「4秒に1本売れる」のキャッチで日本一のブランドへ【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

販売本数は累計で2億8000万本以上! 日本一売れている化粧水であるロート製薬の『肌ラボ』シリーズは、同社が目薬製剤で得た知見を活かし、ヒアルロン酸をスキンケアに応用したものだ。

「多くの人にお使い頂くために価格設定を重視。製剤以外のコストは徹底的にカットしています」と語る、プロダクトマーケティング部の奥野久仁子さんにお伺いした。
社長と若手の雑談から生まれた日本一のコスメ【前編】を読む

「売れては伸び悩み」を繰り返した

――13年連続で日本で一番売れている化粧水になりました。ここに行き着くまでのターニングポイントは。

壁は何度もありましたね。「上手くいっているな」と思ったらそのまま横ばい、「少し上がったかな」と思ったらまた横ばい、その繰り返しだった気もします。

前編でお話ししましたように、発売初年度は「メジャー商品にはない新しさ」を求める方や「成分コスメの機能性」を求める方にご好評を得て、スキンケアの新しい市場を切り開きましたが、肌ベネフィットの訴求に課題が残り、ニッチ感から脱却できずにいました。

どうにかできないか……悩んだ末に打ち出したプロモーションは「もちもち」という、誰でも理解できる肌ベネフィット訴求と、売上実績を活用した「4秒に1本売れている化粧水」シリーズというキャッチコピーです。

ドラッグストアで化粧品を買われるお客様には「売れているものを買いたい」「みんなが使って安全だと認められているものを買いたい」という心理があります。

その王道感を正面から打ち出したわけですが、狙いはあたり、一気に売上が倍増しました。売れている実績をアピールしたことで、今度は「日本で一番売れている王道ブランド」になったのです。

ロート製薬・プロダクトマーケティング部の奥野久仁子さん

ただし、これでゴールということはもちろんなくて。2019年前後、逆にこれが足かせになる時期が来ます。

「みんなが使っているような商品はイヤ。自分はもっと良いものを使いたい」と捉える方が増えてきた。リーズナブルな価格帯ゆえ、安かろう悪かろう神話ではないですが、「メジャーだけど安っぽい」といったイメージを持たれる方もいらっしゃったり。

こうなるとNo.1ブランドであってもは取りこぼしも出てきてしまいます。そこで、単に売れているだけじゃない、中身のよさ故にお客様の「肌」に支持されていることを伝えるため、「肌支持率No.1」というプロモーションを打ち出しました。

美容研究家の方に『肌ラボ』の良さやヒアルロン酸の優れた機能性をレビューしてもらい、ブランドのバリュー感をお伝えすることもしました。

――中でも特にフォーカスしたのがプレミアムシリーズです。多数の女性誌でベストコスメ1位に選ばれるなど製剤そのものが認められるようになりました。

ベーシックラインの『極潤』は4種のヒアルロン酸で展開していますが、プレミアムシリーズでは7種のヒアルロン酸を配合しています。

評価が評価を呼ぶ形で保湿ラインの『肌ラボ 極潤 プレミアム』、美白ラインの『肌ラボ 白潤 プレミアム』とも圧倒的な伸び率になりました。

極潤プレミアムシリーズ 7種のヒアルロン酸を贅沢に配合した

『肌ラボ』は「4秒に1本売れる」のキャッチで、日本で一番売れている化粧水になり、「肌支持率No.1」のキャッチでさらにステージを上げ、国内120億円のブランドに成長しましたね。

化粧水を使う国は実は少数派?

