アイス業界の常識破る最短出荷への挑戦【前編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

年間出荷数なんと2億個以上! 単品アイスで売上日本一を誇る『チョコモナカジャンボ』は「製造から出荷まで5日以内」を目標とする、アイスなのに鮮度を重視するという異例のマーケティングに取り組んできた。

実はこれは、売上が伸び悩んだ過去に「トップになるにはどうしたらいいのか」考えつくした結論だった。森永製菓・マーケティング部の村田あづささんに伺った。

最初は真ん中のチョコがなかった?

――『チョコモナカジャンボ』は来年で50周年を迎えます。モナカとチョコのパリパリが絶妙ですが、歴史の前半戦は今とは形状が異なっていたそうです。

1972年の誕生時には、真ん中のチョコがありませんでした。当時は『チョコモナカ』という名前で、イメージしたのは板チョコのような形状のモナカアイス。

森永製菓が開発するアイスとして「お菓子メーカー発案のアイス」にこだわってスタートしました。

モナカの内側には今と同様、チョコのコーティングをしていましたが、当時はモナカのパリパリ感を保つ目的というより、チョコの風味を楽しむためのものでしたね。

1972年に発売した『チョコモナカ』。モナカ内側のチョココーティングは今につながる技術のひとつ

『チョコモナカ』としてスタートした商品は1980年に『チョコモナカデラックス』として生まれ変わります。真ん中にチョコが入ったのはこの時から。ただ、当時は板チョコではなくチョコソースを使っていました。

1980年発売の『チョコモナカデラックス』。中央のチョコはソース仕立てだった

赤字覚悟の大増量! 『チョコモナカジャンボ』へ

――当時の売れ行きはいかがでしたか?

決して悪くはなかったのですが、定番と呼ぶには決め手に欠けるというのが正直なところで。1990年代に入ると市場競争が激化し、コンビニのアイス売り場を各社が奪い合うような時代になりました。

『チョコモナカデラックス』もリニューアル直後は店頭に商品が並びます。ですが、しばらくすると別のブランドに取って変わられてしまったり。当時の担当者は「どうしたらもっと売れるようになるのか?」とかなり悩んだと聞いています。

マーケティング本部・冷菓マーケティング部 村田あづささん

転機となったのは1996年です。真ん中のチョコソースが板チョコに変わり、モナカの山は12山から18山へ。容量は従来の1.5倍にアップしましたが、価格は据え置きです。

大容量サイズがアイスのトレンドになっていた頃ですが、社内では当然、議論もあったようで。ですが、「このままでは生き残れない!」という担当者の強い熱意で実現し、このタイミングでネーミングも『チョコモナカジャンボ』に変わっています。

ーーかなりのリニューアルですが、手ごたえは早いうちからありましたか。

サイズを大きくしたことでパッケージ映えするようになり、社内でも「これは売れるのでは?」という期待感が高まりました。

実際、売り場でも目立ちましたし、コンビニでの取り扱いも増えました。ですが、もう少し。もう少しのところでトップレベルには届かない。「さらに売れるには何をすればいいのか?」、試行錯誤の日々はまだまだ続きました。

アイス業界では異例の「5日以内出荷」を目標に

――目指すは圧倒的なトップだったと。その信念から「鮮度マーケティング」というアイス業界の常識を覆す取り組みが生まれます。

「製造から5日以内に出荷すること」を目標にそれを超えてしまうような在庫を抱えないように管理しています。これを社内では「鮮度マーケティング」と呼んでいますが、アイス業界では本当に異例の取り組みでした。

そもそもの始まりは、品質チェックのために工場から本社に送られてくるサンプルのアイス。製造からさほど日が経っていないので、できたてモナカのサクサクパリパリ感が「すごく美味しい!」と担当者間で評判だったんです。

この「パリパリ感」は『チョコモナカジャンボ』の大きなテーマで、モナカとアイスとの間にチョココーティングをするなど吸湿防止の技術はこれまでも進めてきました。

ですが、時間が経つにつれ、アイスの水分は徐々にモナカにしみ込んでしまう。これは物理的に避けようがなく、できたてのパリパリ感をお客様に味わってもらうには製造から店頭に届けるまでを短くするしかありませんでした。

