社長と若手の雑談から生まれた日本一のコスメ【前編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

販売本数は累計で2億8000万本以上! 日本一売れている化粧水であるロート製薬の『肌ラボ』シリーズは、同社が目薬製剤で得た知見を活かし、ヒアルロン酸をスキンケアに応用したものだ。

「多くの人にお使い頂くために価格設定を重視。製剤以外のコストは徹底的にカットしています」と語る、プロダクトマーケティング部の奥野久仁子さんにお伺いした。

目薬のノウハウが化粧品にも

――ロート製薬といえば目薬を思い浮かべる人も多いと思いますが、現在、スキンケア分野の売上が6割以上を占めています。なかでも『肌ラボ』は国内外で200億円規模のブランドになっていますね。

2004年にスタートし、おかげざまで国内120億円、海外80億円の売上規模まで成長しました。スキンケアは「肌の健康を守る」という前提で、製薬会社だからこそのノウハウが活かされています。

たとえば、『肌ラボ』シリーズの主成分はヒアルロン酸ですが、眼の領域でも着目されており、会社として知見のあった分野です。

人をなるべく介さない、半自動化での製造も目薬の自動化製造からヒントを得たもの。衛生面でのメリットもありますが、何よりコストダウンにつながっています。

ロート製薬・プロダクトマーケティング部の奥野久仁子さん

――化粧水を基軸に『肌ラボ』は乳液、洗顔料などほとんどのアイテムが1000円以下です。「手に取りやすい価格帯」は多くの人に使ってもらいたいから。

弊社の化粧品ブランドに『オバジ』という高価格帯のラインがありますが、お求めやすいブランドの確立が課題としてあったんですね。

顔だけではなく首や体などにもたっぷりとお使いいただき、なおかつ継続してほしい。実現するためには価格設定は重要でした。

しかし中身には妥協したくなかったので、資材であったり、製造面であったりのコストを徹底して削っていますね。

――もう一つの出発点が「成分にフューチャーしたコスメを作ること」。若手社員と社長の雑談が背景にあったと聞いていますが。

そうなんです。開発当時の2000年前半といえば、ポリフェノールの抗酸化作用が話題に上るなど機能面への関心が高まってきた時代。

店頭でも「成分にフューチャーした化粧品」が徐々に伸び始めており、それに気づいた社員がアイデアを出したのが始まりです。社長はその場でGOサインを出しましたね。

ヒアルロン酸に関しては会社に知見があったのですが、動き出した前後で原料メーカーさんから「スーパーヒアルロン酸」という通常の2倍の保水力を持つ成分を紹介されました。タイミングの良い偶然も重なっています。

中価格帯のスキンケアとして発売された『肌ラボ 極潤』は、複数シリーズを展開

社長と若手の雑談から生まれた『肌ラボ』

――120年強の老舗企業でありながらベンチャー的な社風です。若手の案をすぐに取り入れる社長もすごいですね。

企業によっては社長に提案するまで何段階ものプロセスが必要になるかもしれませんが、ロート製薬はトップまでの距離が短いんです。

社長室はなくワンフロアのフリーデスク制、社内には「ロートネーム」というニックネームがあり、役職で呼び合うこともありません。

当時、社長だった山田邦雄(現会長)も社員から「邦雄さん」と呼ばれていました。若手でも社長と気兼ねなく話せる環境があったからこその『肌ラボ』とも言えるかもしれません。

