「実況解説」セーフィー佐渡島社長と対談!

フロッギー版 決算が読めるようになるノート/ 佐渡島 隆平シバタ ナオキ

カエル先生の一言

今回は、特別編です。3月5日に開催されたセーフィー株式会社の個人投資家向け説明会に登壇したシバタさんと同社佐渡島隆平社長による、”決算読み解き”スペシャル対談をお送りします。

シバタさん(以下敬称略)
実は、今回、佐渡島社長とお話させていただくのは初めてです。今回セーフィーがどういう会社なのか、ビジネスとして見た場合にどのように見えるのかを、「決算から読めるセーフィー」という形でお話しながら、佐渡島社長にいくつかお話をお聞きしていきます。

2021年12月期通期決算説明資料(2022年2月14日)

※以下の解説で使用したスライドは、セーフィー株式会社2021年12月期通期 決算説明資料より引用しています。

2021年12月期本決算ハイライト

セーフィー決算説明資料より

われわれが普段決算を読む時に一番最初に見るポイントは、売上の前年同期比の成長率です。この成長率が67.5%というのは、マザーズに上場している会社の中でも高いです。

売上規模が84億円というのももちろんすごいです。前年100だったものが今年167.5になるわけですよ。上場後にこれだけの成長率で伸びている会社さんだというのをまず1つ覚えておいてください。

セーフィーさんは、カメラを単純に売っている会社ではなく、カメラを売ったあとの継続課金がずっと走る、いわゆるSaaS型と言われるビジネスです。

SaaS:Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略。 クラウドで提供されるソフトウェアのこと

ARR(Annual Recurring Revenue)、継続課金の部分の売上を見ると、56億円に達しています。カメラを単品で販売するのに比べてすごく安定性が高いビジネスということです。皆さんここも1つのポイントです。

契約後、解約されにくく売上が積み上がるビジネス

現在、前期で76百万円の赤字となっています。SaaSのビジネスを見るときに、「売上の前年同期比の成長率と営業利益率を足して40%を超えていると良い会社」だとわれわれは見ます。今回の場合、この赤字の部分が売上対比でだいたいー1%弱ぐらいなので、ー1%に67.5%を足すとゆうに40%を超えています。そのため、一般的に言う「SaaSの40%ルール」は楽に超えています。

セーフィー決算説明資料より

左側のグラフを見ると、濃い緑の部分がスポット収益を上回ったことがわかります。リカーリング収益が積み上がっていきますなかなか解約されにくい、どんどん積み上がっていくビジネスである点がポイントだと思います。

課金カメラ1台あたりの年間平均単価は4万円

セーフィー決算説明資料より

私は癖で、このように2つの数字が出てくると割り算をしたくなるんです(笑)。こちらのグラフからは2021年12月末時点で、ARR(継続課金)の売上が57億円あって、課金カメラ台数が14万台あることがわかります。すると、1つカメラを納品すると1年間にだいたい4万円ぐらい売上が立つわけです。単純に割り算しただけですが、セーフィーさんは1台カメラが設置されると設置したカメラから1年間で4万円ぐらい売上が上がるビジネスをしていることが分かります。

セーフィー決算説明資料より

SaaSのビジネスで実現が難しいのが、このNRRです。NRR(Net Revenue Retention)は売上継続率を意味します。例えば昨年末の時点でいたお客さんからの売上が100だとします。その同じお客さん、つまり今年獲得したお客さんを除いて、昨年末時点のお客さんからの売上が今年どうなるかという数字です。これが全体で見ると152%なのです。

これはどういう意味かと言うと、1回お客さんを獲得すると、そのお客さんからの売上が1年で1.5倍になるという意味なのです。これはすごいことで、NRRが152%を超えているSaaSのサービスはほぼないですね。われわれ決算を読む側からすると、すごく良いSaaSのサービスでも120%超えていたらすごいなという感じです。これが150%になっているというのはおそらく、1回お客さんを獲得すると、そのお客さんからどんどん追加発注が来て設置するカメラの数が増えていくということだと思います。

シバタさんから佐渡島社長への質問

シバタ:売上継続率がこれだけ高い点について、実例を教えてください。例えば、最初に何台カメラを導入して、そのあとどういう経緯でカメラを追加発注してもらったというような、リアルなストーリーがあると聞いている方も分かりやすいかなと思います。その辺りを少しご紹介いただけますか?

