老後の資金がありません

今日からお金賢者になれる「1分書評」/ 日興フロッギー編集部

天海祐希主演で映画化もされた本作。「老後は安泰」のはずの平凡な家庭が冠婚葬祭を機にすっからかんに。主人公の奔走する姿にツッコミを入れつつ、同時にわが身を振り返る、ある意味シミュレーションにも使えそうな小説です。

老後の資金は半径1メートルの関係性から破綻する!?

定年を控え、「老後の資金がない!」ことに、はたと気づくことほど恐ろしいこともないでしょう。

主人公の場合、遊んで暮らしてきたたわけでもない。サラリーマンの夫はまずまず勤勉、自らもパートに出つつコツコツ貯金を貯めてきた。

同程度の生活レベルと思っていたママ友が「580円の台湾バナナを買っていたこと」に心がザワザワし、「うちはいつも200円のフィリピンバナナなのに……」と思う程度に庶民だったのです。

が、このまま平穏、地味な生活が続くと思いきや、老後資金計画をかく乱するイベントが続出。

「大手チェーンの御曹司が相手ゆえ、長女の結婚式に600万も!」「長生きしすぎて資産がパンクした夫の両親、月9万の仕送りに泣く!」「と思えば、舅の葬儀と墓で400万!」。その上、夫婦そろってリストラに遭い、退職金もゼロに! 

あれよあれよという間に、貯金残高は300万を切ってしまいます。

「そんなバカな!」「他にやりようがあるでしょ」とツッコミを入れるまでが、実は1セット。台湾バナナでザワザワする主人公ゆえ、「そんなバカな!」とは読者以上に思っている。

葬儀の際には「棺桶というものは一目見て高級か安物か、わかるものなのか?」と直球の質問をしたりもする。香典は断り、簡素に徹した知人の話を聞き、「なぜ、うちもそうしなかったのか」と本気で後悔したりもする。

これらの下りは「冠婚葬祭でやりくりに失敗した人」と「冠婚葬祭でやりくりに成功した人」が交互に出てくるハウツーもののよう。読者にとって、それが近い将来でも遠い未来でも、思わずシミュレーションしてみたくなるというもの。

どんどんお金が減っていく様は(他人事だけに)ある意味、清々しくページをめくる手が止まりませんが、教訓も多いです。

①老後資金というものは、当人の散財よりも当人プラス半径1メートルの関係性から破たんしがち。②一見、「余裕ありそう」に見える家庭ほど火の車――この2つは忘れないでおこうと思いました。