市場はあるのに競合が少ない! 歯間ブラシ【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

「売れっこない」の声を物ともせず、小林製薬が1987年に発売した『糸ようじ』。姉妹品の『やわらか歯間ブラシ』と共に歯間ケア市場のトップブランドとなり日本人の歯の健康を守ってきました。

「新商品の開発はこの先も続きます。人生100年時代に寄り添えるようなブランドでありたいですね」ーーこう語る同社ヘルスケア事業部の西村誠司さんに定番商品の成長譚(せいちょうたん)を伺った。
ヒットは予想外!? 市場を創った『糸ようじ』【前編】を読む

「歯茎にあたって痛い」を解消した『やわらか歯間ブラシ』

――糸ようじの姉妹品として、1995年には歯間ブラシも発売。こちらもトップシェアの売上になっていますね。

歯科衛生士が薦める商品といえば、デンタルフロスと歯間ブラシではないでしょうか。フロスタイプの『糸ようじ』が浸透してきた頃合いに、新たな歯間ケアとして弊社が着手したのが歯間ブラシという流れですね。

両者は購入層が少し違うんですよ。フロスユーザーは30代前後の方が多いですが、歯間ブラシは50代以上の方のご使用が圧倒的です。加齢とともに歯茎が下がり、歯と歯の間の三角スポットが広がってくる年代がターゲット層になります。

小林製薬 ヘルスケア事業部の西村誠司さん

なお、歯間ブラシをスタートした90年代半ば、市場の主流は金属製のワイヤータイプでした。小林製薬も最初はワイヤータイプでしたが、お客様から「歯茎にあたって痛い」「硬くて使い心地がよくない」という声がありました。

そこで、ゴムタイプの『やわらか歯間ブラシ』を開発しました。柔らかな使い心地が好評で、リピーターがたいへん多い商品になっています。

――『やわらか歯間ブラシ』は『デンタルドクター』というブランドで発売されていた時期もありました。何か狙いがあったのでしょうか。

狙いというより、迷走していた時期ですね(笑)。歯間ブラシとしては始めに『糸ようじ』ブランドで展開し、その後に『デンタルドクター』というブランドを立ち上げ、再び『糸ようじ』ブランドに戻しています。

歯科医が薦めるシリーズとして確立したかったのですが、なかなか認知度が上がりませんでした。結局、20年以上の歴史がある『糸ようじ』を活用した方が良いだろうと判断しました。

その後は商品力と相まって徐々に人気が上がり、今ではこちらも歯間ブラシ市場で売上ナンバー1(※2020年1月~2020年12月 累計金額/インテージSRI調べ)の商品です。

『糸ようじ』シリーズだが売上は本体よりも大きい

同商品のパッケージには現在も『糸ようじ』のロゴが入っていますが、そろそろ取ってもいいかなとも思っています。実は、糸ようじ本体よりも歯間ブラシの方が販売数は上なんですね。

後発スタートの商品がなぜ成長したかというと、もともとの市場がフロスよりも大きく、歯間清掃具市場の半数を占めているから。

弊社においてアイテム数が多いのも歯間ブラシの方です。超極細から太いタイプまでサイズ展開をしていますし、奥歯に入りやすいL字型などのラインナップもある。

また、重要なことは歯間ブラシは競合が少ないということ。特にゴムタイプを扱っている会社は数えるほどです。

一方のデンタルフロスは100円ショップにも商品が置いてありますよね。ライバルの数は当然、関係してきます。

「ポキッと折れない」の再現は真似できるものではない

――市場は大きいのに競合が少ない! つまり、歯間ブラシは参入しにくいカテゴリーということですか。

そういうことです。デンタルフロスの作りは比較的シンプルですが、歯間ブラシの製造技術は難度が高いんです。『やわらか歯間ブラシ』を例に取ると、一番の難しさは先端の細いブラシが「ポキッと折れないこと」。

