渋谷スクランブル交差点から見る社会

世界は株式会社でできている/ 本城 直季日興フロッギー編集部白根ゆたんぽ

東京・渋谷の街並みが一望できる高級ホテルのラウンジ。ユイとタカシは雑多なオフィスを出て、急成長中のベンチャー企業との商談にやってきた。
2人は東京のITメディアで働く28歳。
広告営業のユイと、根っからの経済オタクで金融ニュース担当のタカシは同僚で、最近仕事で組むことも多い。働き出して6年目。
経済に関心がなかったユイは、タカシと話すうちに社会を見る目が変わっていく。

ユイユイ

あ~、やっと終わった! 新しい広告主とのミーティングって緊張するわね。でも、都心の豪華なホテルって、テンション上がる! さすが、急成長中の会社は指定して来る場所も一流ね。うちの会社も殺風景な会議室じゃなくて、いつもこういうカフェでミーティングならいいのに。

タカシタカシ

おいおい、さっき出たスケジュールの話、ちゃんと聞いてたのか? 新企画の立ち上げで現場が一気に忙しくなるから、覚悟しないと……。お、ここからちょうどスクランブル交差点が一望できるよ。こうやって見ると、渋谷って経済活動のカタマリだなあ。

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タカシ君ってホント、女子の気持ちがわかってないなあ。こんなに素敵な場所で経済の話なんて。よく言えば、堅実なんだけど……。

タカシ

何ぶつぶつ言ってんの?

ユイ

ううん! 経済活動って何のこと? 詳しく教えて!

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ここから見えるものはほとんどが人工物だろ? ビルに道路、交通システム、配電網、すべて“誰かが作ったもの”ばかりだ。つまり、この景色は企業がヒト・モノ・カネを使って経済活動を行うことによって生み出されたもの。ほら、右側に109があるだろう。

ユイ

ああ、マルキューね。10代のころは私も行ったけど、仲良かった店員さんたち、どうしてるかな。

タカシ

109を運営するのは東急モールズデベロップメントで、ビルの開業は1979年と意外と古い。最初は20~30代の働く女性がターゲットで、「ファッションコミュニティ109」と呼ばれていたんだって。109は「トウ–キュウ」を数字の当て字だね。

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ファッションコミュニティ……今のイメージとずいぶん違うわね。

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昭和っぽさ満載だよな(笑)。

東急は渋谷の未来に賭けているんだ

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東急モールズデベロップメントの親会社である「 東京急行電鉄 」を中核とする東急グループは、「渋谷を作ってきた」といえるくらい、街の発展に深くかかわってきたんだ。渋谷駅はもともと郊外のターミナル駅として、1934年の東横百貨店(現:東急百貨店東横店)創業をきっかけに発展した。戦後は街の開発に貢献し、109のほかにもBunkamuraやマークシティ、TSUTAYAが入っているQFRONTのビル、ヒカリエなんかはみんな東急グループが手掛けた案件だよ。

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へえー。東急の力ってすごいのね。最近、渋谷に来ると工事が多い気がするんだけど、やっぱり東急グループがかかわっているの?

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その通り。いま、東急グループは2027年に向けて渋谷駅周辺の再開発プロジェクトを進めているところだ。使われなくなった東横線のホームと線路跡地に高層ビルを作ってクリエイティブワーカーの聖地を目指すとか、日本最大級の屋外展望台付きのランドマークを新設するとか、たくさんの計画が動き出している。渋谷とつながりの深い東急グループが、街づくりの未来にかける意地を感じるね。

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渋谷の街が生まれ変わるようで、わくわくする! ほかには、どんな企業がこの街並みに隠れているの?

タカシ

渋谷駅のハチ公口を出ると、まずQFRONTのビルの大型ビジョン「Q’S EYE」が見えるだろ?

ユイ

ええ。スクランブル交差点といえば、あの大画面広告よね。

タカシ

屋外の大型ビジョンはふつうテレビCMをそのまま流すんだけど、Q’S EYEの映像はオリジナルコンテンツが多くて、視聴者と双方向のコミュニケーションを取ることもできる。この最新システムの運営支援をしているのが、「 ソニー 」の子会社であるソニービジネスソリューションだ。

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へえ~、ソニーの技術がそんなところにも使われているの。

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2013年のリニューアル工事後の放映では、視聴者がスマホをコントローラーとして使い、好きなバーチャル花火を打ち上げるというイベントを行ったらしいよ。その場に居合わせた人たちみんなで盛り上がり、渋谷駅前の広場に歓声が沸き起ったって。

ユイ

映像やITの技術以外に、音楽やエンタメ事業も強いソニーらしい話ね。それにしても、平日昼間でも交差点はすごい人ね。信号が青になった途端、一気に歩き出す……。あ、信号を作る会社というのも、存在するのよね?

