いま話題のひふみ投信・藤野英人が熱く語る「僕らのライバルは壺やタンス」

FROGGY LIVE – あなたのお金をカエル授業 –/ 藤野 英人

皆さん、こんばんは。レオス・キャピタルワークスの藤野英人と申します。
今日は「投資とは知的でオシャレな社会貢献」という題でお話をしたいと思います。まずは自己紹介ですが……。

「いきなり、なんだ」と思うでしょうね。実は、これが重要な自己紹介でして。大きな口を開けて喜んでる方がいますね(笑)。これは見ての通り、ブラジャーです。なんで私の自己紹介と関係あるかというと……。

右にいるのが私の母です。左にいる、ちょっとバカっぽいのが私ですね。私の母は30年ぐらい、ワコールという企業に勤めていてブラジャーの販売をしておりました。おそらく日本で最もブラジャーを売った人なんじゃないかなと思います。というのも、この間ワコールさんでこの話をしたら、いろいろな記録を見てもおそらくそうじゃないかと言っていただいた。ですので、ワコールさん認定です。

私が子どものころ、食卓の話題はいつもブラジャーでした。もちろんブラジャーそのものの話ではなく、「今日は何枚売った」ということを母がいつも話すのです。「今日は40枚売った」という日は、もう誇らしげなんですね。「今日は4枚しか売れなかった」っていうと、ものすごく残念そうなわけです。だから日々、食卓での話題の4分の1ぐらいはブラジャーの話でした。

私はね、嫌だったんですよ。そのころは思春期だったので、自分の母親が女性の下着を売っているということが恥ずかしかった。私の友達が、「おまえのママからうちのママが下着を買った」みたいな話をしたりすると、なんか嫌だなあという思いがあったんですね。

今から考えると全然恥ずかしいことでもなくて、母親がワコールというブランド企業で一生懸命働いてたっていうだけなんですけど。もちろん父親も働いていましたが、母の収入が結構あったので、私は大学に行ったり、自由に習い事をしたりできたのです。
だから今日皆さんは、ブラジャーで育ったファンドマネージャーの話を聞くということです(笑)。

じゃあ、ファンドマネージャーってどういう仕事でしょうか。みなさんの中で、ファンドマネージャーに会ったことがある人は少ないと思うんです。東京の人はまだ会う可能性があるんですが、特に地方だとなかなかない。日本のファンドマネージャーってほとんどが東京にいるんですね。弁護士もお医者さんも全国に散らばっていますが、あらゆる専門家の中でも、ファンドマネージャーって東京への集中度がすごく高い。

会ったことがある人は少なくても、皆さん全員、ファンドマネージャーにお世話になっています。例えば、年金。毎月引き落としされている年金のお金は、そのまま金庫に眠ってるわけではなくて、ファンドマネージャーが運用しているんです。投資信託や銀行、証券会社に預けられているお金というのも、ファンドマネージャーが運用しています。
だから皆さんのお金というのは、どこかで必ずファンドマネージャーによって運用されているということになります。その中でも私は、日本企業の株式に投資をする仕事をしています。

私は「レオス・キャピタルワークス」という会社で、「ひふみ」という投資信託のファンドマネージャーをしています。「資本市場を通じて社会に貢献する」というのが私たちの考えです。よく、「レオスってどういう意味ですか」と聞かれますが、ギリシア語で「流れ」という意味です。資本を働かせて流れをつくりたい、流れをつくることによって資本を働かせたいと、そんな思いで経営しています。ここにいるメンバーが私たちの会社の社員です。そんなに多くはなくて、40名ぐらいですね。

今日は投資についての話です。投資というと、皆さんどのようなイメージを持っていらっしゃいますか。様々なデータから、日本人は投資嫌いなところがあるといえると思います。まずこれですね。

最近すごくショックを受けたのが、市中に出回っているお金がついに100兆円を突破したというニュースです。去年の今ぐらいまでは、90兆円だったんですね。それが10兆円も増えた。すごいでしょ、10兆円。要するに銀行や証券会社に預けられていたお金が10兆円分、引き出されたということです。それの多くが、個人のタンスやツボ、金庫に眠っています。いま、タンス預金の額は過去最高水準になっています。

あるエピソードがありまして。2年ぐらい前に、栃木県で大雨があって、家財が流されたり、屋根の上に人が残されてヘリコプターで救出するという被害がありました。テレビ等でご覧になった方もいるかもしれません。そのときに郵便局が、これは大変だ、助けなきゃいけないということで、避難所の近くにATMを置いたんですね。緊急のときにお金を引き出して使えるようにと。そしたら1時間半後ぐらいに、警報が鳴った。どうなったかというと、入金でいっぱいになったんですよ。

