ドルコスト平均法を、ガチで分析してみた

“超”理系がゼロから投資はじめてみた/ 澤田 涼マツオカヨウスケ

「サンクトペテルブルクのパラドックス」を読む

物理学者って普段何してるんですか?

初対面の人に仕事を聞かれたときに、「大学で宇宙について研究してて、いわゆる物理学者をしております」と説明すると、いちばんよく聞かれるのが、

『物理学者って普段何してるんですか?』

という質問です。たぶん物理学者の生態系ってあまり世の中に知られてないようで、もの珍しそうに聞かれます。

ところで物理学者という生き物は日本に2万人ほど(*日本物理学会会員数)いるはずなのに、友達に物理学者がいる人が世間に少ないのは、きっと「物理学者は物理学者同士が友達で、ほかの世界に友達が少ないから……」。

というわけでせっかくの機会です。『(少なくとも)僕の普段の生態系』をお伝えすべく図に起こしてみました。

ちなみに昔からの友達に聞いた、僕から物理学者っぽさを感じる部分は『やたらと紙とペンを使って説明が必要な話をしたがる』ところだとか。自分の生活をフローチャートにまとめた直後にそんな指摘は殺生な……じゃあみんなどうやって説明をしているんだと聞くと、

『世間の人は紙とペンが必要な説明をそんな頻繫にしないのよ』と。

「ドルコストヘイキンホウ」……とは?

少し余談が過ぎました。さて今回の株の自由研究は、連載を読んだ知人のリクエストからのお話です。ちなみに分析してほしいリクエストがあれば(僕が正しい答えを出せるのかは別として)大歓迎で、色んな人から募りたい気持ちです。話を戻しますと、リクエストの内容は

「ドルコスト平均法の損得を、物理学者の視点で真面目に分析してみてよ」

と。……ドルコストヘイキンホウ? 株初心者の僕がそんな言葉を知るわけもなく、そそくさと調べてみたところ、株初心者におすすめされる超有名な投資手法なんだとか。存じ上げておらず恥ずかしい。

「ドルコスト平均法」とは
一定期間ごとに、一定金額で、同じ投資対象を買い付ける投資手法。例えば、一度に10万円の投資をするのではなく、毎月1万円ずつ10回に分けて投資するような手法のこと。

ただ超有名な分、ドルコスト平均法の詳しい説明やメリット、日興フロッギーでのやり方まですでにしっかりと記事になっていて(https://froggy.smbcnikko.co.jp/27125/)、僕のつたない説明よりもぜひそちらをおすすめしたいかぎりです。

というわけで、これはリクエストを受けて調べてみたものの、僕の出る幕はないなあ……と思ったのですが、ただ! 調べれば調べるほどに”研究者としては見過ごせない疑問”がむくむくとわきあがってまいりました。

決して、決して、これまでのたくさんの記事や説明を否定するわけではない、否定するわけではないことを入念にフォローしながら、どうしても気になったことがひとつ。

「どの説明でも、何パターンか簡単な例をもとに”ドルコスト平均法が得”であることを説明しているけれども、そのパターンは現実的な株価なのか……? そして都合の良いパターンを見せているだけではないのか……?」

どの程度普遍的に成り立つ説明で、本当に正しいのかがどーしても気になってしまう、これは研究者の性であります。いやはや、これは友達にしたくも無くなりますね、申し訳ございません。

「論よりRUN」

というわけで、今回の自由研究のテーマが決まりました。『ドルコスト平均法の損得を、“物理学者らしく”トコトン調べてみよう』というお話です。

とはいいつつも、株式投資の分析家の方々などからすれば手垢のついた題材です。どうやって分析しようものかとても悩ましい、むむむ。

すこし冒頭のお話に戻るのですが、物理学者あるあるのひとつに、「とりあえず自分の手で計算したがる」があります。家から最寄り駅までの最短経路も、遊園地のジェットコースターの残り待ち時間も、誰かに聞くよりまずは頭で簡単に計算してみたくなるのです。

この「ごちゃごちゃ考えるよりもまずは手を動かして計算してみよう」という精神を、物理学者の間では「論よりRUN*」と呼んだりします。

*パソコンで計算をすることを「計算をRUNさせる」という。

そうです、”物理学者らしく”というならば、どう分析するかを悩むより、まずは開き直って計算してみよう! ということで、今回は「 HPCシステムズ 」の株価を使って計算してみたいと思います。

では何をどう計算するのかといえば、要は「めちゃくちゃ膨大なパターンの”現実的な株価”でドルコスト平均法と一括購入の利益率を計算」してあげれば、都合の良いパターン以外もふくめて損得を調べることができるんじゃないかというアイデアです。

膨大なパターンの現実的な株価をどうやって……? とお思い方、安心ください。ここで活躍するのが第1回に作った数理モデルです。

このモデルでは「過去の株価の変化率から、未来の株価の変化率を乱数予測」したところ、かなり現実的な株価推移を再現してくれました。

今回はこの乱数予測をパソコンでえいやっと1000パターン(!)つくってみます。そうです、これぞまさしく「論よりRUN」。悩むより先に、1000パターン計算してみるのです。

ちなみに今回株価のデータとして参照した「HPCシステムズ」さんは、科学技術計算 (HPC)用コンピュータに関連する会社で、今回の自由研究の方針にピッタリかなと思って選びました。

1000パターンの利益率を計算してみた結果

さて今回の目的は、ドルコスト平均法と一括購入の利益率の比較でした。1000パターンの”未来の株価推移”のそれぞれで、

・最初に3万円分を一括で購入した場合(一括購入)
・毎日1000円ずつ30回に分けて購入した場合(ドルコスト平均法)

での、投資額に対する最終的な資産額の割合を計算してみた結果が次の図です!

100%が「購入金額=今の資産額(損得ゼロ)」の部分で、100%を超えているのが得、100%を下回っているのが損した場合を示しています。これは素晴らしい計算結果じゃないですか! 一目瞭然ですね!

さて落ち着いて、どういうことか説明しますと、ドルコスト平均法での結果は一括購入の結果に比べて、「160%以上の得が生まれる可能性が下がる」代わりに、「70%以下の損をする可能性を比較的抑える」ことが分かります。

そして個人的に注目すべきは、「いちばん可能性が高いピーク位置が、一括購入の場合より得に動いている」ことです。

短くまとめると、「ドルコスト平均法は大幅なリスク回避をしてくれて、一括購入よりも期待値が高い」ことを示しています。こうも計算結果が明瞭で、世に言われている仮説を立証していると気持ちがいいですね。今回も大満足です。

毎回ではありますが、今回のモデルや考え方もまた、株初心者がホントに思いついたままのアイデアと試行錯誤の足跡です。あくまでも”株価予測の自由研究”です。なので、あまり過度な信用は厳禁です。

さて今回も、自由研究の感謝の気持ちも込めて、HPCシステムズの株を1万円分買いました。手探りな自由研究に毎度お付き合いいただきありがとうございます。

今回は「とりあえずRUN」させてみたこの結果、次回はもう少し「論」を詰めてみたいと思います。