人間の本音は〝買う〟に表れる

14歳の自分に伝えたい「お金の話」/ 藤野 英人須山 奈津希

レオス・キャピタルワークスで「ひふみ投信」などのファンドマネージャーを務める藤野英人さん。日興フロッギーでは度々、お金や投資に関する大切な言葉をみなさんに伝えてくれていました。この連載では、そんな藤野さんの著書「14歳の自分に伝えたい『お金の話』」から一部を転載してお伝えします。

お金ってどんなものか、なんとなくイメージができたところで、次に「お金の使い方」について、考えてみましょう。

「お金を使う」という経験、君も数え切れないほどしてきたはずです。

では、お金を使うと何が起こるでしょう?

 

財布の中身が減る。正解。

欲しいものが手に入る。それも正解。

他にはありますか?

 

もっと大事なことがあります。

それは、「未来を創る」ということ。そんな大げさなことをしているつもりはないぞ、とびっくりしましたか?

いや、たしかにこれは事実なのです。お金を使う、すなわち「買う」という行為には必ずその人の〝意思〟が伴います。

 

例えば君がお母さんかお父さんにお願いして、新しい靴を買ってもらったとします。

「どこに買いに行く?」と聞かれて、お気に入りのメーカーの靴が置いてある駅前の靴屋さんがいいと伝えて、連れて行ってもらった。

そこにズラリと並ぶたくさんの商品の中に、お目当ての靴を発見。少し前に、あこがれのスポーツ選手が履いているのを見たばかり。お店の一番目立つところにある最新モデルではないけれど、とにかくデザインがかっこいい。しかも、部活で仲のいい友達もこれの色違いを買うと言っていたから、おそろいになって盛り上がりそうだ。お父さんから「一番新しいやつじゃなくていいのか?」と聞かれたけれど、「これがいい」と言って買ってもらった。

 

この一連の買い物を振り返ってもわかるとおり、1足の靴を買うに至るまでには、明確な君の意思が何度も働いています。

どこで買うか? 何を買うか? お店やメーカーがイチオシのものを選ぶとは限らないでしょう。君なりのこだわりがどんどん出てくるはずです。

それも一生懸命頑張ってこだわりを引っ張り出しているわけでもなく、勝手に出てくる感覚だと思います。

なぜなら、「買う」という行為には、ナチュラルにその人の本音を引き出す魔法があるからです。

 

ある人は言いました。「人間の本音は〝売るもの〟ではなく、〝買うもの〟に表れる」と。たしかに、会社で働いている大人たちが自社で売っている商品のすべてを本気で好きかは疑わしいけれど、自分のお金で買うものに関しては「欲しいから買っている」という事実は揺るぎないはずです。

 

いくら細かい上司でも、「君は今日からランチにからあげ弁当を買ってはいけない。週に3日は焼きそばを買いなさい」なんて買うものまで強制することはないでしょう。

コンビニに立ち寄って、何気なく手にしたそのペットボトル。それが君自身の〝意思〟そのものです。好きなものは買うが、嫌いなものは買わない。ピュアな「好き嫌い」が表れる行動、それが買い物なのです。

 

買い物は一番身近で簡単な「生き方の主張」なのです。

そして、前章にも書いたように、誰かの消費は誰かの売り上げになる。間接的にその会社を応援し、結果的にその会社の成長につながる。

つまり、「未来の風景を変える」という結果に少なからず影響しています。

 

君の街にあるかもしれないユニクロやマクドナルドも、自然と地面から生えたわけではありません。

国が「そこに建てなさい」と指示してできたわけでもありません。

僕ら消費者が選び、買い、着て、食べる行動によって、そのお店を応援してきたから、そこにあるのです。

 

君が手にしている千円札は、〝未来をつくる投票券〟です。

大げさに感じるかもしれないけれど、事実としてそう。

国や地方自治体の選挙で投票できるのは18歳からだけれど、14歳の君だって、実はとっくに投票活動をしているのです。

「こんな未来になったらいいな」と描くイメージがあったとしたら、そのイメージに近づきそうな商品やサービスを選ぶようにしてください。

1日1回の買い物でも、1年で365回。10年で3650回。君が大人になって、結婚して、子どもを育てるまでには、何万回と買い物をしているでしょう。その積み重ねのすべてが「未来への投票」です。

 

また、たとえお金を使わなくても、SNSで「いいね」を押すだけでも、その企業の応援になります。

君はもう立派に、社会を動かす市民になっているのだから、堂々と自分がつくりたい未来に向けて投票をしてほしいと思います。

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