セカオワがつきぬけた“勝因”

新R25よりおすすめの記事をご紹介/ 新R25編集部

毎月新R25の “表紙”を飾る、「つきヌケ企画」。

若手時代のモヤモヤを乗り越えブレイクのきっかけをつかんだ方々に、「つきぬけた瞬間~ブレイクスルーポイント~」と題し、モヤモヤ期から抜け出した瞬間のお話をお聞きします!

今回表紙を飾っていただくのは、SEKAI NO OWARIのFukaseさん。

「炎と森のカーニバル」「RPG」「Dragon Night」など……誰もが知る代表作多数。アーティストとして唯一無二のポジションを築き上げたバンドですが、本人の目線ではどこでつきぬけたのか? そしてつきぬけられた要因とは、いったいなんだったのでしょうか……?

〈聞き手=サノトモキ〉

記事提供:新R25

Fukaseさんが語る“つきぬけた瞬間”。「多くのバンドは、ここに高いハードルがある」


SEKAI NO OWARIはヒットソングも非常に多いバンドだと思うんですが……「俺たちここでつきぬけたな」と思う瞬間って、どこだったんでしょうか?


バンドを始めた瞬間ですね

バンドを始めた瞬間。曲のヒットとかではないの……?


僕たち、バンドを始めるより先に、廃工場の跡地を改装して「24時間自由に使えるライブハウス」を作ったんですよ。

東京都大田区にある「clubEARTH」。メンバー自らが自らの手でつくりあげたライブハウス。


ライブハウスを先に作ってて、「ならオリジナルソングも必要だよね」って曲を作りはじめた。誰かがノコギリで工事してるときに「ちょっとノコギリやめて~!」って言って歌録りするみたいな(笑)。
メンバーみんなで貯金全部はたいて、ギターのNakajinは消費者金融でお金も借りて


お、お金を借りてまで……! どうしてそこにこだわったんですか?


「逃げられない状態」を作りたかったんです。
たとえば、ライブハウスでバンドやってる子たちいますよね。
でもどんなにいいバンドでも、サポートメンバーが混じっていたり、就職して抜ける予定の子がいたり……全員が同じ方向を向いてるバンドってじつは本当にごく一部なんです。


ああ、でもそれビジネスの世界もそうかも……


そう。どんな世界でも同じだと思うんですけど……
チームって、「メンバー全員が同じ方向を向いて歩き出す」とういうこと自体が、じつはすごく高いハードルなんですよね。


よく、「デビューできるバンドは一握り」って言いますけど、正確には「全員が同じ方向を向けてるバンド」が一握りなんじゃないかなって
そこで多くのバンドが淘汰されてる
だから、“退路を断って、音楽に向き合える環境を作った”スタートダッシュの瞬間が、今につながる決定的な出来事だったと思いますね。


「スタートラインで退路を断つ」ことで、チーム全員が同じ方向を向けたと。


つきぬけた結果を出す人って、「選択肢のない人」だと思うんです。
みんな「腹が決まってる」。“あっちに行っておけばよかったな……”みたいな迷いがない。
何をやるにもリスクはつきものですけど、「そんなのハナからわかってるよ」という覚悟がある。むしろ、退路がないから、何もやらないことこそがリスクだと思える。
そういうことですよね。

FukaseさんがR25世代に教える課題の「向き合い方」と「細分化」


そんなFukaseさんから見て……
R25世代のビジネスパーソンが「つきぬける」ためにすべきことって、何だと思いますか?


うーん……イヤなことに「真正面から」向き合うことかな。
結果を出そうともがく過程で、「自分には無理だ」と怖くなってしまうタイミングが誰しもあると思うんですけど……
こういった類の恐怖って、目の前の課題と正面から向き合わず、背を向けた瞬間に生まれるんです。


どういうことですか?


課題に背中を向ければ、たしかに一時的に現実逃避できて楽かもしれない。
でも、ずっと“得体のしれないイヤなもの”が自分の後ろにいるわけですよね。その状態が一番恐怖心を煽られる。
恐怖ってだいたい、背後からやってくるんです。ホラー映画とかもそうじゃないですか(笑)。

たしかに……たとえがわかりやすい


でも、到底無理そうな壁が来たら、「イヤだな」と思ってもしかたない気も……
どうすれば逃げずに「真正面から向き合える」んでしょうか?


