ESGの「S」ってなに?

これだけは知っておきたいESG投資のこと/ SMBC日興証券 サステナブル・ソリューション部岡田 丈

最近、耳にする機会が多くなったESG(イーエスジー)。

今回は、ESGの中でも「S」を意味する社会(Social)に注目していきます。しかしながら社会(Social)と言われても、あまりにも範囲が広くて、イメージがつきにくいもの。そこで、今回は社会(Social)に関する具体的な取り組み事例とともに、ESGの「S」を紹介していきます。

ESGの「S」=社会(Social)ってなに?

一般的にESGの中の「S」=社会(Social)とは、「社会全体で解決していかなければならない問題」を指します。たとえば、「ジェンダー格差の撤廃」や「労働者の権利の保護」「ダイバーシティの推進」や「ワーク・ライフ・バランスの確保」などが具体的な取り組みです。もう少し広いテーマであれば、「地域貢献活動」「自然災害により影響を受けた(受けている)人々および国・地域等への支援」「紛争・内戦により影響を受けた(受けている)人々および国・地域等における復興支援」などが挙げられます。

公共性の高い事業を本業とする組織や団体、多くの民間企業が「社会全体で解決していかなければいけない課題」の解決に向けて、いま積極的に活動しています。つまり、それぞれが主体的に「S」に関連した取り組みを実施し、持続可能な社会全体の実現につなげていこうとしています。それでは、具体的な取り組みを見ていきましょう。

「多様性」に寄り添うANAグループの取り組み

写真: ANAグループ

ANAグループ( ANAホールディングス )は、国と国、地域と地域を結ぶ日本を代表する航空会社です。同社は環境負荷の少ない新世代・省エネ機材を積極的に導入するなど環境への取り組みを進めています。

近年、ESG経営を推進するために重要課題(マテリアリティ)を掲げて、課題の解決を進める企業が増えています。そうした中、ANAグループではESG経営の中の「S」として、「人権尊重の徹底」「地域創生」「お客様の多様性への対応」などを掲げています。

ANAグループの重要課題(マテリアリティ)

たとえば「お客様の多様性への対応」。ANAグループでは「すべてのひとに優しい空」の実現に向けた「ユニバーサルなサービス」を掲げています。具体的には、障がいのある方や高齢者向けに、傾斜のあるスロープや長距離移動に便利な電動アシスト車いすの導入を進めています。

電動アシスト車いすの他にも、金属探知機に反応しない樹脂(非金属)製の車いす(「morph(モルフ)」)の導入も実施しています。また、車いすに対応した設備の改修を行い、搭乗手続きカウンターにローカウンターを設置しました。

これにより、車いすを利用する方々や、座ったままでの手続きを希望する方々に配慮した高さのカウンターが実現しました。搭乗ゲートでは車いすやベビーカー、歩行車を利用する方々が、これまで以上にスムーズに通過できるよう、搭乗ゲート幅の拡大を進めています。

上記の取り組みをはじめとしたユニバーサル対応は、順次各空港内で導入が進められています。今後、みなさんも様々なところで目にする機会があると思います。これらが、まさに企業における社会(Social)への取り組みです。

電動アシスト車いす(写真:ANAグループ)

搭乗手続きカウンターにローカウンターを設置、搭乗ゲート幅の拡大

ANAが目指す「ユニバーサルなサービス」

開発途上国のSDGs達成に取り組む政府機関”JICA”(ジャイカ)

次に、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に実施する政府機関として、開発途上地域等の社会・経済の開発を支援している、独立行政法人国際協力機構(JICA)の取り組みをご紹介します。

みなさんは「JICA海外協力隊」をご存じでしょうか?
「JICA海外協力隊」とは、開発途上国で現地の人々と共に生活し、同じ目線で途上国の課題解決に貢献する活動を行うボランティア事業です。「JICA海外協力隊」の歴史は古く、日本政府の海外支援として1965年から始まっています。