つまり住民は水浸しになりながら、家にあったお金をリアカーとか、車にいっぱい詰めて逃げたってことなんですね。蔵とか倉庫に現金が山のようにあったということです。だからATMが出金どころか、入金でいっぱいになってしまった。郵便局の人がずーっとお金の回収をしていたというような話があります。

東京だとあんまりイメージできないですが、地方のおばあちゃん家に行ったりすると、本当にタンスを開けるとお金がぎっしり詰まってるっていうことがあるんです。タンス預金って例えじゃなくて。私は何度も見たことがあるんですが、すごくびっくりします。あと大きな壺があって、そこにお金がいっぱい入ってるとか。もちろん金庫とか、あと蔵とか、そういうところにもお金がいっぱいあります。

だから私、壺とかタンスを見るとすごくイライラするんです(笑)。だって私たちファンドマネージャーよりも、壺やタンスを信じてる人が多いということです。だから、壺やタンスを見ると、「この中にお金が入ってるんじゃないか」「俺のライバルだ」というふうに思ったりします(笑)。よく社員にね、「僕らは、壺やタンス以上の価値を出そうね」って話をしています。

右側の図表を見てください。アメリカとイギリスと日本の、家計における金融資産の構成を比べています。日本は50%以上が現金です。すごくお金が大好きなんですね。株や年金、保険ではなくて、とにかくキャッシュが大好き。

これは、金融庁が去年(2016年)9月に出したレポートにあったデータですが、投資未経験者に「資産形成のために有価証券投資の必要性を感じていますか」という質問をしています。そしたら8割の人が「必要ない」と答えている。
さらに金融庁の人がショックを受けたのが、下のグラフです。国民全体に「今まで投資教育を受けたことありますか」と聞いたら、7割の人が「受けたことがありません」。じゃあこの7割の人に「将来、投資教育を受ける気持ちがありますか」と聞いたら、そのうち7割の人が「勉強したくない」って答えてるんです。

要するに、国民全体の49%が証券や投資の知識を学ぶ必要がないと思っている。「積極的無知」の状態なんですね。これはものすごいことで、ただ知らないんじゃなくて、わざと知らないままでいる。なぜかと言うと、投資について知ると人間が「汚れる」と思っているから。金融庁の人はこれを見てすごくショックを受けて、「日本の金融教育、もうちょっとやらないと駄目だね」というのが彼らの意見です。

皆さん、寄付はしていますか。日本の国民で、年間1円以上寄付をする人は3人に1人です。裏を返すと3人に2人が、1年間の寄付の額がゼロなんです。平均を見ると、だいたい1人当たり2500円寄付をしています。アメリカ人はどうかというと、平均で1人当たり13万円寄付をしています。すごく差がありますね、2500円と13万円の差があるんです。寄付の額を合計すると、日本は7000億円。大きい額に見えますが、アメリカは34兆円です。これだけの差があるんですね。

「いやいや、藤野さん、アメリカは税制でお金持ちが優遇されていて、寄付をすると控除されるようになっているから、お金持ちがたくさん寄付をしているのでしょう」と、言う人がいます。よく分かっていますね。でも、もう一つの真実があります。アメリカで年収300万円以下の人は、家計の3%を寄付に回している。要するに、年収300万以下の人も、だいたい年間9万円の寄付をしているということになります。必ずしも、裕福な人だけが寄付をしているわけではないということですね。そう考えると、日本の2500円という金額は、本当に小さいなと思います。

しかし、東日本大震災の後に日本人は目覚めました、2011年から12年にかけては、年間の寄付の額が5000円になりました。倍ですね。でも2013年になったら、2500円に戻っちゃった。日本人の寄付の額は長い目で見ると年々減っています。20年前は年間1万円だったのが、今は2500円。もちろんデフレ経済の影響もありますが、こういうところでも、日本は貧乏になっているのかもしれないなとも思うわけです。

まとめると、日本人って「投資嫌い」「現金が大好き」「節約が大好き」、そして「寄付はしない」「消費もしない」。例えばスポーツにかける金額は、先進国の中で一番小さい。自分が勉強するためのお金も、一番小さいんですね。何が好きかというと、節約してお金をためること。だから日本人って、お金が大好きなんですね。日本人はよく「お金に潔癖できれいだ」と言っているけど、実はなんてことはない、お金そのものが好きで好きでたまらない民族ではないか。だから本当に、壺やタンスにお金がぎっしり詰まってるということになる。どう使うか、どのように世の中に活用するかではなく、お金そのものがあると安心するところがあると思います。

