次の挑戦は、ホット市場。 「冬こそむぎ茶」を当たり前にしたい【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部

笑福亭鶴瓶さんのCMでおなじみの「健康ミネラルむぎ茶」。夏の暑さ対策を訴えて売上を伸ばした同商品が、次に挑戦しようとしているのが、「ホット」の領域です。「冬こそむぎ茶」というコンセプトは、人々に根付くのでしょうか? 開発の苦労と思いを、伊藤園マーケティング本部麦茶・紅茶ブランドグループブランドマネジャーの相澤治さんに聞きました。
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秋冬が予想外に伸びていた

――前回は、「健康ミネラルむぎ茶」が近年の暑さ対策のニーズを先取りし、むぎ茶市場の拡大を牽引したお話を伺いました。さらにこの秋冬に、新しい挑戦をなさるそうですね。

はい、満を持して「健康ミネラルむぎ茶」のホットを開発しました。9月7日に全国で発売され、手応えを感じています。

発売がスタートした「健康ミネラルむぎ茶」ホット対応商品

――むぎ茶といえば、夏。寒い時期に飲むのは、正直、ピンときませんが……。

そう思いがちですが、実はここ数年、「健康ミネラルむぎ茶」の売上は、夏だけではなく年間を通して増えていました。伸長率を見ると、春夏で+32%、秋冬が+37%と、むしろ秋冬の方が伸びているんですね。夏に「健康ミネラルむぎ茶」を飲んでくださった方が、そのまま秋冬も飲んでいらっしゃることが、数字に表れています。

「秋冬にもむぎ茶のニーズがあるのではないか」という考えは、以前からありました。むぎ茶のティーバッグを買ってくださるお客様から、時々「寒くなるとホットで飲んでいる」という声を聞いていたからです。実際、社内ではホットの商品化に向けてテスト販売も行っていました。

秋冬市場への挑戦を語る、相澤さん

秋冬は空気が乾燥するので、対策として水分補給が欠かせません。その際、ミネラル補給ができて、糖分やカフェインがゼロのむぎ茶を飲むのは体にいいので、ぜひ後押ししたい。そういう機運が高まり、いよいよ本格的にホットのむぎ茶を開発することになったのが、1年前のことでした。

――夏と同じむぎ茶を秋冬に売るという選択肢は、なかったのですか。

前回もお話しましたが、私どものむぎ茶は「ごくごく飲める美味しさ」「無糖」「ミネラル補給」という3つの軸にこだわっています。健康にいいだけではなく、味づくりが非常に重要なポイントです。

そこでホットの味についてお客様に伺ってみると、夏とちがって、秋冬は「じっくり甘さを感じる味がいい」とおっしゃる方が多い。その味をどうすれば実現できるのか。ホット専用の味づくりは、一からの挑戦でした。

香ばしさと甘さのベスト・バランス

――開発では、どこが大変でしたか。

通常の「健康ミネラルむぎ茶」は、「甘さ、香ばしさ、後味スッキリ」という3つの特徴があります。このうち「後味スッキリ」というのは、コールドに向いた味です。お客様の声にあったように、ホットでは、もっと後味に甘さが残るようにしたい。そのバランスを引き出すことが、最大の難関でした。

われわれマーケティング部がコンセプトをつくり、開発部がむぎ茶の「原料、焙煎、抽出」という3つの工程で何度も組み合わせを変えながら、試行錯誤しました。

後を引く甘さを引き出すポイントは、焙煎の方法にありました。開発部が研究を重ね、従来からある2つの焙煎方法の良いところを組み合わせることで、大麦の芯まで火が通り、しっかり甘さを引き出せる焙煎方法を編み出しました。「新・ふっくら焙煎」と名付けたこの方法は大成功で、香ばしさと後味に残る甘さのベスト・バランスを実現できたと自負しております。

ホットの味づくりは、麦の「焙煎」が決め手だった

寒い日に外で飲んでいただけるほか、ご自宅やオフィスではペットボトルのまま電子レンジで温めて飲むこともできます。この秋冬はまだまだ新型コロナウィルスの感染が心配されますので、お家で過ごす時間が増えることと思います。その際いつでも気軽に、温かいむぎ茶を召し上がっていただきたいですね。

