株式投資の自由研究をはじめて半年ほど経ちまして、最近すこし困っております。と言いますのも、
「どの銘柄を買えばいいかわからない」
というとても初歩的な悩みです。とはいえ、「いやいや、そのための自由研究じゃないのか」という指摘をされるとぐうの音も出ず……。たしかに、数学をつかった銘柄の選び方の自由研究もこれから計画していますが、最近この自由研究のお話が僕自身ムズカしくなってきましたので、今回はすこし株価の自由研究をひと休み。
アタマの中を整理するためにも、株式投資の入口に立ち返ってみたいと思います。それは、「初めての銘柄選びは『自分が応援したい会社』を選んでみよう」という言葉です。今回はすこし株価の自由研究をひと休みして、僕が物理学者として応援したい会社のお話とその余談をしたいと思います。
みなさんは「 浜松ホトニクス 」という会社をご存知でしょうか?
浜松ホトニクス
物理学者の端くれである僕にとっては、この会社が世間でどの程度有名な会社なのか全く分からなくなるほど、とくに素粒子物理学の世界では、知らない人のほうが少ない会社です。
静岡県浜松市に本社を構える浜松ホトニクスは、 “受光(光を受けとる)”と“発光(光を発する)”の技術を突き詰めて、世界の“光電子増倍管”市場で90%のシェアを確保している企業です。
……と四角四面な紹介よりも、物理学者の目線からひと言で紹介するなら、「浜松ホトニクスは、日本に2つのノーベル物理学賞をもたらした会社」と、言っても過言じゃないかもしれません。それくらいに浜松ホトニクスは、日本の素粒子・宇宙物理学の最先端の研究を支えているんです。
スーパーカミオカンデ
この写真は、岐阜県神岡町にある物理実験施設「スーパーカミオカンデ」です。神岡鉱山に穴を掘って作られた容積5万トン(!)の水槽と、その表面に取り付けられた無数のセンサーからなる施設で、写真はその水槽の中の様子です。センサーが黄金色に輝いてとても綺麗ですよね、ジグソーパズルになってたりもします。
スーパーカミオカンデは、前身機のカミオカンデと合わせると、素粒子「ニュートリノ」の観測を通した宇宙の謎に迫る研究で、ノーベル物理学賞を2度受賞(2002年小柴昌俊氏,2015年梶田隆章氏)しています。
あれ、浜松ホトニクスの話は? とお思いの方、遅くなり申し訳ございません。このスーパーカミオカンデ表面に取り付けられた無数のセンサー「光電子増倍管」は、すべて浜松ホトニクスによる特注品なんです。スーパーカミオカンデは、浜松ホトニクスの光電子増倍管によって作られた実験施設と言っても過言ではなく、これが「浜松ホトニクスは、日本に2つのノーベル物理学賞をもたらした会社」とぼくが言った理由なんです。
これは余談ですが、このスーパーカミオカンデは「カミオカンデ」という実験施設の後継機で、いま着工中のさらなる次世代機は「ハイパーカミオカンデ」という名前がついています。ポケモンみたいですよね。
カミオカンデとノーベル賞の余談
折角の機会なので、浜松ホトニクスとカミオカンデ実験によるノーベル賞までのドラマに、ほんの少しだけお付き合いください。きっと、浜松ホトニクスとカミオカンデ実験の魅力が伝わると思います。
このカミオカンデという実験施設では、超巨大水槽に蓄えられた大量の水を、水槽表面の無数のセンサーで観察しています。「水をジッと観測するだけ?」と聞くとかなり不思議な実験ですが、これは物理学の未解決問題のひとつ陽子崩壊*という現象を探している実験なのです。
ここからが個人的にドラマチックなお話です。この陽子崩壊というのを観測するには、ものすごい精度のセンサーが必要でした。そこで、当時カミオカンデ計画の陣頭に立っていた小柴昌俊さんは、浜松ホトニクスに特注の光電子増倍管の作成を依頼したのです。ですが、なんと、浜松ホトニクスは小柴さんの期待を上回る精度の光電子増倍管の作成に成功しました。ほんとうにすごい。
そしてその精度は、陽子崩壊観測だけでなく、宇宙からの素粒子「ニュートリノ」を観測できる可能性があることが分かったのです。そこで小柴さんはカミオカンデ計画の方向性を、ニュートリノ観測実験も視野に入れたものへと急遽修正することにしました。ワクワクしてきましたね。
1986年の末ついにカミオカンデが無事完成しひと段落、ここからは陽子崩壊の瞬間を気長に待ちつづけるばかりになりました。すると、完成から半年もしない1987年2月、完成から半年もしないタイミングで、奇跡的に地球のとても近くで「超新星爆発」が起こりました。そして、なんとカミオカンデがその超新星1987Aからのニュートリノを観測することに成功したのです。とてつもない奇跡です。この観測が2002年の小柴さんのノーベル物理学賞受賞理由となっています。
ちなみに、僕が勝手に興奮しているこの「超新星爆発がどれほど“奇跡的だった”のか?」というお話。これ実は1987年以降どころか、ここ100年以上もの間、これほど近い距離での超新星爆発は一度として起こっていないのです。すごくないですか?
あのとき、浜松ホトニクスが小柴さんの期待を上回る精度の光電子増倍管の作成に成功していなければ。1987年までにカミオカンデの建設が間に合っていなければ。このノーベル賞級の研究成果はなかったのです。『奇跡は準備ができた者にだけ訪れる』とは時折聞きますが、これほどこの言葉が刺さるお話もないと思います。
現在稼働しているスーパーカミオカンデ、そして現在着工中の次世代機ハイパーカミオカンデは、このカミオカンデの歴史を継いだ実験施設となっています。もしニュースで名前を見かけたら、すこし注目してみたりしてくださいませ。
大好きな宇宙のお話にすこし饒舌になってしまいました。いかがだったでしょうか、株価の自由研究をひと休みして、日本の素粒子・宇宙物理学の最先端の研究を支えている浜松ホトニクスについてのお話でした。「『自分が応援したい会社』を選んでみよう」という思いで、浜松ホトニクスの株を10000円分買わせていただきました。
次回からは自由研究に戻りつつも、「物理学と企業」にまつわるこんな回も読みたいと思っていただけるのであれば、たまには書いていきたいなと思います。