タカシ

そうそう! 信号機を作るトップ企業といえば、「 日本信号 」。1928年に鉄道信号の国産化を目指して設立され、日本が誇る新幹線をはじめ、街の信号機や駅の自動改札機、駐車場のパーキングシステムなどに領域を広げて活躍している企業だ。

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海外に行くと、日本ほど時間通りに電車が来て、事故が少ない国って珍しいんだなって思う。それも、日本信号のような会社があるからなのね。

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人命を預かる、責任の重い仕事だよな。日本信号の技術力は海外でも認められていて、中国、アルゼンチン、インドなど二十数カ国に製品・システムを納入している。独自開発した無線式列車制御システム「SPARCS」の海外展開も順調で、業績は安定。2015年度の決算は減益だったけど、2014年度までは3年連続で増収増益、2016年度の見通しも明るいとの予測だよ。

ユイ

国内だけじゃなく、新興国のインフラ作りにも貢献しているのね。聞けば聞くほど、好感度の高い会社だわ。

私たち、便利な生活に慣れ過ぎてるのね

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タカシ

交通網の整備といえば、運転中にラジオで流れる「渋滞情報」にも、企業が関係しているんだ。全国の交通管制センターでは、24時間365日、車両感知器などを使って道路状況の情報を収集している。それを各メディア、カーナビ、案内板などに流し、混雑状況にあわせて信号の青・黄・赤色の秒数までコントロールしているんだ。そのときに使う交通管制システムでトップシェアのオムロンソーシアルソリューションズを有するのが、「 オムロン 」という京都のものづくり企業だ。

ユイ

飛行機の管制室みたいな機能を、各都道府県がもっているのね。確かに、渋滞情報って常にリアルタイムで流れている。

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交通管制システムは、関連会社であるオムロンフィールドエンジニアリングが保守サービスを担っていて、故障があればエンジニアが駆けつける体制をとっている。全国47都道府県のうち、17道府県の管制センターをオムロングループが受注しているというから、信頼が厚いんだね。

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食品とかアパレルとか、身近なところで生活を支える会社はよく知っているのに、インフラ関係の会社って全然知らなかった。

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社会インフラは地味だからなあ。道路だけじゃない。水道、ガス、電気が整って快適な生活を送れることを、僕たちは「当たり前」と思いすぎているのかもしれない。

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そうね。24時間365日、ほとんど止まらずインフラが動き続けていることに疑問を抱かないのも、便利な生活に慣れ過ぎているからよね……。なんだか反省しちゃう。

タカシ

さ、インフラを支える企業をもう1つ覚えよう! 街を歩いていると、黄色い看板の「タイムズ駐車場」をよく見かけるだろう?運営しているのは、「 パーク24 」。今ではみんな当たり前のようにコインパーキングを使っているけど、パーク24が1991年に上野にタイムズ1号を作るまでは、「月極」が常識で、「とめた分だけ精算する」という発想はなかった。パーク24は住宅街の中に駐車場が整うインフラを作り上げ、都市生活者の移動を画期的に便利にしたんだ。その成果にとどまることなく、独自のITシステム「TONIC」を構築し、駐車場の利用状況をリアルタイムで配信したり、カード決済を可能にしたり、どんどんサービスを増やしている。最近ではカーシェア事業も好調だ。駐車場ビジネスって地味に見えるけど、こんなにイノベーションあふれる企業もあるんだよ。

ユイ

今日はたくさん縁の下の力持ち企業を知ったな。華やかな面ばかりじゃなく、堅実さも大切にしなきゃいけないのね。タカシ君ってダサいと思ってたけど、割とかっこいいのかも……。

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ねえ、お腹すかない? せっかくだから昼飯食べて会社に戻ろうよ。もちろん勉強代として、ユイのおごりね!

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いや、やっぱりただのケチだわ!

今回のテーマで取り上げた上場企業
東京急行電鉄
ソニー
日本信号
オムロン
パーク24
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