「健康ミネラルむぎ茶」ホットのレンジ対応商品

――発売後の反響はいかがですか。

おかげさまで、予想以上の売上となっています。苦労した「香ばしくてじっくり甘い味」をご評価いただいているのだと思います。

発売キャンペーンの一環として、10月5日に笑福亭鶴瓶さんと陸上の桐生祥秀選手によるInstagramライブを配信しました。たくさんのコメントをいただくなど好評で、飲用機会を増やすきっかけにできました。

――滑り出しは上々ですね。今後の目標はありますか。

何しろ、「冬にむぎ茶」に違和感がある方は多いと思いますので……。まずは「冬にむぎ茶」というコンセプトをしっかりと根付かせることが目標です。「冬にむぎ茶」は当たり前、むしろ「冬こそむぎ茶」と思っていただけるように、飲料だけでなく、ティーバッグやパウダー製品といった全ての商品でさらにアピールしていきたいですね。

むぎ茶は可能性の宝庫

――むぎ茶を飲んでもらうための地道な努力、本当にすごいです。

基本は、いつでもどこでもむぎ茶を飲んでいただくために、どんなシーンが想定できるか。かゆいところに手が届くように、みなさまの声をお聞きして、できる限り対応します。

例えば、ペットボトルの量。ある夏の暑い日、私どもマーケティングチームは、街頭調査を行いました。道ゆく人々に「健康ミネラルむぎ茶」を飲んでいただく中で、男性が一回で飲む量がとても多いことに気がつきました。特に多い方だと、ひと口で200mlくらいを一気に飲まれるんですね。これだと、従来、量販店で売っている500〜600mlのペットボトルがすぐになくなってしまいます。

そこで、男性客が多いコンビニ向けに、670mlという大きいサイズを作りました。価格は税別140円と抑えていますので、正直、単品での利益は少ないですが、そこはお客様のニーズを優先し、むぎ茶全体で利益が上がればいいと割り切っています。さらに、自動販売機に入る最大のサイズとして600ml、スーパー向けに650mlなど、飲用シーンや用途にあわせたラインアップを展開しています。

また、最近は暑さ対策で、以前よりも女性やお子様に「健康ミネラルむぎ茶」をよく飲んでいただけるようになりました。そこで「5種の健康麦すっきりブレンド」という商品を開発しました。こちらは、やわらかい口あたりの大麦や、香りの強いオーツ麦、後味を引き締めるライ麦など、5種類の麦をブレンドし、レギュラー品よりも複雑な味と香りを楽しめます。

さまざまな味わいを楽しめる「健康ミネラルむぎ茶・5種の健康麦すっきりブレンド」

さらに、ニーズにお答えするという意味では、水で希釈してすぐに飲める缶タイプのむぎ茶も、ご好評いただいています。朝の忙しい時間に、お子さんの水筒にすぐに詰めたい。そんな保護者の方のご要望があり、作った商品ですね。

簡易さが人気の「健康ミネラルむぎ茶・希釈缶タイプ」

――なんというきめ細かさ……。顧客の要望に、応えすぎじゃないですか。

いえ、私はまだまだできると思っています。むぎ茶は古くから日本人が愛飲してきた飲み物で、おいしくて健康によく、赤ちゃんからお年寄りまで飲める。可能性の宝庫のような飲料なんです。まだ飲んでない方がいるんじゃないか、もっとお応えできるニーズがあるんじゃないかと、日々問いかけながらやらせていただいています。

――むぎ茶への思い入れに驚きました。

目指すのは、無糖飲料でむぎ茶が売上ナンバーワンになること。「健康ミネラルむぎ茶」には、それだけの素地があると信じています。大きな目標ですが、やることは今までと同じ、目の前にある課題に対して、努力や工夫を1つ1つ重ねることです。これからもお客様の声を聞きながら、しっかりと結果を出していきたいですね。

伊藤園