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みなさんこんにちは! 公認会計士税理士の山田真哉です。
これまでこの連載では、会社員の方にオススメな節税対策をいくつかご紹介してきましたが、そもそもの話、なぜ節税対策が必要になるほど、会社員の税金は高いんでしょうか……?
そこで今回は、会社員の税金が高い理由について、最も割合を占める所得税と住民税に話を絞りつつ、現行の税金制度が生まれた背景をひも解いていきたいと思います。
会社員の税金にまつわる3つの制度
会社員の税金制度は、源泉徴収、年末調整、確定申告、この3つの制度が複雑に組み合わさっているのが特徴です。
それぞれの制度について簡単に説明すると、以下の通り。
年末調整:年末に会社が従業員の税金額を調整する制度
確定申告:税金額を自分で確定させて、税務署に申告する制度
詳しくは、この後またご説明いたします。
それではさっそく、これらの税金制度が生まれた背景を見ていきましょう。
3つの税金制度が生まれた背景
話は今からさかのぼること80年ほど前、昭和初期からスタートします。
当時は、税務署が税金を決めていました。
あなたの地区は、税金100万円です。
このように、税務署が税金を決めることを賦課(ふか)課税と呼んでいます。これを受けて、
私たち地元の名士で、各家庭の税金を決めておきます。
地元の名士たちが集まった「所属調査委員会」というところが、各家庭の税金を決めていた、そんな時代でした。
しかし、その後戦争が始まります。
戦争に費用がかかるため、給与から税金を先に引くであります!
戦費の調達のために「源泉徴収」という制度が始まりました。そして戦後、アメリカのGHQが日本の大蔵省に命令を出します。
税金も民主主義デース! 国民が税金をみずから申告する制度にシテクダサーイ。
これに対して、
全国民が税務署に来る!? 業務が増えるから嫌なのですが……。
ダメデース! 全員が確定申告するべきデース。
わ、わかりました……(とりあえず制度だけ導入してあとでこっそり骨抜きにしよう)。
という流れで、「源泉徴収」に加えて「確定申告」という新制度が始まります。
ところが、戦後まもなくの時期で人手は足りない状況。源泉徴収も確定申告も、やりとりにとても手間がかかります。そこで当時の大蔵省が考えたのが、源泉徴収した従業員の税金額を、年末に会社が調整する「年末調整」という制度です。
これは、税務職員の人手不足を何とかするために考えられた制度です。本来は税務署で税金を計算しなきゃいけないことを、会社にやってもらう。この制度が70年経った今でも残っているという状況なんです。
年末調整は、会社員の方が給料のほかに、扶養家族の人数や生命保険などの保険料を申告すると、後は会社が確定申告の手続きをしてくれます。
その結果、会社員のだいたい8割の人が年末調整だけで済むようになりました(副業をしている人や医療費がかかった人などは、年末調整でもらえる源泉徴収票というものをベースに確定申告してね、という制度になりました)。
つまり、当時GHQが言っていた確定申告を骨抜きにしたのが、この「源泉徴収と年末調整」という制度なんですね。
会社が年末調整をする際にポイントになるのが、経費についてです。本来、経費というものは人それぞれ違うはずですから、会社が社員ひとり一人の経費を計算しなきゃいけないんですが、それは会社にとって大変ですよね。
なので、年末調整をする人は一律の経費にしてしまおうと。実際の経費の額はわからないから概算の経費にしてしまおう。これが「給与所得控除」というものです。
給与所得控除自体は年末調整の制度ができる前からあったんですが、これをより拡充したという感じですね。
その結果、給与額に応じて最低55万円から最高195万円(※令和2年分以降)までというふうに、一律の経費が決められました。これが会社員の特徴でもありますね。
個人事業主や政治家の場合は……?
一方、年末調整がない個人事業主や不動産の大家さんなどは、実額経費になります。実際に使った経費を必要経費として計上できますよ、ということです。じつは、この違いが、のちに大きな社会問題になります。
それは、1960年代から言われるようになった「所得捕捉率」の問題です。所得捕捉率とは、本来課税対象とされるべき所得のうち、 税務署がどれだけちゃんと割合を把握しているか、を示す数値のことです。
所得は税金を取る元になるものですが、この所得は「9:6:4」で、しばしばクロヨンと言われます。税務署がわかっている所得は、会社員は9割、自営業は6割、農業などは4割、という状況です。
つまり、会社員は課税される所得をほぼ把握されているけれど、自営業は6割、農業などは4割くらいしか税務署に把握されていない、ということです。
「クロヨン」よりもっと所得捕捉率の差が広がった状態を表す言葉が「トーゴーサンピン」です。
会社員は10割、自営業は5割で農業などは3割、政治家については、政治資金の1割くらいしか所得が把握できていないと。つまり、税金も10分の1しか納められていない、というのがトーゴーサンピン説です。
会社員の税金が高い理由
なぜこんなことが起きるのかというと、先ほどお話しした、会社員の概算経費がポイントです。
会社員の経費額は動かせない一方で、個人事業主や農業、政治家は実額経費です。なので税金を減らそうと思ったら、経費を増やせばいいわけです。
プライベートかどうか微妙なものも、ある程度経費に入れたりするので、自営業の所得補足率は6割、農業などは4割と言われるような問題が起きてしまうんですね。
所得税率自体は、どの業種でも一緒なんですが、経費の入れやすさ、入れにくさが業種によって違う。このため会社員は、課税所得が9割、10割、ちゃんと把握されて、その結果きちんと税金を納めていることになっていると。
会社員の税金が高いのは、他がズルしやすいから、ということなんですね。
それで、社会問題化した結果どうなったかというと……
じつはそんなには変わっていません! じゃあ会社員も確定申告すればいいじゃないか、実額経費を認めれば良いじゃないかという話もありますよね。だいたい諸外国は、概算経費と実額経費の好きなほうを選べる、あるいは実額経費しかないという国が多いんですが、日本の国税は頑なでこの概算経費しか選択できません。
なぜなら、やっぱり年末調整を続けたいからですね。やはり全国民が確定申告をすると税務署がパンクする、大変になる。これを避けつつ、効率的に税金を取るには、この年末調整という制度が有効に機能しているというわけなんですね。
会社員がするべき節税策とは
じゃあ会社員は、どうすればよいの? という話を最後にしましょう。
ひとつは「特定支出控除」といって、会社員にも実額経費を認めますよっていう制度があるんですが、これは実際のところ、非常に使いにくいです。ハードルが高いので、あまり利用されていないというのが現状です。
つまり結局のところ、会社員は基本に忠実な節税策をとるしかないです。
たとえば、
・iDeCo
・企業型DC
・扶養親族
・住宅ローン減税
などですね。このあたりのお話は、過去記事や動画でも紹介していますので、良ければご参考ください!
というわけで今回はこのへんで。またお会いしましょう! ばいば~い!