき、頭を使うときの活動をサポートすると言われています。
「働き方改革」で仕事の効率化が求められるなど、最近は身体を動かすエネルギーだけでなく、考えるためのエネルギーも重要視されるようになっています。こうした流れを受けて、2018年から「ブドウ糖」入りの「inゼリー」の開発をスタートし、2019年3月からセブン−イレブン様限定で発売しました。
また今年に入ってからは、新型コロナウイルスの流行によって、多くの会社が在宅ワークを取り入れました。ずっと家にいることで身体の活動量が減り、長い間パソコンに向かって頭を使うという方が、急増したのです。
そんな状況も手伝ってか、お客様の反応を見ると、とてもいい。9月下旬から全国で発売しましたが、新たな働き方が定着していく先々に向けて注目の商品です。
数字と観察、両方が大事
いえ、実はこの4月に担当になったばかりです。その前は「甘酒」や「ココア」の営業・マーケティングを担当していました。異動が決まった時は、プレッシャーを感じましたね。
当社は今、将来を見据えて健康事業に力を入れています。「inゼリー」はその柱となる商品で、社内で動向が注目されているからです。大変なブランドを預かることになったなあと思っていたところに、新型コロナウイルスの流行が重なって……。
ええ、どうなるんだろうかと、いろいろ思いを馳せました。実際に担当になってみると、あらためて「inゼリー」の「飲用シーンの幅広さ」を実感しました。大変ではありますが、商品がもつポテンシャルに助けられています。
はい。ステイホームで働き方が変わり、「inゼリー」のニーズにも変化が出ました。今までは、通勤中にコンビニで買って、朝ごはん代わりにするというニーズが多くありましたが、これは減っています。
代わりに増えたのが、家での利用です。典型的なのが、オンライン会議の合間にエネルギーをチャージするニーズ。また、最近はステイホームでの体重増加に悩む方が増えています。そんな中、自宅で筋トレを始めた方の栄養補助や、カロリーコントロールのために使うというニーズも増えています。
減ったニーズは仕方ないとして、着目すべきは新しく生まれたニーズです。人々の動向をしっかり見ながらニーズを掘り起こし、チャンスを逃さないようにしなくてはいけません。
まず大事なのが、データの推移を見ることです。POSデータ(編集部註:商品の売上実績データ)から、自社で独自に行っている経年調査まで、あらゆるデータに目を通し、どんな場所でいつ、どんな方々にどのくらい売れているのか、その変化を見ます。
そして、なぜ変化が起きているのかを、チームでディスカッションする。その際、数字だけじゃなく、身近な人たちから得た情報や、自ら見聞きして集めた情報も参考にしながら、仮説を立てて考えます。
私はよくジョギングをしますが、その時に必ず周囲を見渡し、同じように走っている人がどんな栄養補給、水分補給をするのかを観察しています。家族や友達など、身近な人に「inゼリー」について聞いたりもします。
こういうことって結構大事です。今の開発メンバーは20代、30代、40代の3人なので、それぞれが情報を集めると、バランスよくいろんな意見が集まるんですよね。
「inゼリー」はゼリー飲料のパイオニアであり、発売以来、トップシェアを保っています。そんなわれわれが、競合に遅れてはいけない。いい意味での緊張感をもちながら、新しいニーズをつかんでどんどん前に進めていこうというのは、チームのみんなも同じ気持ちだと思います。