発売1ヵ月で大ヒット! 午後ティーの誕生秘話 【前編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

誕生から35年、日本の紅茶市場をけん引してきた『キリン 午後の紅茶』。一方で「甘くて美味しい」レギュラー3品(ストレートティー、ミルクティー、レモンティー)の人気ゆえ「無糖」や「微糖」カテゴリーの定着には数十年を費やしたとも。ブランドの第4、第5の柱はどのようにして市場を開拓したのか。キリンビバレッジ・マーケティング部のシニアブランドマネージャー、加藤麻里子さんに伺った。

透明なはずが濁る!? 試行錯誤を繰り返した『午後の紅茶』

――1986年に発売した『午後の紅茶』は日本初のペットボトル入りの紅茶です。当時は缶入り紅茶さえ売れ行きがイマイチだったそうですが、開発の背景を。

実は、初めから紅茶と決め打ちしていたわけではないんですね。「ペットボトル入りの飲み物」というお題のもと、煎茶やマテ茶なども候補にありました。そのなかで、入社2~4年の女性社員3人が「本当においしい紅茶を!」と提案したのが始まりだったと聞いています。おっしゃる通り、当時、缶入り紅茶はあったものの、手淹れの紅茶の味わいとは程遠く、売れているとはいいがたい状態だったのです。

キリンビバレッジ・マーケティング部のシニアブランドマネージャー、加藤麻里子さん

『午後の紅茶』は「茶葉から入れた本格紅茶」がコンセプト。最初に開発したのはストレートティーでしたが、この試作の初段階で壁に突き当たりました。紅茶は、冷めると濁りがでる”クリームダウン”という現象を起こし、白く濁ってしまいます。透明なペットボトル紅茶でこれはありえませんよね? 目指したのは「紅茶特有のきれいな紅色」だったのに、何度やっても「ミルクティー作ってるの?」と言われてしまったり。

一方で、発売時期はあらかじめ決まっていたため、開発チームのスケジュールはかなりハードでした。ストレートティーの糖分は15キロカロリーと少なめですが、日に何杯も試飲するため「1日の摂取カロリーはもう十分!」という冗談が飛び交うほどだったとか。そうした試行錯誤のなかで、冷やしても濁らない、透明感のある「クリアアイスティー製法」を開発しました。この技術は当時の業界でも画期的でいまの『午後の紅茶』にも受け継がれていますね。

1988年には「ミルクティー」「ストレートティー」「レモンティー」のレギュラーシリーズが揃い踏みします(※パッケージは現在発売中のデザイン)。

――1986年に発売し、初年度の通年目標が10万ケースでした。ところが、たった1ヵ月で5万ケースを売り切ってしまったそうで。

当時の販売推移を見ると伸び率はすごいですね。90年代になるとお客様発信なのかメディア発信なのか、定かではないのですが「午後ティー」の愛称で親しまれるようになりました。

特に、大きなターニングポイントになったのは500㎖サイズの発売です。最初に出したのはファミリー層向けの1.5ℓ。その後、缶入りなど容量展開は増えましたが、業界による自主規制もあり、500㎖ペットボトルが登場したのは10年目となる96年。発売後は「携帯できて便利!」と大ヒットしたんです。

当時、CMに小泉今日子さんを起用していたのですが、携帯できるサイズ感とお出かけを掛けて「コイズミトランクキャンペーン」を展開。こちらも話題になりました。97年が最初のピークで『午後の紅茶』は過去最高販売数量(※当時)の4370万ケースを突破しましたね。

『午後の紅茶』にも低迷期が。アイコンやロゴ変えの四苦八苦も

――97年のピーク後、午後ティーにも低迷期が。トレードマークの貴婦人アイコンもパッケージから消えていた時代があったようですね。

イギリスでアフタヌーンティーを広めた公爵夫人のイラストのことですね。現在も使われていますが、おっしゃる通り、2000年初頭の一時期、パッケージから消えました。代わって羽根やバラのアイコンが登場したり。また、『午後の紅茶』の5文字を2列で表示していた時期もありましたね。