佐渡島社長(以下敬称略)ありがとうございます。今日はシバタさんに切り刻まれることを楽しみにしています(笑)。

セーフィー決算説明資料より

われわれの決算発表に入っているところでご紹介させていただくと、例えば大和ハウス工業さんは、いろいろな全現場で映像をご覧になっています。今、DXという形で、若い人が急に施工管理者として入られても、ほかの人が支援しながら全現場を見守ることができるという、そういったサービスとして使っていただいています。

DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術による生活やビジネスの変革

お客様は、ほとんどの方が映像でお仕事をしたことはないと思います。そのため、最初は皆さん防犯カメラであったり、ちょっとテストユースケースで使ってみよう、という具合です。われわれはPoCという形で営業させていただいています。

PoC(Proof of Concept):新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて検証すること

初年度は最初の発注は1~2台など、10台未満で使っていただいています。現場で使っていただいて、それで「これは使えるね」ということが実証されると、翌年にあらゆる現場の防犯カメラで活用されていく。そして、その翌年に全現場の施工管理用のカメラとして一気に入るという流れです。こんなふうに、だいたい3年~5年かけてどんどん増えながら入っていくというイメージになります。

これは小売店でも同じですね。導入実績スライドの左上に掲載しているような有名な小売店さんでも、最初は防犯で使っていただきました。それが、「これは使いやすいね」という形になって、アパレル業界で新商品が出るタイミングで、弊社のカメラもどんどん一緒に導入されていきます。すると、新商品がどうやってユーザーに選別されていくのか、といった売れ行きとの相関関係を映像でご確認いただいています。それが全店展開に広がっていくという形です。

高いNRRを実現している一番の理由は、こういった大手企業のお客様がリピートオーダーくださっているからとご理解いただければと思います。

シバタ:ありがとうございます。今のお話はすごく面白いですね。最初の入り口は、やはり防犯やセキュリティ系が多いのですか?

佐渡島:そうですね。皆さん、今まで違うお仕事の仕方をされていたわけですよね。いきなり映像で仕事ができると言われても……という反応です。コロナ禍によってZoomやGoogle Meetが事務の方同士では当たり前になってきていますが、現場を持っている人たちは、”?”なんですよね。

現場で面白い使い方を発見してもらう

例えばハウス食品さんでは、メニューをつくるときにお母さんがR&D(研究開発)をするケースもあります。防犯ではなく、お母さんが家でもR&Dをしていく、現場の工場で実際つくっているものを当社のサービスで管理していく、というふうに、新しい使い方がお客様が利用していく中でどんどん開拓されていくというのがわれわれのサービスの特徴かなと思います。

映像で「見ること」を通じて、こんな使い方、あんな使い方もできるんだというのをお客様の中で発見して、お客様の業務の中でしっかりとインプリ(実装)されていくようなイメージが私たちの中ではあります。

シバタ:ありがとうございます。すごく面白いと思いました。やはり防犯は入りやすいと思います。みんなが想像しやすいと思うので。最初にそこから入って、そのあとに例えば商流解析だったり、何かのモニタリングだったり。そういう使い方に行くのはもちろんサービスの質が素晴らしいからだと思いますが、面白いですね。現代ならではと言うか、2022年ならではの進化のされ方をしているなと思いました。

佐渡島:ありがとうございます。

ナンバーワン企業との協業を重視

シバタ:次の質問に行きます。販売の商流です。意外に思ったのが、PROの直接商流(Safie PROにおける直接商流の割合)が35%、それ以外に卸系が割合としては結構大きいですね。

佐渡島:はい。

セーフィー決算説明資料より

シバタ:これが面白いなと思いました。DtoCなんて言いますけれども、皆さん直販したいパターンが多いのかなと思いますが、パートナー販売をしているのには理由があるのですか。

DtoC(Direct to Consumerの略):メーカーが仲介業者を通すことや店舗販売をすることなく、自社のECサイトなどから直接顧客に販売するビジネスモデル

佐渡島:そうですね。当社は弱いスタートアップ企業です。このため「オセロの四隅」を常に意識しています。お客さんがカメラを入れたい時に、まず警備会社の防犯カメラが浮かぶはず。それならば、セコムさん。IoTを使うとなれば通信会社のNTTグループ。カメラを扱うデバイスメーカーではキヤノンさん。オセロの最後の隅が、ビルなどの設備、ゼネコンです。この4つのカテゴリーによって当社のマーケットは構成されています。

われわれが会社をつくったときに、資本業務提携という形でNo.1の会社へ株式をお渡ししました。それによって仲間としてこのインダストリーをつくっていこうという形でビジネスをしています。非常にパートナービジネスを大事にしています。

そうしないと、スタートアップ1社ではハードウェアをビルの中にプリイン(実装)していく、街の中にプリインしていく、また、お店の中にプリインしていくことは、できる仕事ではありません。われわれはそこを非常に重視していますので、創業来、パートナー商流が非常に大きくなっています

