サンクトペテルブルクのパラドックス

“超”理系がゼロから投資はじめてみた/ 澤田 涼マツオカヨウスケ

「東大物理学者が、ガチで株を分析してみた」を読む

つい先日、友人が夜中SNSで、
『マッチングアプリは数多くの人と出会えるから、ほんとに好みにあった人を見つけやすいというのが本来あったはずなのに、実際は“さらにいい人がいるかも!”と期待してしまうからマッチングしなくなる……』

なんて呟いているのを見て、
僕:『サンクトペテルブルクのパラドックスみたいだね』

と、返事を返したことがありました(ホントの話)。

なにそれ、どういう意味? と思いますよね。少しおおざっぱに説明すると、宝くじで1万円当たったときのことを想像してもらえると分かりやすいかもです。

確率的には1万円もかなり運が良かったと分かっているものの、1等1億円だと聞くと「たったの1万円か……」なんて少し思ってしまったり。マッチングアプリでの意思決定も、これに近いところがあるのかなあ、と考えていた次第でした。

こんな問題を、数学の世界では「サンクトペテルブルクのパラドックス」と呼ぶんです。おおざっぱには「極めて少ない確率で極めて大きな利益が得られるような場合では、直感に反して期待値がとてつもなく大きくなってしまう」というお話です。

なんでこんな言葉を知っているの? と聞かれることがあります。実は僕、高校生の頃は、クイズ研究部に所属していたこともあって“ムズカシそうな専門用語”と雑学だけはあれこれ知っていたりしております。これもまた昔取った杵柄のひとつだったり。

“いい売り時/買い時”を見つける方法

ところで、ここまで読んで「え、この話、株に関係ある?」と思った方、少し想像してみてほしいのです。この宝くじのお話、株の世界だと、「今上がり調子のこの株、まだ伸びるまだ伸びると信じつづけて、手放すタイミングを見失う」ことと似ていませんか? そこで僕、ひらめいたんです。

「株の世界で“いい売り時/いい買い時”を見つけるために、
「いまの株価」が、どれだけめずらしく高いのか/低いのかを“正しく知る”
ことができたらめちゃくちゃ便利じゃないか?」

言い換えれば、「この株価、いま実はめちゃくちゃめずらしく高値ですよ!」なんて分かってしまえば、余計な欲をかくことなく売ることができると思ったんです。そんな都合のいい目安があれば苦労しないよ……というのが本音ではありますが、せっかくの自由研究だからこそ自由に挑戦です!

今回の自由研究は、数学を駆使して“いい売り時/いい買い時”を見つける方法を考えてみる回です。そのためにまずは、「いまの株価がどれだけめずらしく高いのか/低いのかを“正しく知ることができる”目安」を探してみたいと思います。

正規分布の魅力

さてさて、ではどこからそんな目安を探してきましょうか。数学的に考えるなら、確率のお話ですよね。というわけで、こんな時に便利なのが、統計学であり、正規分布なのですよ!

……と、覚えていますか? 第1回記事で株価の変動を調べるのに使った山型の分布です。嬉しいことに株価と相性のいい正規分布は、確率を知るためにはとっても便利なのです。

たとえ話が続いて申し訳ないのですが、たとえばあるクラスの中学生のおこづかいが下の図のような分布だったとしましょう。図を見ると、おこづかい7000円の子がめずらしく高そうですよね。

「なんでめずらしく高いと思うの?」と聞けば、きっと誰しもが「平均的なおこづかいから離れているから」と答えてくれるんじゃないでしょうか。さて、正規分布の魅力はここからです。

『もしも、“日本の中学生がこの確率分布にしたがっていた”なら、街中で「おこづかい7000円以上もらっている中学生」に何パーセントの確率で出会えるか??』
ということが、図の平均値からの離れ具合から分かってしまうのです!

実際に株価に当てはめてみよう

「ちょっと難しくなってきた……結局株価でどう使えるの?」という方もいるかと思います。長くなりまして申し訳ありませぬ。考えるよりも、ものは試し! ということで、今回は「 任天堂 」の株価を例にこのアイデアを実験してみましょう。さてさて、ある日の任天堂の株価の推移が下の図。

今回の目標は、「この赤丸の日の株価が、どれくらいめずらしい高値なのか?」を知ることです。そして、もし「これは何パーセントで、めずらしい高値だ!」というのが分かったら、今が売るタイミングかどうか判断できそうじゃないですか? というのが僕の狙いです。

ここからは少し荒っぽく、「株価が正規分布に乗ってくれる」とエイっと仮定してお話を進めます。あまり昔の株価を参考にしても、古い情報に引っ張られてしまいそうなので、ここでは過去1ヵ月(25日間)の株価から、その[平均値]と[ばらつき具合]を計算してみました。そしてそこから作った正規分布が次の図です。

正規分布では平均値からの離れ具合で、「何パーセントのめずらしさ」なのか分かるというお話でしたので、今回は【95%区間】を計算から調べて図に乗せました。この結果、めちゃくちゃ面白い! 我ながら、この自由研究は大成功かもしれません。

……え、何が分かったの? と思われた方へご説明します。この図が示しているのは、株価が正規分布に従うとすれば、「この赤丸の日の株価は、過去25日間で5%以下のめずらしい高値だ」ということです。つまり、赤丸の日はかなりめずらしい高値なので、“たぶんこのタイミングで売るのが得だ”と知ることができた。というのが僕の考え方です。

実際に株価の推移図で、その後を見ると、少し上がりはしましたが、売り時としては良いタイミングだったことが、あくまでも「過去のデータだけ」から予測できました! これは使える計算かもしれません。こうやって仮説がうまく立証できると気持ちがいいのは、実際の研究にも似ている感覚ですね。大満足。

補充ノート:このモデルのさらなる確認と株式用語

毎回のことですが、今回のモデルや考え方もまた、株初心者がホントに思いついたままのアイデアと試行錯誤の足跡です。あくまでも “株価予測の自由研究” です。なので、あまり過度な信用は厳禁です。

ただ折角なので、株式投資の世界の勉強をしてみたところ、同じアイデアの研究がやはりありました。先人たちは偉大ですねえ。ただこういう“車輪の再発明”(編集部註:広く受け入れられ確立されている技術や解決法を再びイチから作ること)も面白い。

今回のモデルは、株式投資の世界では「ボリンジャーバンド」と呼ばれる指標のお話だったようです。株式投資に少しずつ詳しくなっている気がして嬉しいですね、ふふ。

ボリンジャーバンドは、日興イージートレードのチャート画面から表示させることができるようで、先ほどの任天堂の株について見てみたのがコチラです。

たしかに、これまでも毎回株価が95%区間に触れるたびに中心へと戻る様子が確認できます。めちゃくちゃ面白い指標じゃないですか?? この図を見ながら僕は思わず興奮しちゃいました。

さて、今回もこの手探りな自由研究にお付き合いいただきありがとうございました。今回も、自由研究の感謝の気持ちも込めて、任天堂の株を1万円分買いました。

ある程度買い方や予測方法が揃ってきたら、銘柄の選び方や株の買い方なんかも考えたいなと思いつつ、次もよろしくお願いいたします。