「ロマンスの神様」「ゲレンデがとけるほど恋したい」など数々のヒットソングを生み出してきた、“冬の女王”こと広瀬香美さん。
広瀬さんと言えば近年、YouTubeチャンネルに投稿する「カバー動画」が大きな注目を集めています。原曲のイメージをくつがえすほどアレンジしたり、ときには足でピアノを引いたり(!?)……楽しく、明るく、とにかく自由奔放。
【広瀬香美】モー娘。さんの恋愛レボリューション21歌ってみた⑩【※つんく♂さんの太巻きsong】 – YouTube
出典Youtube
7:45~、ヒザでピアノ蹴っとる……
でも仕事をしていると、プレッシャーを感じたり、人と自分を比較して焦ってしまったり……「まわりの目」が気になって仕事を楽しめない場面ってたくさんありますよね。
広瀬さんは、どうしていつも全力で仕事を楽しめるんだろう……? 「広瀬香美流・まわりの目を気にしない方法」、取材したい……!
ということで今回、念願の取材が実現しました。
「仕事を楽しめない瞬間ってないんですか?」に対する、広瀬さんの意外な答えとは……?
〈聞き手=サノトモキ〉
記事提供:新R25
縮こまって、Mステの階段でガックガク。「10周年コンサートですら緊張してた」
サノ
今日はリモート取材になりますが……よろしくお願いします!
広瀬さん
はーい、インタビュー楽しみにしておりました!
よろしくお願いします~!
サノ
さっそくなんですけど、どうすれば広瀬さんのように思い切り仕事を楽しめるんでしょうか?
僕のような一般人は、「まわりの目」が気になって仕事を楽しめない瞬間がけっこうありまして……
広瀬さん
いやいや私も、い~っぱいありましたよ!(笑)
私、デビューから10年たった「自分の10周年コンサート」ですら、緊張のあまり胃潰瘍になってますからね。
サノ
広瀬さんが、緊張で胃に穴を!?
(ヒザでピアノ弾くような人が……?)
広瀬さん
じつは、デビューしたときから緊張が大敵だったの。
デビュー当時、「作曲できて詩も書けて、歌もめちゃくちゃ上手で音程なんかまったく外さない」みたいな噂をレコード会社が立てちゃって。
すっごい持ち上げられてたんですよ。
サノ
そうだったんですね……
広瀬さん
御輿めっちゃ担がれての「ミュージックステーション初登場!」とか言われるとさあ……
階段降りるとき、もう足ガックガクだよね。
広瀬さん
ずっとその連続。テレビやコンサートで緊張して、どうしても力を発揮できない。何度家に帰って悔し泣きしたかわからない。
本当に本番が嫌いになっちゃって。デビューして10年経っても、それは変わらなかったですね。
サノ
“緊張を楽しもう”とかよく言われますけど難しいですよね……
どうしたら広瀬さんみたいに楽しそうにできるのかなと思ってたんですが……
広瀬さん
私もまず、まわりの人たちを「家族」だと思い込むように訓練したんですよ。
歌詞を間違えようが、もう歌えませんと逃げ出そうが、「絶対に私を愛してくれる人」だって意識をすり替えようって。
ただ、それでもまだ緊張してしまったから、次は“そもそもなぜ緊張するのか”を考えたんです。
サノ
「なぜ緊張するか」、か……
答えは出たんでしょうか?
広瀬さん
「人は自分を“本当の自分”以上によく見せようとして、その差分だけ緊張する」って結論に至ったんですよね。
隠そうと思ったぶんだけ、緊張するの。
広瀬さん
同時にね、「まわりの大人は“本当の私のレベル”なんてとっくに見抜いてる」ってことにも気づいたんです。
大人からしたら、若い子の考えてることなんて頭の横にマンガのフキダシで書いてあるみたいに見えてるんですよ(笑)。全部わかったうえで、知らないフリしてくれてるだけ。
そう気づいてから、バカバカしくて背伸びをやめた。
今私、緊張しない!
