相手が自分を“意識している”確率を、数学的に推測してみる

“超”理系がゼロから投資はじめてみた/ 澤田 涼マツオカヨウスケ

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相手が自分を“意識している”確率

すこし前に知人と盛り上がった話です。

「連絡をとりあっている相手が自分のことをどれだけ“意識しているか”って、メッセージに既読がつく早さから計算することできるんじゃない??」

この話のキッカケは、よくある恋愛についてのネット記事、『LINEの既読タイミングと脈アリ・ナシ』のアンケート結果を見かけたことでした。分かりやすい例を挙げると、下のようなものです。SNSやネットニュースでちょくちょく見かけますよね。

例えば、僕が気になっている相手にLINEを送って、「すぐに既読がついた」だけでは、相手が僕のことをどれだけ意識しているかなんて当然わかりません。けれども、数学と上のアンケート結果を組み合わせると、”相手が自分を意識している確率”をちょっとだけ具体的に割り出すことができる……かもしれないというのがこのお話です! 面白そうですよね、気になりませんか? すこし具体的に説明します。

ここから、“このアンケート結果を完全に信頼”してお話を聞いてください。相手が意識している確率なんて最初は全くわからないので、とりあえず可能性は半々だとしてみます。例えば「すぐに既読がついた」場合、どうして「すぐに既読がついた」のか紐解くと、

「相手が自分を意識している」50%
×「気になるから、すぐに既読がついた」70%=0.5×0.7=確率35%
「相手は自分に興味ない」50%
×「興味ないけど、すぐに既読がついた」10%=0.5×0.1=確率5%

となるわけです。ここからなにが分かるのか……? 説明しましょう、「すぐに既読がついた」という“事実”がある以上、いまありえるのは上記のふたつの確率のどちらか。つまり「相手が自分を意識している確率」は、全40%のうち35%、つまり……35/40=確率87.5%と導かれるわけです! やみくもに想像するより、かなり具体的に相手が意識している確率が分かった気がする! ……なんて、あくまでも、「あのアンケート結果を完全に信頼した」上で成り立つお話で盛り上がっていたわけでした。

ベイズ更新

このお話が面白いのは、「数学を使えば、なにも分からない状態から、得られた情報(LINEの既読速度)とアンケート結果から、主観的な確率を具体的にアップデートできる」というところです。こういった情報に基づいた“確率の更新”は「ベイズ更新」と呼ばれたりしております。

株のお話に進むまえに、「ベイズ更新」をすこしだけ深掘りします。この話題、面白いところにつながるのでもう少しだけお付き合いくださいませ。例えば、いまの話を使って、“LINEを送るたび” に確率をどんどんアップデートしていけば、最初に適当に仮定した半々という条件に関係なく、「いま最新の、相手が自分を意識している確率」を手に入れることもできるわけです。こういった逐一情報更新を進めていくのを「逐次ベイズ更新」と呼んだりします。

そしてもうひとつ、これはあくまでも、「あのアンケート結果を完全に信頼した」上で成り立つモデルであることをお忘れなく。例えば相手が用事中だった/忙しかったなどなど、アンケート上に存在しない理由で既読タイミングが変わったり、そもそも個々人の個性によって既読タイミングと意識の関係も違ったりするはずですよね。

なので、より詳細に確率を導くためには「アンケート結果自体」に相手の個性を反映させたものにアップデートしていく必要があったりするわけです。まぁ、人間関係というのはこんな理想的に分かるものではありませんが。

では、株式投資の世界に戻ってみましょう。この方法を用いて情報アップデートを繰り返すことで、より詳細に未来の株価の確率を推測する方法が当然存在するわけです。実はこれが、巷でよく聞く「機械学習」のひとつだったりするわけです。

ベイズ推論による株価の機械学習

キカイガクシュウ……!? 突然ワクワクする単語が出てきましたね! というわけで、今回の株の自由研究は「株価の機械学習」……と言いたいところなのですが、先に謝ります、これを易しく解説するには僕の説明力が足りません。ただせっかくなので、「いまの話がどう株価予測と関連するのか」その雰囲気だけでもお伝えしようと思います。

さっきのお話で株価予測をするためには、「アンケート結果」の株価版のものがあれば全く同じ話ができるはずです。恋愛話のときは「既読速度」でしたが、株価予測なら例えば「1日でニュース記事に社名が載った数」などを調査するわけです

さらにさっきのお話から「アンケート結果自体の精度」が重要だと分かりますよね。どれだけ推論の方法がカンペキでも、あのアンケートの数字が信用できないものならば導かれる答えも間違いだらけになっちゃいます。株価予測が恋愛よりも分かりやすいのは「毎日株価がどれだけ上がったか実際に答え合わせができる」部分です。その日の株価の結果を受けて、アンケート結果自体も更新することができるはずです。
つまり、株価の予測サイクルの手順は、

1)昨日1日でネットニュースに社名が載った数を調べる
2)分析アンケート結果を基に、昨日予測した「株価が上がる確率」を更新
―取引終了―
3)実際に株価が上がった/下がった結果と合わせて、アンケート結果自体を更新

というのを毎日繰り返すことで「より良い精度の株価予測」に近づくわけなのです! さらには「上がる/下がる」を「〇%上がる」などとさらに細分化したり、「1日でネットニュースに社名が載った数」以外の項目との関係性も調査したりすることで、いろんな因果を加味しつつより精密な予測となっていくわけですね。これが「機械学習を用いた株価予測」……の正体のひとつだったりするわけです。

というわけで、今回はこの辺で。ただ、せっかく “株価予測の自由研究” の連載ですから、キカイガクシュウの全貌が見えてきたからには次はもう少しだけ具体的に進めたいですね。

さて、今回もこの勝手気ままな自由研究にお付き合いいただきありがとうございました。今回は、たくさん話題に上げたLINEサービスを展開する「 Zホールディングス 」の株を10000円分買いたいと思います。次もよろしくお願いいたします。