じゃあなぜ、日本のお金に対する意識はこのようにも偏ってしまったのでしょうか。私はこの問題は根深いと考えています。これは、2015年に電通総研が行った調査です。

就労している18歳から29歳の若者に、「働くことについてどう思いますか」と聞いています。「働くことは当たり前だと思う」という人は39.1%で、60%の人が「当たり前ではない」と答えている。「できれば働きたくない」人が28.7%もいます。世界との比較でいうと、日本人がもっとも働くことが嫌いで、働くことに対してネガティブな意識を持っている。これは、どのような調査にも出てくる結果です。

さらに、「今の会社に対して愛着を持っていますか」という質問です。

なんと日本人は31%しか愛着を持っていない。アメリカが59%、ドイツが47%という数字になっています。フランス人はかなり会社に対する愛着は少ないけれども、それでも41%という数字なんですね。日本人は断トツに会社に対する愛着が少ない。だからよく、「日本人は家族主義的経営をしている」とかね、それから「日本人は家族のように会社を愛しているし、社員を愛している」というような話があるんですが、それは20年前の話です。今どのようなデータをとっても、日本人が会社を愛しているという結果は出ないわけです。

そもそも日本企業は「家族主義的経営」だと言いますが、それは傲慢じゃないかと思います。だって日本人は、「世界で一番家族を大切にしていない」民族です。例えば夫婦の会話の時間は、OECD(経済協力開発機構)の中で一番短い。親子の会話もそう。例えば男性諸君、地方にお母さんがいらっしゃる方は、いつお電話しましたか。女性はわりとまめに実家に連絡をする人が多いですが、日本人の男性は実家にあまり電話をしません。だから、親が声を忘れてオレオレ詐欺(振り込め詐欺)に引っかかっちゃったりするわけですね。でもアメリカ人も中国人もフランス人もドイツ人もイタリア人も韓国人も、1週間に1回以上お母さんに電話をかける人が多いんです。だから日本人は家族を大切にしていない。それなのに家族主義的経営を標ぼうするのは、傲慢ではないかなと思います。

私たちは、もう少し足元を見なきゃいけない。家族とどういうふうに過ごしているのか、ちゃんとコミュニケーションをとっているのか、働くことについてどう思っているのか。それから、会社との関係はどうなんだろうということを、きちんと考えなきゃいけないと思います。いま、政府は「働き方改革」を推進しています。これはとてもよいことです。ただ、どちらかというと中身が「休み方改革」になっていますよね。長時間労働の是正は必要ですが、一方で働くことの意義とか会社との関係性を、もっともっと深く考えないといけないと思っています。

「そんなこと投資と関係ないじゃないか」と思われる方が多いんですが、めちゃめちゃ関係あるんです。この絵を見てください。

こういう場面、よく見ません? 居酒屋とかコンビニエンスストアとかで、お客さんがちょっとしたそそうをしたアルバイトの子に、めちゃめちゃ怒るというシーン。これ、格好いいですかね? いまの日本には、自分がお客さまという立場になると、ものすごく強い態度をとる人が多いと思います。

私は明治大学で授業を持っていて、学生と日常的に接しています。この間も学生と話していてバイト先を聞いたら、飲食店や小売の大手チェーンの名前が上がる。「仕事どう?」って聞いたら、「仕事嫌いです」「ただ、お金を稼ぐためにやってます」と言うんですね。
ある飲食店で働いている子は、こう言っていました。「最近、商品を値下げしました。それはお客さまにとってはいいことです。でも値下げして経営を成り立たせるために、店側はアルバイトの数を減らしました。それで人手が足りないからレジに行列ができます。一生懸命さばくけど、レジを待たせたり、コーヒーを運ぶのが遅くなったりしてお客さんから怒鳴られます」。

アルバイトをしている人たちの中でジョークがあって、嫌いなお客さんは「3位、日本語の分からない外国人。2位、日本語も英語も分からない外国人。1位、日本語の分からない日本人」という……(笑)。要するに、日本人は「お客さま」になった瞬間にすごく偉そうな態度になって、話が通じない人が多いんですね。

だから、こういうセミナーで私はよく言うんです。「皆さん、コンビニエンスストアで『ありがとう』って言っていますか」と。できている人、東京であまり見たことありません。私はコンビニエンスストアでも、ファーストフード店や居酒屋でも、必ず「ありがとう」と言います。
でもだいたい、レジに並んでる人を見ていると、「ありがとう」って言うどころか、お金を投げるように渡したり、ただ黙ってSuica(電子マネー)をピッとやるだけ。「おもてなしの国」というけど、お客さまサイドとしてどうよ? と思います。

