「10秒チャージ」で知られる、森永製菓「inゼリー」。忙しい時の食事や、風邪を引いた時の栄養補給として、買ったことがある方も多いでしょう。1994年に「ゼリー飲料」のパイオニアとして登場してから、26年。幅広いニーズを受け止める商品は、どうつくられているのでしょうか。同社が力を入れている健康事業の柱となる「inゼリー」を担当する健康マーケティング部の榎本浩二さんにヒットの裏側を聞いた。
コロナ禍で担当になった「inゼリー」、飲用シーンの幅広さに救われました【前編】を読む
2回のイメージチェンジが成功
いえ、最初はアスリート向けに発売されていました。開発のきっかけは、当社が1983年に健康事業部を立ち上げたこと。多くのアスリートと関わり、栄養面等のサポートを続けながら、スポーツ向け栄養補助食の可能性を探っていったと聞いています。
その過程でアスリートのニーズを探ると、「簡単に栄養が補給でき、満足感も得られて、すぐに運動できる」食品を求めていることがわかりました。そこでニーズに合う商品を試行錯誤し、「ゼリー飲料」という新しい形態にたどり着いたのです。
それまでにない商品として、世の中に衝撃を与えました。アルミパウチ容器で「ゼリーを飲む」スタイル、簡単に栄養をとるというコンセプト、銀色のパッケージデザイン。どれをとっても、「inゼリー」は画期的でした。
転機は、2回ありました。
最初は、1995年です。「inゼリー」は画期的な商品として話題になったものの、アスリートだけではいずれ売上が頭打ちになる。そこで96年に、「10秒でとれる朝ごはん」というキャッチコピーを使い、忙しい人向けの朝食代替という利用方法を提案したのです。
ここでアスリート以外の一般の方々にも利用が広がり、売上が前年比300%にまで伸びました。しかし今度は、「朝食」というニーズに縛られ、それ以外の用途を狭めてしまいました。
そこで、再度イメージを変えるために、キャッチコピーを見直しました。朝食だけでなく、会議の合間や大切な本番の直前など、エネルギーをチャージしたい状況を、より幅広くイメージしていただく。幅広い層に届けるために、「10秒チャージ」というキャッチコピーに変更しました。1999年に放送されたCMでは、木村拓哉さんを起用しています。
ここでさらに売上が伸び、前年比140%になりました。その後は、時代のニーズに合わせてどんどん新しい商品を展開し、トライアンドエラーを繰り返しながら現在に至ります。「inゼリー」が定番商品に育った歴史は、「飲用シーンを広げる」ための試行錯誤だったといえます。
販売チャネルも幅広い
そうですね。飲用シーンが多いと同時に、販売チャネルが多岐にわたるのも、「inゼリー」の特徴です。主要なチャネルとしては、スーパー、コンビニエンスストアのほか、駅の売店やドラッグストアがあります。特にコンビニは、「10秒チャージ」をうたう「inゼリー」の利便性と相性がいい。
スーパーでは、定番のゼリー飲料の売場だけでなく、できるだけいろんな場所に置いてもらうよう努力しています。例えば、パン売場や総菜売場なら、手軽な栄養補給をしたい方。健康食品売場なら、栄養バランスを考える方にアクセスできて、ご購入いただけるかもしれません。
そのほか、スポーツ店やフィットネスクラブ、ゴルフ場、オフィスや学校、病院の売店等でも展開しています。これらの売上のボリュームは多くないですが、多様なニーズに応えるために重要なチャネルです。
お使いいただくシーンが増えれば、その都度、チャネルの開拓も必要です。2019年に発売した、ゲーマー向けの「inゼリー GAME BOOSTER」の場合は、彼らにとって身近なチャネルであるAmazonでの限定発売としました。
そうですね。現場に裁量が与えられているので、日々、トライアンドエラーを繰り返しています。もちろん思いつきではダメで、しっかりと考えた上ですが、こうしようと決めたことはスピード感をもって挑戦できる環境です。
「日本初」を生んできた社風
私の個人的な意見ですが、これまでお話してきた「時代の一歩先をいく」「inゼリー」の先進性は、当社の歴史と重なるところがあると思います。
当社の創業は、1899年。まだ日本に西洋菓子文化がなかった時代に、おいしくて栄養価の高いお菓子を子供達に提供しようと、創業者の森永太一郎が挑戦したことが始まりです。そこから箱入りキャラメルや、カカオ豆から一貫製造したチョコレート、飲用ココアなど、数々の「日本初」の商品を生み出してきました。
商品だけではありません。先取りの気風は、組織や働き方にも通じます。菓子業界でいち早く提案型営業を取り入れたり、新しい領域を開拓していくのための部署を立ち上げたり、時代に合わせた施策を積極的に行っています。
テレワークも早くから取り入れていたので、新型コロナ流行の際も、比較的スムーズに在宅作業に切り替えられました。
はい。社風が色濃く出ているのが、「inゼリー」だと思います。創業からのDNAのようなものを、この会社で働いていると感じます。コロナ禍で大変な中、新しい提案をできているのも、そんな社風に後押しされているのかもしれません。
実は、私が当社に入社した動機のひとつに、「inゼリー」があるんです。就職活動をしていたころ、ちょうど木村拓哉さんのCMが流れていて……。健康に対する先進的な取り組みや、パイオニアとしての「inゼリー」のかっこよさにあこがれて、入社を志望しました。ですから担当として、このブランドをもっと盛り上げたい気持ちは強いですね。
いま課題だと思っているのは、飲用シーンが幅広いとはいえ、まだまだお客様の構成比を見ると「働き盛りの男性」が多いこと。女性やお子様にもっと飲んでいただく余地があるかなと思いますし、高齢者の方々にももっと活用していただきたい。
人間は誰もが飲食をしますよね。そういう意味では、あらゆる層の方に「inゼリー」の潜在需要があると思っています。老若男女、みなさんのニーズに応えられるよう、これからも頑張りたいですね。