四季報のプロである渡部清二が伝授「400万文字からキラリと光る1文字を」

FROGGY LIVE – あなたのお金をカエル授業 –/ 渡部 清二

皆さん、こんばんは。渡部清二と申します。本日は夢のある話をしにまいりました。どうぞよろしくお願いします。資料をお出しください。お題は、「明日からできる! 会社四季報の歩き方」です。

『会社四季報』というのは、上場会社3600社が全部載っている、約2000ページの冊子です。私はこれを1ページから2000ページまで、すべて読むというのを20年やっていまして、これで78冊目になります。

まずは自己紹介です。私は複眼経済観測所という会社を経営しています。『会社四季報』ですとか、『日経新聞』ですとか、だれでも手にできるものを使って幅広く経済をビジョンするという、おそらく世界でも珍しいビジネスモデルです。実際の業務は、機関投資家向けのリサーチ情報の提供です。あとは投資教育、啓蒙ですとか、いろいろやっております。

私自身は、1990年に野村證券に入社しまして、10年間、支店営業を担当しました。その後、機関投資家営業部という部署に移りまして、ここで12年間、営業をやりました。この部署が扱う商品は、日本株だけです。日経平均が半分になろうが倍になろうが、関係ありません。世界中の機関投資家に常に日本株を売るという仕事をしていました。その後、退社しまして、四季リサーチという会社を創りました。

気になるのは、右のマリオブラザーズみたいなヒゲの男ですね。私の相棒です。トルコ出身のエミン・ユルマズ。彼の他己紹介もしておきますと、16歳で生物学オリンピック世界チャンピオンになりまして、国費留学でどこへ行ってもいいぞと言われて、日本に参りました。日本語を勉強して、センター試験を通って東京大学に進学。バイオの博士課程までいったんですが、なぜか野村證券に入りまして。どういうご縁か、私と一緒にやっております。彼も、会社四季報を読破しています。

メディア出演ですが、こういったものに出ております。
いちばんうれしいのが左下です。これは2014年4集の『会社四季報』ですが、その編集後記に私の個人名が出ています。『会社四季報』80年の歴史において、おそらく後にも先にもないとことだと思います。よく歴史に名を残すといいますが、一応、私は四季報に名を残したということで、ひとつ、やったなと思っています。

四季報読破とは、表紙から編集後記まですべてを読むことです。載っているコメント、数字、チャートなどを文字換算すると、1冊あたり350万~400万文字ぐらいあります。それを20年間、78冊読んでいますから、おそらく15万ページ、文字数だと2.5億文字ぐらい読んでいますね。

これまでに読破した四季報の写真です。普通は捨てちゃいますが、私の場合は、残したことでネタになっているということですね。

会社四季報の強みは、3つあります。「継続性」「網羅性」「先見性」。

まず継続性ですが、『会社四季報』は約80年の歴史があります。一般書籍で、これだけ長く続いているものはほとんどありません。唯一、この手のもので続いているのが、JTBが出している時刻表。これがいま92年目で、先輩にあたります。継続性があるから、企業の歴史がわかる。過去を知ることで、現在と未来が見えます。これは後ほどお話します。

そして、網羅性。これが最も大事です。いま日本には3600社ほど上場会社があります。これを1冊に網羅している書籍は、世界中を見ても日本にしか存在しません。もっと正確に言いますと、日本経済新聞社が出していた『日経会社情報』が、今年3月に休刊になりました。これで事実上、世界で唯一、全上場会社の情報を網羅する書籍は『会社四季報』だけになりました。

全上場会社を知ると、何が分かるのでしょう。アリが砂を運んでいる姿は目に留まりませんが、それが積み上がっていくと、どでかいアリ塚になる。それと同じで、四季報を読むと、世界経済がだんだん分かってきます。上場会社というのは、各業界のいわば代表選手として、世界とつながっています。ですので、上場会社1つ1つの動きを見ていると、必然的に世界が見えてくるのです。

そして、先見性。四季報は、四半期決算がまだ導入される前から、年4回発行されていました。これが先見性です。

これは、四季報の創刊号です。昭和11年の巻頭のページで、創刊にあたっての抱負が書いてあります。まずは、生きた会社要覧を提供しようという意気込みがあります。さらに、投資の対象として会社を見るなら、日々刻々と変わる息吹きを知る必要がある。それには、年に1回しか発行されない便覧では不十分なので、もっと頻繁に3ヵ月ごとに刊行する会社四季報を創った。これは、非常に先見性があったと私は思います。

ここでは、「四季報読破の深化のイメージ図」を説明しています。下に行けば行くほど、読みが深くなっています。まず皆さんにやっていただきたいのは、企業を知ることです。これは、ページをとにかくめくるところから始めます。自然体で見ればいいです。1社でも多くの上場会社を知っていることは、ビジネスマナーとしてプラスに働きます。

そこから始めて、どんどん行間を読んだり、関連性を読んでいきますと、いろんなことが見えてきます。歴史を知って、今を知るという話になってきます。これは投資のみならず、企画やマーケティングに必要な能力ですから、あらゆるビジネスパーソンに必要な力だと思います。