モナカのパリパリ感は『チョコモナカジャンボ』の重要なテーマ

とはいえ、最初は社員も半信半疑です。業界事情をお話しますと、アイスは賞味期限のないカテゴリー。法的にも賞味期限の印字は免除されていますし、冷凍保存をしている以上、鮮度という考え方をあまりしてこなかった業界でした。

加えて、アイスは夏と冬とで市場規模が大きく異なります。ピークは7月、8月に集中し、そこで年間の4分の1量を販売する。アイスそのものに賞味期限がないことから、シーズン到来前に多めの在庫を準備しておくのは業界の通例でもありました。

こうした背景ゆえ「本当にできるの?」という声が出るのも当然だったわけですが、担当チームはそれでもやると決めました。

流通在庫をギリギリまで圧縮し、売れる分だけ供給する。理屈でいえば、そのコントロールができれば「鮮度マーケティング」は可能になるわけです。

「できたてのパリパリ感で『チョコモナカジャンボ』はもっと売れる!」、その信念から始まりましたね。

製造効率を落としてもやる。それが『チョコモナカジャンボ』

――定着するまで、これまた苦労があったそうですが。

スタートから数年はかかっています。

取り組み自体は2000年初頭からですが、商品パッケージに「パリパリ!」の表記を入れたのは2003年から。当初は品質のコンディションもなかなか安定せず「パリパリと打ちだすにはほど遠い」と記載に至らなかったんです。

「パリパリ!」表記ができたのは、社内だけではなく小売りから卸し、業者の方々のご協力があってこそ。

「鮮度マーケティングは、社内外でたくさんの方のご協力があってこそ」と村田さん

というのも、森永製菓がコントロールできるのは「5日以内の出荷を目指す」ところまで。店頭での回転率は地域やお店によっても違います。

そこは今も試行錯誤しているところですが、日を置かずにお客様にお届けできるよう、在庫チェックは徹底的に管理しています。

基本は「店頭在庫を少なくし、売れた分だけを発注していただく」こと。滞留しがちな場合は適正な在庫数に調整します。

会社としては発注がたくさんあるほど嬉しいわけですが(笑)、鮮度が大事な『チョコモナカジャンボ』の場合、「もう少し減らしましょう」とご提案することもありますね。

――製造現場は鮮度マーケティングの要です。工場もフレキシブルに対応されているそうですね。

アイスは通常、月単位で製造計画を立てますが、『チョコモナカジャンボ』は週単位。たとえば、秋になっても気温が30度近くなるような日は即座に品切れになってしまう。その場合は、翌週の生産数を増やします。

もちろん、逆もあって、冷夏で販売数が伸び悩み、「来週の製造をストップしてほしい」とお願いすることもあります。

工場側からするとありえない話ですし、製造業として大変効率の悪いやり方です(笑)。ですが、ジャンボに関してだけは「鮮度を追求する!」と決めて臨んできました。

アイスの製造計画は月単位が多いなか、『チョコモナカジャンボ』は異例の週単位で

気象データの活用で、アイスの売れ行きを予測する!?

――現在は、需要予測の精度を高めるため、日本気象協会と提携。天気のAI予測も製造計画の参考にされているとか。

天候はアイスの売れ行きを左右します。過去には『チョコモナカジャンボ』でも夏に向けて大量に出荷した後、梅雨明けが長引き、何週間も在庫が残ってしまったという苦い経験があります。

かつて、インターネットが情報ツールになりたての頃までは、新聞の天気予報欄をチェックし、アナログで予測を立ててきましたが、精度を上げるため2017年に日本気象協会の「需要予測」を導入しました。

これは全国各地の日別、週別、月別のアイス需要量を予測するもの。「『チョコモナカジャンボ』の過去数年間の出荷実績」など膨大なデータと、日本気象協会のこれまた膨大な「天候データ」を共有しつつ分析しています。

もちろん、最終的には、天候だけではなくその時期のプロモーションの有無やCM放送などを考慮しつつの数字になります。ですが、ありがたいことに「需要予測」は有効で近年は大きく生産計画から外れることは少なくなってきました。

アイスには、前日よりも温度が高くなった日に売上が伸びるなど一定の傾向値もあります。お客様にできたての商品をお届けするべく、さまざまなツールを使って「鮮度マーケティング」のクオリティを上げていきたいですね。

後編では『チョコモナカジャンボ』の姉妹品の『バニラモナカジャンボ』や冬限定商品についてもお話させて頂きます。

森永製菓