「みんな、それぞれ違うゲームをやってるんじゃない?」
広瀬さん
でも自信も余裕もない20代のころって、「自分はすごい」とアピールすることに明け暮れちゃうんだよね。
一番よくないのは、自分はすごいとアピールしたいがあまりに「まわりの株を下げるような悪口を言うこと」。
サノ
ああ……正直わかります。まわりが活躍すると、内心焦っちゃうというか。
広瀬さん
私も当時は、ライバルの子たちの株が下がるようなことばっか言ってたんですよ。「あいつの歌なんて大したことない」だのね!(笑)
とりあえずわけわかんないまま、人のことあれこれ言いまくってました(笑)。今では本当に反省してます……
サノ
人に歴史ありだな……
広瀬さん
人が自分よりも抜きん出ることが、とにかく嫌だった。
他人の成績が気になってるうちは仕事なんて楽しめるわけないのに、そこになかなか気づけなかったんだよね。
でも、そんな私を変えてくれたのが……「ゲーム」なんです。
広瀬さん
20歳のとき、『スーパーマリオブラザーズ』(※)が出たんですけど、私、ドハマりしちゃって。
マリオをプレイして以来、『ドンキーコング』にハマり、『ファイナルファンタジー』にハマり……もうガムシャラにゲームで遊んでたんです。
サノ
へええ! 意外な趣味。
広瀬さん
当時はなんとなく遊んでるだけだったんだけど、音楽の世界でのし上ろうと散々人と自分を比べて苦しくなった結果、ふと気づいたんですよ。
「あれ? これ、みんなそれぞれ違うゲームやってんじゃない?」って。
広瀬さん
当時の私は、「みんな一つのゲームで競争してる感覚」だったと思うのね。
だから、私が真っ先に次のステージ行くために、他の人に勝たなきゃいけないと思ってた。
サノ
ライバルの成功が、自分の不成功につながっちゃうというか。
広瀬さん
でも、今の私は、ひとりで“自分自身がタイトルのゲーム”をやってる感覚なの。
ひろせ……『ヒロセ・コウミー・コング』……これだね。
『コウミー・コング』をやってるんですよ、私は。
広瀬さん
私以外の人は、私とは違うゲームをやってるんです。
他の人がうまくいってもそれは別の世界の出来事で、私が私のゲームをクリアできるかには何も関係ない。そう考えるようになってから、他人のことを本当にどうも思わなくなったの。
人の成功も心から喜べるようになった。
サノ
なるほど……たしかにそう考えると、まわりとの比較からちょっと解放されそうです。
広瀬さん
今の私にとって、人生は「終わりのない“自分だけのマリオブラザーズ”」なんだよね。
「音楽家として、この人生第何ステージまでいけるのか」。これだけに集中できるようになったの。
そこからだね、本気で仕事を楽しんで、大胆に挑戦できるようになったのは。
放置した課題は必ずまた現れる「だから私は、苦手な人に出会ったらすぐに接近する」
サノ
他にも、「人生は自分だけのマリオブラザーズ」という考え方に切り替えてよかったことってありますか?
広瀬さん
「いやなこと」を放置しなくなりましたね。
私、課題ができた瞬間、すぐに着手してやっつけにいくんですよ。
広瀬さん
マリオって、ボスにたどり着くまでに、弱いキャラクターがいっぱい出てくるじゃないですか。
サノ
はい、はい。
広瀬さん
このザコキャラたちは、無視して通り過ぎることもできる。
でも、倒さないまま放置して進むと、後で絶対後ろから追いかけてくるんだよね。
広瀬さん
仕事で直面する課題もザコキャラと同じで、その場は逃げられても、後でか・な・ら・ず戻ってくるの。
たとえば、「いっつも機嫌が悪い人」っているじゃないですか。昔はこっちも不機嫌になってやり過ごしてたんですよ。
でも、その人をやりすごしても、いつか必ず仮面や衣装を変えて同じタイプの人が出てくるんだよね。
サノ
たしかに、そういう人自体は他にもいっぱいいますもんね。
広瀬さん
逃げてると、いつかまた必ず苦しめられるタイミングが来る。
どうせ後でやっつけなくちゃいけないなら、課題が現れた時点で攻略法を見つけちゃったほうが絶対いいんだよね。
だから私、苦手なタイプの人が現れたら必ず自分から接近するんですよ。
広瀬さん
放置したら自分の苦しみが長引くだけだから、どうすればその人と仲良くなれるか試しまくる。
不意打ちくらっちゃうくらいだったら、こっちから攻略しにいくの。アッハッハッハッ!
サノ
強すぎる……
広瀬さん
そうやってると、だんだん「敵も、私のために出てきてくれてる」って思えるようになるんだよねえ。
『コウミー・コング』をもっと盛り上がらせるために出てきてくれてるんだって。
そう思えたらもう、なんだって楽しめちゃいますよ!
「R25世代のみんなが、世の中を引っ張っていくんだよ!」
サノ
「違うゲームを遊んでるんだから、まわりと比べる必要はない」
「どんな課題も人生の盛り上げ役」……
広瀬さんの仕事哲学、想像以上にゲームから影響を受けていてビックリしました。
広瀬さん
私の人生のテーマソングは、マリオの「♪テレッテッテレッテ、テン」なんですよ。
常に頭のなかにあの曲を流しながら、マリオを遊ぶ感覚で自分の人生を生きてる。
あれ以上のメロは……私にはできないなと思いますね。
サノ
ここまで言わせるか、任天堂……!
広瀬さん
ゲームを遊んでなかったら、私の人生の捉え方はまるっきり違ったでしょうからね。
ゲームが私の人生を決定づけてくれた。
だから、ゲーム音楽とか、ゲームに携わる仕事を貢献としてやりたいってずっと思ってるんです。
サノ
今日はありがとうございました!
もっとお話聞きたかった……もしよかったら、いつかまたご登場いただけたらうれしいです!
広瀬さん
うれしいなあ、そんなこと言っていただけるなんて……
私の話なんて大したことないかもしれないけど、もし役に立てるんだったら私のコーナーをください!(笑)
R25世代のみんなが世の中を引っ張っていくもんね。頑張って、自分の強みだけを活かして、突き進んで……ワクワクする未来に私も連れていってほしい!
広瀬さんとお話ししていて感じたのは、「仕事がデキる人って、“仕事の楽しみ方”を見つけた人なのかも」ということ。
広瀬さんも最初から仕事を楽しんで、思い切り挑戦できていたわけじゃない。
緊張してしまったり、うまくできない仕事があったり……仕事をしていれば誰だってたくさんの課題に直面するし、悩んだりしんどくなる瞬間がいっぱいある。
ある意味「しんどくて当たり前」な仕事だからこそ、“楽しみ方を見つける努力”をすることがすごく大切なんだなと、お話を聞いて思いました。
まずは僕も、「目の前の課題は全部クリボーだ」と思うところから始めてみようと思います!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)〉