――海外でも80億円規模のブランドです。ロート製薬には『メンソレータム』ブランドで培った多数の海外拠点があったそうですが、チャネルを活用しつつ海外の成長率も高いです。

2008年から海外戦略をスタートし、アジアや欧米など現在20ヵ国以上で展開しています。ただ、日本のように化粧水を使う習慣がない国が多く(化粧水は使わずにクリームやミルクのみでスキンケアを完了する)、ヒアルロン液(化粧水)の啓蒙に苦労してきました。

肌ラボの根幹はブランドの原点でもある「極潤ヒアルロン液(化粧水)」ですので、どうしてもこの商品でブランドの良さを伝えたいのです。導入以来、現地スタッフの地道な努力によりかなり根付いてきています。

また、化粧水提案と並行してブランドとお客様との接点を広げるために、各国のスキンケア習慣やトレンドに合わせて、日本では取り扱っていない商品も多数発売しています。

例えば、台湾ではシートマスクが人気ですので日本以上にバリエーションがありますし、美容液が根付いている韓国ではそちらにも力を入れていたり。

提案しているアイテムは国ごとに多様ですが、どの商品も「ヒアルロン酸」をベースにした潤いを大切にしていることは共通です。

その国のスキンケア習慣に合わせ限定商品の展開も

ヒアルロン酸は可能性だらけの成分

――『肌ラボ』として多数のラインやアイテムを展開してきましたが、今後、ブランドとしてどの方向に舵取りをするのでしょうか。

保湿から美白、アンチエイジングなど複数のラインもあり、商品としては現時点でひと通り提案できたかなと感じています。

今後は既存商品をヒアルロン酸軸でいかに進化させていくかですよね。製薬会社ですから「健康な肌とは何か」は時代ごとの定義の中で模索していきたい。

例えば、現在はコロナ禍の中でマスクが常態化し、肌の不調を訴える方が増えています。マスクの摩擦で肌が赤くなったり、ニキビができやすくなったり。

不安定な状態の中で肌に優しい商品、肌の免疫を上げるような商品が求められていると感じています。

『肌ラボ』で「健康な肌とは何か、を模索していきたい」と奥野さん

新商品の開発やリニューアルは「新しいヒアルロン酸が見つかった時」が多いですが、今後もお客様の悩みに答えられるような提案をしていきたいですね。

ヒアルロン酸の研究も日々進んでおり、紫外線などの炎症を抑制する効果も発見できていますし。

――新しいヒアルロン酸ですか! まだまだ可能性がある成分なんですね。

ヒアルロン酸を語り出すと、それだけで1時間くらい経ってしまいます(笑)。この成分は本当に奥深くて、潤いや炎症、傷の修復などさまざまな作用が判明しつつあるんですね。一方で、解明されていないことも多いんです。

眼球の大部分を占める硝子体(しょうしたい)にはヒアルロン酸が含まれていますが、「なぜ、目にヒアルロン酸があるのか?」は奥深いテーマです。

体内のいたるところにヒアルロン酸は存在しますが、眼球にあるものと関節にあるもの、表皮にあるものとでその役割もさまざまです。

「表皮のヒアルロン酸は何のために存在しているのか?」、解明されればスキンケアでできることもさらに広がるかもしれません。非常に面白く、可能性だらけの成分だと思います。

――『肌ラボ』ブランドの担当者である奥野さんに、どのような想いでお仕事をされているのか、改めてお聞きしたいです。

目指す地点は「世界中の人たちがいつも健康な素肌でいられること」です。

日本だけではなく世界中の肌を守る、その鍵を握るのがヒアルロン酸だといっても過言ではないくらいに、『肌ラボ』はヒアルロン酸を信じているブランドです。

単に売上を伸ばすだけではなく、人々の肌の健康のためにどう進化していくか。担当者としては、責任感とプレッシャー、同時にやりがいを感じていますね。

手前味噌ながらロート製薬は「人」そのものに意識を向けてきた会社で、商品を「誰に届けたいか」という思いが常に念頭にあります。

私自身、複数のブランド立ち上げに関わってきましたが、そのどれもが「自分が使いたかったり、知人に使ってほしい」がきっかけでした。

『肌ラボ』も世界中のひとりひとりに向けて発信している気持ちで展開していきたいですね。

ロート製薬