どちらも低迷から抜け出そうとする試行錯誤でしたが、馴染んでいたデザインが突如変わったのはお客様にとってもマイナスだったようです。結局、貴婦人マークも以前のロゴもしばらくして復活しました。

この時の低迷の直接的な要因は無糖ブームが到来し、ユーザーがお茶やミネラルウォーター、ビタミンやカルシウム入りのニアウォーター飲料に流れてしまったこと。「紅茶は甘いから」「太るから」と敬遠されるようになったんです。98年から2000年初頭まで販売数はピーク時の半分近くまで落ち込みましたね。

「午後ティーにも低迷の時期がありました」

実際にはストレートティーは低カロリー。レモンティーは無着色です。打開策もここにあり、『午後の紅茶』のヘルシーさをプロモーションで訴求しました。同じ頃に松浦亜弥さんを起用して「あややアイスティー」を打ち出したのですが、こちらの評判もすごくよかったんですね。CMでお茶のようにゴクゴク飲めるイメージが喚起され、販売数量がアップしました。

ちなみに「あややアイスティー」の松浦亜弥さん、「コイズミトランク」の小泉今日子さんの両CMは今でも多くの人の記憶に残っているようです。お客様調査をするとお二人の名前がよく挙がります。

おにぎり効果で「無糖カテゴリー」から大ヒットが!

――レギュラー3品(ストレートティー、ミルクティー、レモンティー)は安定的人気を得たものの4つ目のスタンダード、「無糖」カテゴリーは定着までに時間を要しました。商品を出しては撤退する時代もあったとか。

そうなんです。市場がようやく形成されたのは2011年の『午後の紅茶 おいしい無糖』の誕生からです。ここにたどり着くまで7回新商品を出していますが、リニューアルを含めるともっと多いと思います。

『午後の紅茶 おいしい無糖』は2011年に発売(※パッケージは現在発売中のデザイン)。

最初に無糖を手掛けたのは1990年。まったく甘さのない商品として「プレーンティー」のネーミングで発売しています。けれど、従来のレギュラー3品の甘さに慣れてしまった人が多く、どうしても比較されてしまった。

「午後ティーなのに甘くないなんて!」「何か物足りない」と評価されてしまったわけです。その後も無糖カテゴリーの商品開発は続けましたが、レギュラー3商品の人気が逆にあだとなり、「甘くないけど美味しい」市場を築くのは難しかった。潜在ニーズはあるはずなのに、なかなか定着しなかったんです。

――7度目の正直で『午後の紅茶 おいしい無糖』は初年度7600万本の大ヒット。この時はなぜ、市場に受け入れられたのでしょうか?

大きな違いはプロモーションにあったと思います。それまでは「無糖なのに、おいしい」点にフォーカスをあてていました。けれど、『午後の紅茶 おいしい無糖』でフォーカスしたのはむしろ「意外性」の側面です。レギュラーの3品は甘みが強い分、午後や夕方のひと時や疲れた時に飲みたくなる。要は飲むシーンが限定されがちなわけです。日常的にちょこちょこ飲むという方は少ないと思います。

一方、『午後の紅茶 おいしい無糖』が目指したのは、日常的に飲めるポジションでした。お茶やお水のような立ち位置を目指すには、従来にはない「意外性」を訴求する必要があった。そこで行き着いたのが「おにぎりと一緒に飲む」という提案です。

「午後ティーなのに、おにぎりなんて合うの?」と当初はびっくりされた方も多かったと思います。けれど、やがて「午後ティーなのに、おにぎりに合う」へと意識が変わっていった。「午後ティーなのに甘くない(物足りない)!」という比較からくるネガティブイメージも上書きされていった気がします。

『午後の紅茶 おいしい無糖』は茶葉にこだわり、ネーミングにこだわりと、開発にものすごく苦労した商品だと聞いています。ですが、無糖カテゴリーでヒットした背景の一つには間違いなくこの「おにぎり効果」があったのではないかと思いますね。

後編では、無糖市場に続き、紅茶の微糖市場を開拓した『午後の紅茶 ザ・マイスターズ』やスリランカ紅茶農園支援等の社会貢献活動についてお話します。

「私のお気に入りは、やっぱりストレートティー」と加藤さん

キリンHD