冒頭で、「夢のある話をします」と言いました。「夢」は言い換えれば「妄想」です。未来を知るためには、ちょっとしたことから連想する。連想を続けると、だんだん妄想になるんです。その瞬間にとんでもないストーリーが生まれてくる。これが、先を読む、世相を読む、流れを読むということです。そして、その「気づき」を促す、キラリと光る1文字があります。これをきっかけに風を吹けば桶屋が儲かる的な発想で、妄想ストーリーが生まれます。

これが実際の『会社四季報』の紙面です。もう、見た瞬間に分かりづらいですよね。紙面では、AからNブロックまで分けて項目を解説しています。たくさんあるので、せめてここを見たほうがいいというのが、囲んである「A」「B」「E」「J」「N」です。

では、「A」には何が書いてあるのか。ハウス食品の場合は、背番号(証券コード)2810番。会社の自己紹介であります。何年生まれで、何をやっていて、どういう売り上げか、ということが書いてあります。「B」はコメントです。前半の( )が今期のコメントで、後半の( )が中長期的なトピックです。簡単に言うと、「いまこんな状況で、将来こんなことを考えています」という自己紹介の続きです。

そして「E」は、バランスシートとかキャッシュフローといいます。分かりやすく言うと、バランスシートには、全財産がどうなっているのかが書いてある。ここを見ると、財務の健全性が分かります。キャッシュフローは、要するに資金繰りです。よく給料前になると、「金がない」って言う人がいますが、こういうお金の動きに注目しているのがキャッシュフローです。

「J」は損益計算書といって、年収みたいなものですね。去年の年収はこうでした。今年はこのぐらいで、来年はこれぐらい行けそうだぞというのが、損益計算書です。そして最後に、「N」はチャートと、バリュエーション。自己紹介を見て、大体の人となりが分かったので、それがいま、市場でどういう評価をされているかを確認するというのがここです。評価が、人となりに対して割安なのか割高なのかという、判断材料になるのが「N」です。

ということで、見るべきところは5つ。「A、B、E、J、N」。これは「アベ・ジャパン」と覚えてください。今日は、そのうちの「A」を見るだけでも、全然違うよというところをお伝えしていきます。

まず、ビジネスマナーとして、株式会社の正式名称を知る。ここには、皆さんおなじみの会社が並んでいます。よく言われるのが、「富士フイルム」の「イ」は大文字ですね。「イ」を小文字にすると社名間違えです。次、「キユーピー」。これも「ユ」は大文字です。次、見ていただきますと、上に「(株)ブリヂストン」と書いてあります。これがない場合は、後株です。さらにブリヂストンの「ヂ」は、「ジ」ではなくて、「ヂ」。究極がこれですね。「ホテル、ニューグランド」。ホテルの後に来るのは「・」ではなく「、」です。

ここにあるのは、ほとんどの方が知らない会社ばかりだと思います。ところが、すごく身近な会社だという話です。「日本ヒューム」を見ると、「下水道向けヒューム管で国内首位」と書いてあります。ヒューム管というのは、下の写真にあるように土管のことですね。ドラえもんのジャイアンがリサイタルする、あの舞台です。なので、お子さんがドラえもんを見ていたら、「あれはね、ヒューム管の上に乗っかってるんだよ」と言えばいいわけです(笑)。

「カネソウ」も、ほとんど知られていませんが、マンホールのふたを作っている会社です。私は学生に話すときに「今日、家から出てきてここに来るまで、1社も上場会社にタッチせずに来た人はいますか?」と聞きますが、実際は無理ですね。みなさん必ず、マンホールのふたを踏んでいるはずですから。

「住江織物」は、カーペットや自動車用内装などが主力で、国会の赤じゅうたんなども納入しています。これを知っていますと、国会中継を見ると政治家の先生の顔よりも、足もとの赤じゅうたんが気になっちゃいます。

そして、「ニイタカ」です。この写真を見れば分かりますね。外食向けの固形燃料、国内シェア6割。すごいですね。旅館に行って仲居さんが火をつけましょうかと言う、あれです。インバウンドや和食のブームなんていうのも、ニイタカの業況から見て取れます。

次は、歴史の話です。左が「第四銀行」。新潟の地銀ですね。よく見ていただきますと、「現存最古の銀行」と書いてあります。株式会社として現存する中で、最も古い銀行ということです。
右の「松井建設」を見ていただきますと、「1586年に創業」と書いてあります。これは、本能寺の変の少し後です。それから関ヶ原の戦いを越え、明治維新を越え、第二次世界大戦も越えて、現在に至るわけです。

ちなみに、株式会社ができたときを「設立」、株式会社ではないが商売を始めたときを「創業」といいます。「創業」という切り口で見ますと、世界でいちばん古いのは「金剛組」。この会社は一度、会社更生法が適用され、現在は「高松コンストラクション」という会社に引き継がれています。創業は、578年。聖徳太子が四天王寺を建築させるために、1400年前に百済から渡来人を呼んだのがきっかけです。日本はグローバル化が遅れているとよく言われますが、「創業」という意味では、世界最古の会社は日本企業で、しかもグローバル企業だったことが分かります。

というように、いろいろな企業を読み解けるのが四季報の最大の魅力です。ご興味を持たれた方は、是非、ホームページもご覧ください。ご清聴、ありがとうございました。