「脱炭素社会」ってなに?

これだけは知っておきたいESG投資のこと/ SMBC日興証券 サステナブル・ソリューション部岡田 丈

環境問題を語る際に、目指すべき社会として掲げられる「脱炭素社会」。いったいどのような社会を指すのでしょうか。そこで今回は、 「脱炭素社会」とは何か、その実現に向けてどのような取り組みが行われているのか、事例とともにご紹介します。

「脱炭素社会」は地球の未来を守れる社会

大規模な洪水や猛暑といった異常気象が発生するたびに、テレビや新聞で地球温暖化が問題視され、世界全体で環境保全の重要性が多く語られています。

そもそも地球温暖化とは、二酸化炭素(CO2)やメタン・フロンなどを含む温室効果ガスと呼ばれる気体が増えすぎることにより、大気圏の外に逃げるはずの熱が適切に放出されなくなった結果、ビニールハウスのような状態になってしまい、地表の温度が上昇することを言います。

地表の温度が上がることにより、強すぎる大雨や巨大化した台風などの異常気象が発生して自然災害に繋がったり、ほかにも海水の温度が上昇することで生態系のバランスが崩れてしまうといった影響などが発生しています。

この原因となる温室効果ガスの発生を抑制することーー理想的には発生をゼロにすることが、地球環境を守ることに繋がると考えられています。

温室効果ガスの主成分となるCO2は、ガソリン車や船の動力として、また、火力発電で燃料を燃やす際などに多く発生します。

燃料を燃やす代わりに、電気自動車や太陽光発電などの代替技術を活用することでCO2排出ゼロを目指し、それが実現した社会のことを「脱炭素社会」と呼びます。

ただ、温室効果ガス排出ゼロを目指すといっても、たった一つの技術や商品によって一瞬で排出をゼロにすることは難しいです。様々な取り組みを組み合わせて、 徐々にCO2排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」に近づけていく必要があります。

カエル先生の一言

カーボンニュートラルとは、「CO2排出を完全にゼロに抑えることは難しいため、排出したCO2と同じ量を吸収することで、大気中のCO2を増加させず、CO2排出量の収支を実質ゼロにする」という考え方。CO2の吸収には、植物の光合成やCO2回収技術の利用等が考えられています。

カーボンニュートラルへのロードマップ

例えば、ある自動車メーカーが「2050年までに、自社が販売する車の100%を電気自動車にする」という目標を立てたとします。

すると、目標達成までに「2030年時点で60%」「2040年時点で80%」といった移行期間を経て、カーボンニュートラルに近づいていく道筋をたどることになります。

このような脱炭素に向けた取り組みの重要性は、国内外で広く認められつつあります。日本においては、2020年10月に菅首相(当時)が「グリーン社会の実現に最大限注力する」との所信表明を行い、2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

具体的な政策の一部として、以下のような取り組みが挙げられました。

「環境・社会課題解決の促進を金融面から誘導する手法や活動」をサステナブルファイナンスと言います。

このサステナブルファイナンスの推進に関連して、金融庁・経済産業省・環境省は2021年5月、温室効果ガス排出削減のために必要な資金を市場で調達することを推奨する「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」 を示しました。

これにより今後、海運や鉄製造、電気、ガスなどの温室効果ガス排出が多い事業分野のためのロードマップが策定される見込みです。

海運セクター:IMOの温室効果ガス排出削減戦略

1つ目は、国際連合の専門機関のひとつである国際海事機関(IMO)が掲げる温室効果ガス削減戦略です。

国際物流にを担う国際海運から排出されるCO2は、世界全体のCO2総排出量の約2.2%を占めます。海上輸送の需要は今後も増加傾向にあり、国際海運からのCO2排出量は増大が予想されます(2012年時点、出典IMO)。

このような状況を受け、国際的な海のルールづくりを担うIMOは、2018年に「今世紀中のなるべく早期に、国際海運からの温室効果ガス排出ゼロを目指す」戦略を掲げました。

CO2を排出しない燃料の導入や、運航オペレーションの効率化などを具体的対策としています。

(IMO「船舶から排出される温室効果ガス(GHG)削減に関するIMO戦略」をもとにSMBC日興証券が作成)

これにより、海運事業を行う世界中の企業が脱炭素に向けた取り組みを自社戦略に取り入れることとなり、海運業界全体のカーボンニュートラルへの移行が期待されています。

例えば、国際海運事業を中心に物流・客船事業を展開する「 日本郵船 」は、IMOの目標に沿った温室効果ガス排出削減目標を策定し、2050年までに温室効果ガス排出量50%削減を目指しています。

同社は「NYKグループESGストーリー」を策定し、重油からCO2排出ゼロ燃料への転換や船舶軽量化、新技術開発など、具体的に6つの施策を提示。これら施策を進めるためには、長期的な視点からの積極的な投資が不可欠となることでしょう。

ガスセクター:日本ガス協会のカーボンニュートラルチャレンジ2050

2つ目に、日本ガス協会の「カーボンニュートラルチャレンジ2050 」をご紹介します。

日本ガス協会は国内の都市ガス業者からなる業界団体で、「ガス業界は主要エネルギー産業の1つとして2050年の脱炭素社会の実現を牽引していくべき立場にある」との認識から、2050年までに「ガスのカーボンニュートラル化」実現を目指しています。

これはガス業界にとって、とても難易度の高い目標で、達成のためには、業界全体での積極的・革新的な取り組みが必要と考えられます。

大阪ガス 」は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、2021年1月に「カーボンニュートラルビジョン」を公表しました。

ガスビジネスに係る脱炭素技術の実用化には、長い時間と多大なコストがかかり、継続的な取り組みが必要です。大阪ガスは省エネ技術開発やオペレーションの効率化などを通じ、段階を踏んで2050年カーボンニュートラルを実現するロードマップを定めています。

このように、各分野の事業団体等が舵をきることで取り組むべき課題が明確になり、各企業がカーボンニュートラル化に向けた取り組みを加速する動きが強まっています。

今そこにある危機

今回の記事では「脱炭素社会」をキーワードに、日本政府や国内企業が掲げる目標を見てきました。

地球温暖化が問題視されて久しいですが、実際に世界各地で異常気象が散見されるなど、危機感をもって取り組むべき課題になってきていると皆さんも実感していることと思います。

事業活動にCO2排出をともなう企業にとっては、カーボンニュートラルへの取り組みは慈善的な活動ではなく、積極的に推進すべき活動であるという認識が、今後さらに浸透していくのではないでしょうか。