芸人界で受け継がれる「つき抜け法則」とは

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毎月新R25の “表紙”を飾る、「つきヌケ企画」。

若手時代のモヤモヤを乗り越えブレイクのきっかけをつかんだ方々に、「つきぬけた瞬間~ブレイクスルーポイント~」と題し、モヤモヤ期から抜け出した瞬間のお話をお聞きします!

今回ご登場いただいたのは、説明不要のつきぬけコンビ・かまいたち

実力派としてブレイクを確実にされながら、東京では想像以上に苦戦。どのように今の“大つきぬけ”な状況をつかみとったのか。

取材は朝から丸一日収録をしたあとの、夜18時スタート。超多忙のなか、20分という短い時間にも関わらず「笑いあり学びありの濃厚トーク」を展開し、嵐のように去っていきました……

記事提供:新R25

【濱家隆一(はまいえ・りゅういち)/山内健司(やまうち・けんじ)】吉本興業東京本社所属のお笑いコンビ。キングオブコント2017王者。M-1グランプリ2019準優勝


本日はよろしくお願いします!
今回は、ここで自分たちはつき抜けたなと思う瞬間についてお聞きしたいと思います。


それでいうと僕らもまだ「つき抜けてる感」を持ててないので…むしろこっちが聞きたいくらいで。
今もつき抜けてる人たちの背中見ながら「どうやってつき抜けてんの?」って思ってる毎日なんで。
自分の話となるとちょっとムズかs……


僕は、「デコだし」をした瞬間でしたね
ここで明確にワンステージつき抜けた感があります

濱家さん「コイツ……(笑)!」


食い気味に断言されましたが、「デコだし」とは……!?


僕、もともとずっと前髪を下ろしてたんですけど……
おでこを出すようになったらマジで流れが変わったんです。
「歌ネタ王決定戦」で優勝したりとか「キングオブコント」で決勝進出したり、ステージが変わる出来事がどんどん起こりはじめて。


それまでは、本当にずっと停滞してたんです。
大阪時代、『せやねん』っていうチュートリアルさんや中川家さん、千鳥さんという超「つき抜け」てる方々が代々レギュラーを務めてきた番組に、僕らも選んでもらって。


ふむふむ。


選んでもらったはいいものの、僕らはたぶん歴代最長でそのポジションに居たんすよ。
歴代のみなさんは賞レースでどデカい結果出してドーンと売れて卒業していったんですけど、僕らだけずっと「いつ卒業すんねんお前ら」って言われるみたいな。
後輩のこと考えても、僕らがずっとその座をせき止めちゃってる感じがあったんで、めっちゃ「いさせてもろてすみません」って思いながらやってて。


そんななか、ある番組企画で丸刈りになったんですね。
そのとき、千鳥のノブさんに「おでこは絶対出しておいたほうがいいぞ」と言われてたのを思い出しまして。


ほう、ノブさんが。


おでこ出したほうが「さらけ出してる人」感が出ていいらしいと。
そこから髪が伸びてもおでこを出すようにしたら、とんとん拍子に結果が出はじめて流れが変わったんです。シンプルすぎる話かもしれないですけど、「印象」ってめちゃ大事やったんやなと
つまり……僕の唯一のウィークポイントは“おでこ隠し”だったんですよね。

濱家さん「“唯一の”やったんや……知らんかったわ(笑)」

「全部出す」。“そこそこ芸人とつき抜け芸人”を分けたもの


でもたしかに、山内の「おでこ出す」ってわりと芯食ってるよなと僕も思うんですよね。
大阪から東京に進出したときに“全部出す”って意識に切り替えられたことが、僕らコンビにとってターニングポイントだったんで。


全部出す?


正直、僕らは大阪でそこそこ「芸人として満足できちゃってた」んですよ
食うことにも困ってないかったし、街歩いてたら声かけられたりチヤホヤしてもらったりもしたし。
ずっと同じレギュラー番組で、同じような仕事を5年〜7年くらいやってたんですけど、「もっと上に行くねん俺らは」「いつかは東京で」みたいな意識もある一方、わりと現状に満足して“こなしてる自分たち”もめっちゃいて。

これ、経験積んで中堅になってきたビジネスパーソンにもあるあるかも


でも山内がおでこ出して(笑)、キングオブコントに優勝して、東京に進出することになって……仕事内容がガラッと変わった。
今までは同じようにこなしてた仕事を、「この一回に懸けて、全部出す」って意識がめちゃくちゃ強くなったんですよ。


こなしていたところから、また「必死モード」になれたと。


もちろんそれまでの仕事も手抜いてたわけじゃないですけど、フルスイングはできてなかった。
当たり前ですけど、「思いっきりやるヤツ」じゃなきゃMCの方も共演者の方も助けてくれないし、面白いとは認めない。および腰なヤツに「もういっちょ振ったろか」なんて思わないじゃないですか。
中堅ぶらずもっかい「全部出す」ようになったことで、まわりの人が助けてくれるようになったっていうのはあると思うんすよ。そこが変われた要因かなとは思いますね。


で、今の話のすべてを集約してるのが「おでこ出し」なんですよ。
僕はノブさんから言われましたけど、ノブさんはピースの綾部さんから言われたらしくて。
これって、すごい先輩方から脈々と引き継がれてる法則なんですよね。
だから髪を下ろしている後輩にはめっちゃ言ってます。「とりあえずおでこを出したほうがいいんちゃう?」って

「おでこだし」を異常に押してくる山内さん

かまいたちのふたりが考える、「つき抜ける人」の特徴とは


ちなみに、自分たちの目線が上がったことで、つき抜けている人の共通点とか特徴とかって見えたりしますか?