JICAはこれまで5万人以上の協力隊員を98ヵ国へ派遣してきました。協力隊員は開発途上国における社会課題の解決や異国文化間の相互理解において重要な役割を果たしています。また、派遣先の国の人々による日本社会や文化の理解が深まり、日本を巻き込んだ新たなビジネスが生まれるなど、日本の外交において欠かすことのできない取り組みです。

JICAでは、「JICA海外協力隊」のほかにも、下の表のような様々な事業を行い、開発途上地域の発展を目指した支援を行っています。

※JICA提供

JICAは、開発途上国の政府に対して援助する、いわゆる「二国間援助」のODAを実施しています(ちなみに、国際機関へ出資・資金拠出するODAを「多国間援助」といいます)。

この地球には、約80億の人々が暮らしています。皆同じ人間であるにも関わらず、特に開発途上国に住む人々は、日々多くの社会的課題に直面しています。日本では当たり前のように普及している「水道」「電気」「道路・鉄道」「学校」「病院」などの社会インフラが不足している国さえあります。加えて、貧困問題、災害・気候変動、ジェンダー格差、紛争や難民問題など、地球には多くの社会課題が存在します。そのような社会課題の解決を通じて、「持続可能な社会の実現」を目指している政府機関がJICAであり、日本のODA実施機関として、東京本部、15ヵ所の国内拠点、96ヵ所の海外拠点にて約2000人の職員が活動しています。

SDGsとJICAとのかかわり

JICAが行う事業は、2015年国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)の17のゴールのすべてに関係しています。JICAの運営資金元は、日本政府からの借入や出資金等だけではありません。ソーシャルボンド(SDGs債)であるJICA債の発行を通じて、金融機関や自治体、事業会社などから資金を集めています。また、2021年からは、1万円から購入可能な個人向けの債券「JICA SDGs債」も発行しています。気軽に始められる国際協力であったり、またSDGsに関する活動をご自身で始める第一歩として、多くの方がJICA債に投資しています。

※個人向け債券「JICA SDGs債」 JICA提供

日本初の「ジェンダーボンド」を発行

またJICAは、特定の社会課題や地域の事業に資金使途を限定する「テーマ債」も発行しています。
例えば、2021年9月に、日本初の「ジェンダーボンド」を発行しました。SDGsのゴール5にも「ジェンダー平等」が掲げられていますが、多くの開発途上国では、女性に対する差別が根強く残っています。女性に対する差別は、女性が家族等の反対により教育を受けられなかったり、融資の担保となる土地や家の所有権を持てず、銀行からの融資が受けづらかったり等につながっています。「ジェンダーボンド」によって集められた資金は、女性への留学機会の提供や女性の起業家向けに融資する現地の金融機関への支援など、ジェンダー課題解決を目指す事業に使われます。

※メキシコの女性事業者等向けマイクロファイナンス事業 Banco ComartamosS.A.提供

また、2022年7月には「ピースビルディングボンド(平和構築債)」を発行しました。2020年に世界での武力紛争は56件と過去最高となり、2022年には難民・避難民の数が史上初めて1億人を突破(世界の80人に1人)しています。紛争の大半は開発途上地域で発生、難民の受け入れも9割近くを開発途上地域が担っています。「ピースビルディングボンド」によって集められた資金は、シリア難民を360万人以上受け入れているトルコの地方自治体に対する、上下水道やごみ処理施設等の整備や、イラクやフィリピンのミンダナオの復興支援等に使用されます。

※JICA提供

SDGsを達成するためには、JICA債などのSDGs債の発行により集められた民間の資金を社会事業に役立てていくことが重要です。JICA債は、開発途上国の課題解決のために発行される債券であり、債券発行により集められた資金は開発途上国の経済やそれらの国に暮らす人々の生活の向上に直結する事業に使われています。まさしく、ESGの「S」の取り組みを具現化しているといえるでしょう。

これまで見てきたように、みなさんがESG投資を通じて株や債券へ投資した資金は、社会全体で解決していかなければいけない課題解決に向けて活用されています。