売上倍増! 「チョコのないジャンボなんて」からの大逆転【後編】

なぜ売れ続ける? 担当社員が語る、あの企業の定番商品/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

年間出荷数なんと2億個以上! 単品アイスで売上日本一を誇る『チョコモナカジャンボ』は「製造から出荷まで5日以内」を目標とする、アイスなのに鮮度を重視するという異例のマーケティングに取り組んできた。

実はこれは、売上が伸び悩んだ過去に「トップになるにはどうしたらいいのか」考えつくした結論だった。森永製菓・マーケティング部の村田あづささんに伺った。
アイス業界の常識破る最短出荷への挑戦【前編】を読む

発売39年目の新フレーバー、『バニラモナカジャンボ』

――2011年には『バニラモナカジャンボ』を発売しました。ブランドスタートから40年近く経ってからの新フレーバーですが、どういったいきさつがあったのでしょう。

本当に満を持して、という感じですよね(笑)。前編でお話した鮮度マーケティングの甲斐もあり、『チョコモナカジャンボ』は2011年頃には確固たるブランド力を築いていました。けれど、一方でどうしても取れないニーズがありまして……。

そもそもチョコが好きではないという方、アイスの醍醐味は「やっぱりバニラ」という方は一定数いらっしゃいます。モナカアイスとしてのポジショニングを強化するためには「やはり、バニラがないと!」、そうした声が社内でも高まっていたんです。

マーケティング本部・冷菓マーケティング部 村田あづささん

とはいえど。バニラのモナカアイスは当時すでに競合他社さんで強いブランドがありました。ここでバニラをぶつけるとしたら、相当な覚悟で開発しないと難しい。

『チョコモナカジャンボ』ではチョコとモナカのパリパリ感を訴求してきましたが、『バニラモナカジャンボ』はバニラアイスクリームそのものの圧倒的な美味しさを追求することにしました。同じシリーズとはいえど商品設計は別で、両者はバニラアイスの乳成分から違っているんです。

――『チョコモナカジャンボ』はアイスミルクですが、『バニラモナカジャンボ』はアイスクリームです。

そうなんです。アイスとひと口にいっても乳成分量によってカテゴリーが変わり、「ラクトアイス」「アイスミルク」「アイスクリーム」の3つがあります。

食品衛生法では、乳脂肪分が3%未満なら「ラクトアイス」、乳脂肪分が3%以上なら「アイスミルク」、乳脂肪分が8%以上なら「アイスクリーム」と定められています。

一般的には乳脂肪分が多いほど濃厚でコクのある味わいが楽しめます。通(ツウ)の方はこの表示をチェックして購入されます。『バニラモナカジャンボ』は、濃厚さを求める方にファンが多いのです。

乳脂肪分は8%と『チョコ~』より高い『バニラモナカジャンボ』

『チョコモナカジャンボ』の人気を逆手に取り、売上急上昇へ

――伸び率としては本家をしのぐ勢いだそうですが。

昨年、冬限定で発売した『バニラモナカジャンボ』は前年比2倍の伸び率で推移しました。ただ、『チョコモナカジャンボ』の初期と同じで、コンビニのアイス売り場に並べてもらえるのは最初のうちだけ。

リニューアルからしばらく経つと「チョコだけでいい」とか「バニラモナカは他商品があるから、2つもいらない」と下げられてしまったり。販売が下降して店頭から消えてしまうということが続きました。

今思うと、プロモーションの方向性も少し違ったのかなとは思います。

当初は『チョコモナカジャンボ』のブランド力に頼り、「バニラモナカジャンボもよろしく」といった訴求だったんですね。アンケートを取ってみても、消費者の記憶に残っているのは100%チョコの方。

バニラの存在はなかなか浸透せず、SNSで話題になったとしても「いやいや、チョコ買った方がお得でしょ」とか「チョコなしジャンボなんて誰が買うのか」といった辛辣な声ばかりでした。

「チョコの方がお得でしょ、とSNSでは当初さんざんでした」と村田さん

けれど、社内では『バニラモナカジャンボ』のファンは多かったんです。私自身、バニラ派です(笑)。濃厚なバニラ感に自信はありましたし、『チョコモナカジャンボ』の「ついで」で紹介するのはあまりにもったいない。

そこで、2019年にはプロモーションを見直し、『バニラモナカジャンボ』単体のCMを放映。「チョコが入っていない分、バニラうますぎる」という、『チョコモナカジャンボ』を逆手に取ったメッセージによって販売数が伸び始め、よいサイクルに入り始めたんです。

――今春からはモナカのパリパリ感もアップしていますね?