いい人」。
共通点は明らかにそこ


東京でも大阪でも、テレビによく出てはる人は全員いい人です。嫌な人なんていない。
逆にテレビ出れてない人は、嫌な人です


いや、そんなことはない

「やめとけお前……基本みんないい人です」


すごい先輩たちは、本当に優しいです。困ってたら助けてくれる。
本番前とかでもプライベートの話をしてくれたりとか。とにかく気遣いがすごい。


それはたしかに。僕がさっき言った「とにかくすべてをさらけ出す姿勢」も、実際やるとなるとめっちゃ怖いんですけど……
「こいつ全力でやっとんな。よっしゃ助けたろ」と動いてくれる先輩が本当にたくさんいるんですよ。
東京で初めて会った芸人さんでも。


そうなんですね。


僕らもそれを経験しているから、「次そういう子を見たら絶対やってあげよう」ってどんどん思うようになっていくんですよ。
上の人たちもみんな、同じような経験をしているから優しいのかなとは思いますね。
恩が、上から下に流れつづけてるというか。


つまり一流の環境にいると、まわりが「いい人」たちばかりだからこそ、自分も「いい人」として磨かれていく……?


ああ…それはあるかもしれません。べつに自分が「いい人」とは思わないですけど、ちょっと「いい人」になってきた気がします
「恩返しできる人間にならないと」っていう。今日も収録してましたけど、自分らの番組に来てくれた後輩とかゲストの方を「絶対に変な感じで帰したくない」って思うし。
できてるかはともかく、共演者やスタッフに対して「いい人でいたい」と意識はするようになってますね。

ふたりともそこそこ恥ずかしそうなのがかわいかったです

「この辺で一番うまい、一番高い店へ行こうや」つき抜け後のかまいたち“金銭事情”


最後に、今日はABEMA初の冠番組『ぜにいたち』の収録だったと思うんですが……つき抜ける人にも「お金の使い方」の共通点があるのかなという、お話もお聞きしたく。
かまいたちさんのお2人は、つき抜け後「お金の使い方」って変わりましたか……?


僕スニーカー大好きなんですけど、スニーカー思いっきり買うようになりましたね。
昔から苦しいながらも買ってたんですけど、「履くか履かないか迷ったらとりあえず買う」ができるようになった。
その結果今200足を超えてて。置く場所なさすぎるし、履かないのめっちゃあるし……もう全部引き取ってもらおうかなと思ってますね

わりと本気でいらなさそうでした


濱家さんはいかがですか?


僕もだいぶ変わったとは思います。
メシ食いに行くときに「この辺で一番うまい、一番高い店へ行こうや」とかができるようになったのは、めちゃ変わったなって。
もともとお金がないときにも結構食べ歩いてたんですけど、その選択肢は広がったなと思う。

めちゃ正直に言ってくれる。夢がある……!


お聞きしてひとつ引っ掛かったんですけど……
おふたりとも「お金がない時代から“ないなりに”そこそこ使ってる」が共通点……?


僕も山内も「お金なくて……」みたいな情けない思いをしたくないとか、そういう気持ちはだいぶ強かったと思います。
どうせいつか絶対もっとデカくなるんやから」みたいな感じはあったかなと。


ただ、山内との根本的な差は「人間としてのスケールのデカさ」。山内はホンマ、豪快です。


いったいどんなところが……?


山内はとりあえず高い店行って、もしハズレでも「あんまおいしくなかったな。次いかんとこう」で全然ケロっとしてるんです。
俺は「こんな高い金払うんやったら、美味くないと納得できん。」って事前にめちゃめちゃ調べ上げるんですよ。口コミから何からぶーわ調べ上げてから行く。
元を……ちゃんと元を取りたいんです

ちょっと夢なくなってきた


さっき初めて聞きましたけど、「スニーカーを全部買い取ってもらおうかと思っている」というのもたぶんホンマやと思うんですよ。
こういう豪快さは、僕にはないです。
お金の反省エピソードも、僕は「全然いらんジャージ買ってもうた」みたいな小粒な話しかありません


しかも1500円とかのやつ


買う前もめっちゃ迷ってんのに。迷って迷って凡ミスしてる……

なんだこのかわいいやりとり……というゆるエピソードで本日はタイムアップ。ありがとうございました!

20分という短い時間でもたくさんの笑いと学びを提供してくれたかまいたちのおふたり。登場時の一言目は「すみません、収録押してしまって」。にじみ出る謙虚さ、「いい人」さの正体も取材を通して理解できた気がします。

“そこそこ”の現状に満足し、「全部出す」思い切りのよさを失ってしまう

芸人だけでなく、いろんな世界の若手〜中堅がぶち当たるであろうこの壁。みなさんもぜひ、「デコだし」で突破してみては……!?

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

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