結局、若い人が働くことが嫌いになっているのは、お客さまが厳しいから。ブラック企業も、確かに悪い。でも一番厳しいのは「ブラック消費者」ですよね。相手となるお客さまが厳しいから、若い人の心が折れていくんです。
その結果、「働くこと」を「ストレスと時間をお金に換えること」と考える人がすごく多いんですね。そして労働嫌いが、「会社嫌い」を生む。会社が素敵な場所に思えない。その会社を支えるのが投資だよって言ったって、そもそも会社が嫌いだと、心に響かない。これが今起きていることで、実はすごく根深い問題なんです。

なんで日本が成長しないのかというと、実は働くことが楽しくないから。これが負のスパイラルを生んでいると思います。だから、日本の景気をよくするためにできることは、例えば「ありがとう」と言うことなんです。

ここで、各国の家計金融資産の推移を見ましょう。

アメリカ、イギリスの家計金融資産はこの20年間で2倍、3倍になっているけど、日本はほとんど増えていません。これは、お金を働かせていないからです。
株価はどうなっているでしょう。

アベノミクスのバブルは、一体どこにあるんでしょうか。アメリカ、イギリス、ドイツと比べると、日本はこんなに株価の差がついちゃった。

じゃあなんで、そんな成長していない日本に藤野さんは投資してるんですか? と、よく言われます。それに対する答えとして、いつも話すことがあります。
2002年12月から2012年12月の10年間で、株が上がった会社が何%あると思いますか? 2割でしょうか、それとも3割でしょうか。2012年末というとアベノミクスが始まる前、日経平均が8000円とか9000円だった時代ですね。

答えは、なんと70%です。暗いと思われている時代にも、70%、1705社もの株が上がっています。上げ率はいうと、平均で倍。売り上げが倍、株価が倍、利益や従業員の数も倍になっている。成長してないなんてことは、ないんです。だから投資家としてこういう会社を選んで投資をすれば、10年間で資産が倍になるということなんです。

日本企業の96%は中堅・中小企業です。そのほかの4%が大企業で、トピックス・コア30と呼ばれる銘柄を見ると、JTやセブン&アイ、信越化学とか、有名企業が並んでいます。こういう会社に就職をしたら勝利者というふうに学校ではいわれていますし、多くの投資家も、こういう会社に投資をしています。なぜかというと「日本は人口減少で未来が暗いから、大企業に就職したり、投資をしたりすれば安全」と思っているんですね。それで、さきほど見たのと同じ時期の大企業の株価は、どうだったか。

なんとマイナス24%です。私たちが安全だと思っていた大企業が足を引っ張っていたんです。一方で、ジャスダックの銘柄や東証2部の銘柄はどうでしょう。

ジャスダックがプラス43%、東証2部はプラスの67%だった。これが事実なんですね。私たちはつい、「大きいものが安全だ」と思ってしまう。日本人は「お金にきれいだ」というのもそうで、単なる思い込みです。もう少し、起きている事実に目を向けるべきだと思います。

全国各地の中堅・中小企業の中には、いい会社がたくさんあります。私はそういう会社にたくさん投資をして、成果を出そうと思っています。これが、実際の運用成績です。

「投資をすることは知的でオシャレな社会貢献だ」というのが、今日伝えたいメッセージです。大事なのは、すぐに始めること。早く始めれば、それだけ時間をかけられます。あとは、手に汗かかない額を投資する。情報をしっかり集めて一気に投じない。最低5年間実践するというのが、ポイントです。「小さく、ゆっくり、長く」というのが投資をするうえで大きなキーワードではないかと思います。

でも、投資はお金だけではありません。今日からでもすぐできる簡単な投資があります。何かというと、「ありがとう」と言うことですね。「ありがとう」と言うことは、ゼロ円です。コンビニエンスストアや居酒屋で「ありがとう」と言う。それだけで人を元気にすることができます。これは1円もかからないけれども効果絶大ですよね。私は、この「ありがとう」の循環をつくりたい。

私の考える投資とは、エネルギーを投入して未来からお返しをいただくことです。そういう目で見れば、誰もがファンドマネージャーなんですね。自分の人生をかけて社会に投資をしている存在だと思います。

今日お話したかったのは、社会の常識1回疑ってみるということ。日本にはちゃんと成長している会社があって、大企業に投資をすることが安全というわけではない。そもそも根っこにある、「働くこととは何か」ということをしっかり考えることが、実は投資をするうえで一番大事。そんなことをお伝えしました。

まだまだお話をしたいことがたくさんありますが、時間がきましたのでこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。