広告宣伝費をかけず、口コミで広まりたい

セーフィー決算説明資料より

シバタ:ありがとうございます。今の話と関連するのですが、こちらが実際の売上に対する広告宣伝費用の比率です。普通、SaaSの会社で60%~70%で伸びているケースでは、広告宣伝費比率が下手すると売上の80%だったり、赤字がもっとドーンと出ていたりします。御社の場合はここが10%程度と、この成長スピードから見ると低く見えます。今お話いただいたので、理由はもちろん納得できますが、今後もパートナー経由での販売ということで、この辺りのコストを下げていく感じですか。

佐渡島:そうですね。ここがまさにシバタさんとディスカッションしたかったポイントです。普通のSaaSモデルでは、LTV/CACなど、要は将来儲かるんだから、今、先行赤字でものすごいCMを打ってもいいじゃないかという形で経営されている方もいらっしゃると思います。

LTV:ライフタイムバリュー・顧客生涯価値
CAC:1顧客あたりの平均獲得コスト

私たちはまったくそう思っていません。そこにお金を使うぐらいならば、自分たちのサービスを良くしてお客様のベネフィットを上げていくところにひたすら投資をしていきたいです。知名度を上げることよりも、お客様の社会課題、問題解決にしっかりフォーカスして、プロダクトにしっかり投資していくことによって様々なインダストリーの課題を一気に解決できるようになる。そのためにいろいろなパートナーの皆さんと一緒に協業していくことを重視しています。

私たちは新規顧客獲得のためのプロモーション、CMにたくさんお金を使うのではなく、しっかりプロダクトにフォーカスします。さらには売上対宣伝広告費は10%ぐらいでも売上100億円ぐらいまではいけるということをわれわれは証明しています

例えば、アメリカでは、SaaSモデルの中で「The Model」のようにいわゆるメトリクスで組んで実施する方が多いと思います。一方、日本では、例えば建設現場の大手5社である大林さん、竹中さん、鹿島建設さんなど主要な人にお会いしたい場合、東京にオフィスがあるので1日でやろうと思えばできるわけです。

シバタ:なるほど。

佐渡島:そう考えると、CMを大量に打ち込んで、みんなに認知を上げてからでないと仕事ができないかと言うと、そんなことはないと思います。われわれとしては、お客様のパイプラインやお客様の課題にフォーカスすることによって課題を解決して、口コミで広がっていくことがまず一番大事だと考えています。

シバタ:ありがとうございます。売上成長率に対して広告宣伝費の比率が非常に低いことを覚えておいてほしいです。若干赤字ですが、ほぼブレークイーブンの状態になっている。売上の規模感と成長率から見ると、かなり異例のことではないかと、ほかの会社の決算をたくさん見ている側からすると、そう感じます。

ブレークイーブン:粗利益額がプロモーション費用と他のすべての費用を合計した費用と等しい

来期の業績予想は?

セーフィー決算説明資料より

皆さん、「じゃあ、来期はどうなるの?」という話を聞きたいと思います。このように業績予想が開示されていて、これがアグレッシブなのか、コンサバティブなのかはちょっと置いておいて、非常に面白い戦略を立てられているなと思うので、その点をお話させていただきます。

予測を見ると、まず、ARRの伸びが46%ぐらい伸びるでしょうと。そして、課金カメラ台数が42%伸びるという予測を出されています。この2つから何が分かるかと言うと、1カメラあたりの売上はそれほど変わらなくて、売上成長のほぼすべてが課金カメラが増えることによるという話です。別のスライドで先程見せていただいた通り、今の優先度としてはとにかくカメラの台数を増やすんだと、1カメラあたりのARRはちょっと一旦将来に回すとしましょうという話なのです。これがすごく面白いなと思って見ていました。

セーフィー決算説明資料より

スライドの右側の話をしますと、先の話かもしれませんが、今回上場されて、おそらく100億円規模の資金調達をされていて、今、銀行に115億円があるわけですよね。結構なお金がある状態です。左側はそんなにお金を燃やさなくてもパートナー戦略で増やせるときに、今回右側に投資をされると思います。

このアプリマーケットというところをどのように考えていらっしゃるのか、どういう感じでこの1台あたりのARRが上がっていくのか、お話できる範囲で教えていただけるとワクワクするかなと思いました。

佐渡島:ありがとうございます。元々われわれはソニーの中でもAIとか機械学習の研究所系のメンバーが独立してきて、このサービスをつくっています。ようやくわれわれのサービスが少しずつフライしていく土俵ができたかなと思っています。