バランスが悪いと、奥歯をガリガリ磨くことで折れてしまうこともある。素材選びももちろんですが、折れないようにするためには柔軟性が必要です。一方で、柔軟性がありすぎてもフニャフニャして使いづらくなってしまう。

折れにくいブラシの開発には長年の試行錯誤があった

さらに言えば、汚れをかき出しやすいように、工夫したブラシの突起部分はミリ単位の技巧です。持ち手とブラシは2つのパーツを溶着していますが、極細なので加減が悪いとこちらもポロッと抜けてしまう。

歯間ブラシの開発は細かい部分の調整が難しく、真似をしようと思って真似できるものではないんですね。お客様の声を取り入れつつ、商品の改良は何度か行ってきましたが、相当な試行錯誤がありました。

年月をかけて「折れにくい」「汚れを取りやすい」テクスチャー(質感・構造)が完成してきたわけです。

――商品パッケージにも工夫がありますね。

こちらは『糸ようじ』も『やわらか歯間ブラシ』共通ですが、開封後もそのまま容器として使えるよう、フタがシールになっています。

2012年に改良したものですが、水が入ったりしないようにしっかりと留められます。シリーズの商品パッケージは当初大きめで「洗面所のスペースを取る」という声もあったんですね。

省スペースで置きやすいコンパクトなサイズ感も意識しており、60本のお徳用サイズは上下で割って重ねることもできます。

「割って重ねられる」「そのままフタシールができる」などパッケージにも工夫が

人生100年時代に寄り添うブランドへ

――それにしても、市場がないと思われていた発売当初に比べ、歯間ケアのマーケットは急速に拡大しましたね。

そうですね。特に2007年以降は市場の拡がりが目立ち、『糸ようじ』シリーズも13期連続で売上を更新中です。背景に何があったかというと、この年以降、健康増進法により歯周病検診が推奨されるようになったことが挙げられます。

歯の健康が全身の健康に影響することも周知され、歯間ケアの習慣が根づきやすい土壌が生まれましたね。

ちなみに、市場が大きいのは歯間ブラシですが、現在伸びているのはデンタルフロスです。

これまでフロスを使ったことのなかった若年層の使用も増えてきていますし、歯間ブラシと異なり年代の区切りのない商品でもあり、お子さまから高齢者まで購入層は幅広くまだまだ期待が持てますね。

――新しい習慣を根付かせ、日本人の歯を守ってきた『糸ようじ』ブランドですが、担当者として日々思うことはありますか。

日本人の平均寿命は現在女性は世界一、男性は第2位です。人生100年時代とも言われますが、100年生きるのであればできるだけ長く健康でいたいし、美味しいご飯を食べたいですよね。

健康な歯を保つための歯間ケア習慣はとても大切です。僕らはライフタイムバリュー(顧客生涯価値)と言っていますが、それこそ「ゆりかごから墓場まで」お使い頂けるブランドでありたい。

『糸ようじ』にはキッズ用もありますし、子どもたちにもフロスの習慣を浸透させたいです。そのためにはまずは子育て世代です。

いずれお父さん・お母さんとなりうる若年層を含め、フロスの使用率が高まるよう、積極的にアプローチしていますね。

――商品としては成熟期に入っている印象を受けますが、現場の感覚としてはゴールはまだ先なのでしょうか。

『糸ようじ』ブランドのチームは研究者や成型を担当する者など10人程度のメンバーで運営していますが、「今に満足せず、もっと良い商品を作ろう」とよく言っています。

まだまだ改良できることはあると思っています。目下、検討しているのは使い捨てではない商品を開発すること。

衛生面から使い捨てで展開してきたものの、お客様のコスト面やエコという観点の両方、また、競合他社と差別化という意味から、どうにかしたいと考えている分野です。

詳しくお話はできないのですが(笑)、遠くない将来にお客様へお届けできるよう、チーム一丸となって進めていきたいと考えています。
小林製薬