バニラモナカジャンボとしてさらにおいしさを追求した大きな品質リニューアルです。これは『バニラモナカジャンボ』独自のもので、開発には3年かかりましたね。アイスの両側にホワイトチョコの壁を作ることで、モナカに水分が移りにくい構造に変えました。

単純に見えるかもしれませんが、モナカにチョコとクリームを同時に充填するのは至難の業。試作レベルではうまくいってもいざ工場で試作すると安定しない。チョコを挟み込むことで味のバランスも変わってしまうため、調整も必要でした。

苦労の甲斐はあり、この改良は『バニラモナカジャンボ』の好推移をさらに後押しすることになりました。チョコとバニラ、両方がコンビニに並ぶのが理想でしたが、そのパターンも増えてきているんですね。

冬アイス市場はまだまだ成長。期間限定商品で市場活性へ

――チョコ、バニラとも冬限定バージョンが好調です。冬アイスも毎年のイベントとして定着してきたように思いますが。

ひと昔前は「冬になったらアイスは食べない」という方もいらっしゃいました。冬のアイス売り場といえばお店の端の方でシーンとしているような状況でした(笑)。それが、住環境の変化もあり「暖かい中でアイスを食べる幸せ」も楽しみの一つになりました。

数量的には夏と冬ではまだまだ7:3くらいの開きはあるものの、冬の伸びしろと捉え、2019年から冬限定商品を投入しています。

先に発売したのはバニラです。背景にはロングセラーアイスゆえの難しさがありました。先ほどお話ししましたように、これがものすごく売れたんですね(笑)。反響を受け、翌年には『チョコモナカジャンボ』の冬限定バージョンも投入。

バニラの伸びを見た後でもブランド的にはチャレンジで、不安はあったのですが、これも杞憂に終わりました。食べ比べできる楽しさもあり、限定商品はSNSで話題になりやすい。トライアルにつながる利点も多く、今年も11月から1月下旬までは冬仕込みバージョンで発売します。

今年も冬限定バージョンを発売

なお、通常品との違いですが『バニラモナカジャンボ』はクリームから変えており、ミルクのリッチ感が増しています。『チョコモナカジャンボ』の方はクリームはそのまま、チョコだけを増量しました。

冬の方がよりはっきりした味を好むお客様が多いんです。冬アイスだからこそのリッチ感を楽しんで頂きたいですね。

赤と緑の原色ロゴを絶対に変えないその理由

――発売から50年近く経った今でも売上を伸ばし続けていますが、客層などの変化はありますか?

幅広い年代の方にご購入頂いていますが、近年の伸びを下支えしているのはシニアの方です。

日本の人口ボリュームからいえば当然の傾向ともいえるのですが、アイス市場全般とくらべてもジャンボはシニアからの支持率が突出しています。「パッケージの色合いで探してます」という方が多いんです。

ジャンボの担当デザイナーは30年以上変わっていません。赤と緑がアクセントのジャンボのデザインは決して洗練されたデザインなどではないかもしれないですが、認知度が高く、売り場では、目立つんです。

赤と緑のロゴを目印に手に取ってくださる方がいる。なので、このデザインは「絶対に変えてはいけない」と思っています。

もちろん、シニアに限らずどの年代においてもライフステージはひと昔前と大きく変わりました。冬アイスもそうですが、アイス市場自体、変化の中にあります。深掘りしていくことで新しいチャンスが見えてくる。

『チョコモナカジャンボ』は担当者である自分から見てもすでに大きなブランドですが、絶対に変えてはいけない部分と進化させていく部分、バランスを取りつつこの先もトップブランドであり続けたいですね。

森永製菓