われわれとしては、今後、エッジコンピューティング、いわゆるGPUが載ったカメラやいろいろなデバイスが非常に広がってくると考えています。皆さんもiPhoneで顔認証で開くことがもう当たり前になってきているような、いわゆる画像処理を使ったいろいろなものが生活の中に溶け込んできているわけですね。それによって、いろいろなデバイスのGPUのコストが非常に下がってきています。5Gによって一気に通信容量が増える中で、そういったデバイスの値段が非常に下がってきているということで、AIのカメラは当たり前になってくると考えています。

その中で大量に今のデータを集め、それをもとに、アノテーションと言いますが、いろいろなAIをつくるプロセスを自動化していくことによって、いろいろな知能が自分のカメラごとに変わっていく世界をつくっていきたいというのは、創業した2014年ぐらいからずっと思い続けてきているところです。それが今ようやく実現するぞという、フェーズに入っているかなと思っています。

どういうことかと言うと、先程の建設現場でも遠隔で操縦するようなクレーンがあったり、例えば建設現場で勝手に建機が走っていく中で後ろに人がいて、それを轢かれないようにするといったことを自動化していくーー。そういった人とモノが共生しながら今動こうとしてきているわけです。

そういったときに、AIは絶対必要不可欠なサービスになっていきます。そんな中、このリアルタイムの動画データは世界で見ても貴重なデータになってきます。その貴重なデータをもとにいろいろなアプリケーションが生み出されてくると、人が行っていたことが、より人が人らしく働きやすくなっていくと考えています。そこには大量のデータと開発環境とお客様が必要になるわけです。

そのため、それを実現していくのは、Amazonがインターネット上のあらゆるものをデータ化していったり、EコマースでもあらゆるものをEコマースで販売していったように、リアルな空間に知能がどんどんできてきて、そこにいわゆるリアルの世界もインターネット化していくと思います。そこにわれわれが投資していくのは本当に壮大な話ですが、われわれだからこそできると思っています。

当然、シバタさんがおっしゃる通り、1台あたりの課金カメラの ARRがいきなり上がるというのは僕はないと思っています。逆に、まずカメラで、先程言った通り、防犯でも何でもいいのでとにかく使っていただいて、こういう使い方があるんだといろいろな業界のインダストリーの人が発見して、その上でそこにいろいろなサービスが乗っかっていくと考えています。われわれは事業の計画をつくるときに、まずはしっかりといろいろな業界間でいろいろな方が使っていただくことを念頭に考えています。

それによって、新しい付加価値が今後上がっていき、さらに開発者を大量に抱えた開発環境をしっかり整えていくことによって、新しい産業や新しいサービスが必ず生まれると思っています。そこにしっかり投資していくことで、必ずカメラ1台あたりのサービスの単価も上がっていくと考えています。

冒頭に言いましたが、30万台、100万台という1つのボーダーを言っていますが、100万台を超えてくると確実にそうしたことが起こると確実にそうしたことが起こると思っています。それを念頭に、100万台を超えてくるところで一気に1台あたりのカメラの利用単価を上げていくという戦略を考えていると思っていただければと思います。

シバタ:ありがとうございます。逆に、セーフィーさんのこのアプリストア上で何かAIを使った新しいサービスをつくるデベロッパー、開発会社側からしても、やはりカメラが10万台設置されていますという世界と、100万台になりましたという世界では、当然リーチできる環境が10倍大きいわけですよね。

佐渡島:そうですね。

まとめ

シバタ:そういう意味でも、これは非常にメイクセンスだなと思いました。今日お話したかったことを3つまとめます。

1つ目は、セーフィーさんは、売上が67%、6割~7割でマザーズの上場企業の中ではおそらくトップクラスに成長率が高い会社ということです。

2つ目は、売上継続率です。NRRが150%を超えているというのは、SaaSの中でも本当に異常なほどに良いクラスだということです。

3つ目は、短期的な将来を見ると、来期で見るとARRが46%ぐらい伸びるという予想になっており、これももちろんすごい数字です。この売上の伸びは、ほとんどが課金カメラ台数が増えることによって伸びる予定です。さらにそのあと、最後にお話いただいたように、カメラ1台あたりの売上が伸びるようなプランがすでにあって、ただ、それは今ではなくてあとから実施するという計画がきちんともうされているということです。

この3つの点をしっかり覚えておいていただけると、今後のセーフィーさんの決算が出てきたときに読む楽しみが増えるのではないかなと思います。
少し時間を超過してしまって申し訳ありません。佐渡島社長、どうもありがとうございました。

佐渡島:いえ、こちらこそ私の話が長くてすみません。ありがとうございました。

セーフィー