真正面から向き合うためのポイントは、「細分化」だと思います。
目の前の漠然とした不安や恐怖を、「実行できる具体的なタスク」になるまで細分化する。
たとえば僕も、曲を書くのが漠然と怖くなってしまったことがあったんですよ。「いつかいい曲を書けなくなったらどうしよう」って。


ほう……その不安、どう「細分化」したんですか?


ホワイトボードに箇条書きしていくんですよ。
不安を一つひとつ、「技術が足りてないのか」「いい曲とは何か」「今流行っている音楽はどういうものか」と全部言葉にしていく。
すると、“今の自分に足りていない部分”が明確になる。「イヤなこと」って、細分化すると「次のステージに行くためにやるべきタスク」に変わるんです。


(Fukaseさんがホワイトボードに……同じ人間なんだな……)


細分化できたら、一つひとつ真正面から解決していく。チームがあるならチームに対して、実際に言葉にしていく。「いいものが作れない……」だけで止まってしまうと、全然細分化が足りてないんです。
“恐怖に向き合う”って、すごいストレスだと思うじゃないですか。でも、じつはすごく健康的で
細分化して不安要素を「やるべき課題」に変えると、不思議とストレスに感じなくなるんですよね。

ホワイトボード、やってみます。皆さんもぜひ

頑張れるかどうかの見極めは、「できない」のか「やりたくない」のか。


たしかに、やるべきことに背を向けて「やらない理由」ばっか探してること、けっこうあるかも……
Fukaseさんみたいに「自分が本気で頑張れるもの」を見つけるには、どうすればいいんでしょう?


僕、受験勉強してたときに予備校の先生が言った言葉で、すごく心に残ってるものがあって……

Fukaseさんは「閉鎖病棟に入院する」という経験を経て、医者を志し勉強していた時期があるとのこと


先生は「東大は、1日13時間勉強すれば誰だって入れる。それを“できない”と思うのか、“やりたくない”と思うのか。ここがすべての分かれ目だよ」と言ったんですよね。


……? どういう意味なんでしょう?


「できない」と思ってるなら、1日13時間やれば絶対「できる」ようになるから安心しろと。
でも「やりたくない」と思ってることは1日13時間も努力できないから、「できない」
「自分がどっちなのか、今一度自分で考えてみろ」という意味で。俺はその言葉を聞いて、自分はそこまでして大学に入りたくないのかもって思っちゃったんですよね。


ああ、なるほど……!


でも音楽を始めてみて、「デビューなんてできないかも」と不安になった瞬間はいっぱいあるけど、「やりたくない」と思ったことは一度もなかった。ああ、こういうことかと。
仲間と暮らしながら音楽を作っているこの時間を、ずっと続けていたい。そのためならどんな努力もできたし、どんな壁にも背を向けず真正面から立ち向かって行けたんですよね。


「できない」のか、「やりたくない」のか……
考えたこともなかったけど、めちゃくちゃ大切な問いに思えてきました。


そうなんですよ。
目の前の課題が、「できない」のか「やりたくない」のか。それを自分に突き付けてみるのは、自分の本音を知るうえでいい手な気がします。
……ときに残酷な答えが出ますけど(笑)

SEKAI NO OWARIを押し上げた「退路を断つ」哲学。一見ストイックに思えますが、取材中Fukaseさんが口にした一言がとても印象的でした。

「勇気があるから退路を断てるんじゃない。退路を断つから勇気を持てるんです」

“前に進む”以外の選択肢をなくすことで、どんな課題にも真正面から立ち向かざるを得なくする。思い切ってこのループを始めてみたら、何かが変わるかも。そう気持ちが奮い立たせられる取材でした。

後編は、「つきぬけた後」のことつきぬけるために犠牲にしてしまったものと、その取り戻し方のお話です。お楽しみに!
後編を読む

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉

※この記事は、2021年6月1日に新R25に掲載された記事を転載したものです