また、こうした環境は開発スピードにも影響を与えています。成分コスメの本格ブームが来る前に発売したかったため、『肌ラボ』の開発期間は半年ほど。

かなり厳しいスケジュールでしたが、部門間の垣根がないのが幸いし、製剤のサンプル作り、デザインやネーミングなど担当者レベルで一気に形になっていったんですね。

「上司に相談してから」というフレーズが出ることもなく全てが並行しながら進んでいく。「とりあえず、やってみよう」と次々動けたからこそ実現できたと感じています。

『肌ラボ』は担当者レベルが集結し、半年ほどで形になったという

――特に苦労した点はありますか。

やはり、中身である製剤の部分ですね。ヒアルロン酸には特有なとろみ感があり、配合のバランスに気をつけないと使い心地が悪くなってしまうんです。

また、ヒアルロン酸にもたくさんの種類があって、分子量の差でも肌なじみ感は異なる。分子量違いのいくつかのヒアルロン酸を絶妙な配合比で処方設計することで、抜群の心地よいうるおいを感じる使用感を生み出しています。

さらに、より多くの方に安心してご使用いただくために、安全性面の試験もクリアをしています。品質担保を前提にしつつ、保湿力の高い化粧品を作るまでには試行錯誤がありましたね。

一方で、開発の助けになったのが「パーフェクトシンプル」というブランドのコンセプトです。

最初の一歩は「肌にすごく良い成分が入っていればそれでよし」としました。大切なものはしっかり入れる、けれど、それ以外のものはそぎ落とす。ムダをそぎ落とすことにより、肌に良い成分の効果に焦点をあてることが狙いです。

配合成分を複雑にしすぎず、香料なども入れない。このシンプルさもスピーディーな開発につながったと思います。

なお、『肌ラボ 極潤』は2種類のヒアルロン酸でスタートしたのですが、その後リニューアルし、現在4種類を配合しています。配合のベストバランスを見つけるのに100回以上の試作をすることもありますね。

「必要なものが入っていればそれでよし」がスタート地点だった、という奥野さん

コスト削減が環境にやさしいブランドにつながった

――ロート製薬が培ってきた医薬品などの販売チャネルも活かしつつ、『肌ラボ』は2004年に全国のドラッグストアなどで発売。初年度20億円といきなりヒットしました。

化粧品なのにパッケージには大きな文字で「ヒアルロン液」。化学薬品の容器のようだという評価もありました。綺麗なデザインの化粧品が多い中で異質な存在だったと思います(笑)。

ですが、逆にそうしたデザインだったからこそ、ヒアルロン酸への本気度が伝わったのかなとも。成分にこだわるお客様が増えていた時代ニーズもあって、潜在的な需要をキャッチできましたね。

――発売翌年には化粧品で珍しかった詰め替え用のパウチも展開。「環境に優しいブランド」という方向性はこの頃から意識していたのでしょうか。

当初はエコというより、「いかにムダをそぎ落としてシンプルにするか」という観点からのスタートでした。

2005年のことですが、シャンプーなどの詰め替えはあっても化粧品の詰め替えはほとんど出回っていない時代。ゴミを減らせるという点でも業界の先駆けになりましたね。

資材関連にお金をかけないことは環境配慮にもつながりやすく、「買いやすい価格帯」であることでより多くの人が持続的に使用できSDGsにも寄り添えているかなと感じます。

化粧品のパウチは業界の先駆けだった

「成分以外にお金をかけない」のモットーは段階を踏んで進化しています。

実は発売から1年ほどは、ガラス瓶の容器を使用していたんですよ。「化粧品といえばガラス瓶」という当時の常識にのっとったわけですが、容器のコストはもちろん、製造において手作業が多くなってしまう。

2年目からはプラスティック容器に変え、人手が少なくてすむ半自動化製造に徐々に移行しました。

『肌ラボ』は現在20ヵ国以上で展開していますが、容器もほぼ世界共通です。ボトルを統一することで製造時の工程の手間が減り、コスト削減にもつながる。

規格が同じなら出荷用の段ボールにも無駄なく詰め込めますから、結果的に環境負荷を減らすことにもなります。

2019年には植物由来の原料を一部に用いたバイオマス容器やパウチを採用するなど環境配慮にはより気を遣うようになりましたね。

後編では『肌ラボ』シリーズのターニングポイントについてお話したいと思います。

ロート製薬