挑戦のDNAを持ち続ける“どさんこ会社”

世界は株式会社でできている/ 本城 直季日興フロッギー編集部白根ゆたんぽ

今回の舞台は、2人が社員旅行で訪れた北海道・札幌だ。昼間の自由行動で、タカシはちゃっかりユイと一緒に過ごす約束を取り付けている。行き先は、勉強好きなタカシらしく「北海道開拓の村」。開拓民の歴史と、挑戦するDNAをもつ人々が生んだ“どさんこ会社”について学ぼう。

ユイ

わ~、並木道の緑がきれい。向こうから馬が走って来た!

タカシ

「北海道開拓の村」の名物、馬車鉄道だね。ここは1983年、北海道百年記念事業の一環としてオープンした。明治から昭和初期にかけての建造物を移築し、再現した野外博物館だ。北海道に屯田兵や開拓民として移り住んだ人たちの暮らしぶりがよくわかるよ。


屯田兵って、どういう人たちだっけ……。歴史の授業で習ったけど忘れちゃった。


明治政府が北海道の開拓と防衛のために派遣したのが、屯田兵。ふだんは農業をしながら、いざというときは兵役につく農兵のことだね。これは、明治維新で禄(ろく)を失った武士の失業対策でもあった。特に、最後まで旧幕府軍の側について戦った会津藩をはじめ、逆賊とされた東北の藩士たちが生き延びるために、屯田兵になったという歴史があるんだ。


信じていた幕府がなくなって、それでも生きていくために開拓の道を選んだ……。大変な人生ね。


うん。原生林を開墾するのだから、すごく苦労したと思う。屯田兵だけじゃなく、一般の人たちも開拓の夢を追って大勢移住した。その人たちの努力があって、いまの北海道の発展があるんだね。


いまでは北海道は「ニトリ」とか、有名企業を輩出しているわ。牛乳やチーズの「 雪印メグミルク 」も、北海道の会社よね? いつごろできたのかな。


北海道で酪農が始まったのは、開拓を推奨した明治政府がアメリカから招へいした指導者、エドウィン・ダンの力が大きい。いわゆる「お雇い外国人」だね。彼は牛とめん羊を引き連れて来日。酪農、乳製品・食肉の加工技術、大型農具を用いる農法などを伝えた。そのおかげで北海道の畜産業は近代化し、民間牧場が続々とつくられるようになった。1925年、黒沢酉蔵らが雪印乳業(現・雪印メグミルク)の前身となる「北海道製酪販売組合」を設立。健やかな土地の上に健やかな民が育つという「健土健民」が、その後も雪印を支える思想となっている。


まさに、開拓民の歴史とともにある会社ね。でも、2000年の「雪印乳業食中毒事件」、2002年の「雪印食品牛肉偽装事件」にはがっかりしたわ。せっかくの創業の志が、ガタガタになってしまった。


ほんと、そうだよね。ブランドを失墜した雪印乳業は、再編成を余儀なくされ、2011年に雪印メグミルクとして再スタートを切った。毎年、事件が発生した月に経験者、未経験者を問わず社員が語り合う会を開いて、風化しないように努めているという。いまは生産体制を見直し、機能性表示食品などニーズにあわせた商品開発に取り組んでいるよ。最近では、整腸効果が見込めるガセリ菌とビフィズス菌を配合したヨーグルト「ナチュレ 恵」シリーズや、たっぷりのサイズで“ながら飲み”を提案する「BOTTLATTE」がヒット。着実に成果が出ている。

北海道の「美味」がつまった会社


ほかにも、北海道らしい企業がありそう。


北海道といえば、おいしいのは?


ウニ、イクラ、カニ、あと、ラーメン!


急に元気になったな(笑)。北海道・小樽に本社を置く「 和弘食品 」は、1956年にオープンした「福来軒」という1軒のラーメン食堂から始まった。お店はおいしいと評判になり、店舗を増やしていく中で、製麺業に乗り出す。麺だけではなかなか売れなかったので、スープとセットで売り出したところ、大当たり。食堂よりこっちに商機があると見越し、1967年にはラーメンのスープだけに絞り込んで、全国に展開を始めた。そこから、ラーメンスープと麺つゆで業界の中堅クラスにまで成長していったんだ。牛や豚、昆布やホタテなどの魚介類など、北海道産の新鮮な素材から抽出するエキスを使い、「北海道ブランド」を強みにしている。ラーメン店が増えているアメリカでも生産・販売を開始して、今後が期待されているところだ。


北海道のおいしい食材が、濃縮されて海外にも出て行くのね! ラーメンが食べたくなってきちゃった。


地元にこだわるという点では、帯広市、旭川市、札幌市を中心にスーパーマーケットを展開する「 ダイイチ 」がある。「地産地消」をモットーに、地元で採れた肉や野菜を多く扱う食品スーパーだ。小中学生の店舗見学を行うなど、地域とのつながりを大切にする一方で、2013年にイトーヨーカ堂と業務・資本を提携。セブン&アイグループの一員となって物流・インフラの相互活用やコスト削減に努めるなど、経営面でも厳しい競争を勝ち抜こうとしっかり手を打っている。


地域に根を張りながらも、時代に乗り遅れないように新しいことにも挑戦している。おいしいものがたくさん獲れる地域だから、それをきちんと届けてくれるダイイチのようなスーパーは、消費者にはありがたい存在ね。

決済代行のガリバーも北海道発


食品以外にも、北海道発のユニークな会社があるよ。コンビニで公共料金やコンサートのチケット代を払うこと、あるよね? あの仕組みをつくった「 ウェルネット 」という会社だ。


あのサービスって、もはやインフラよね。最初に手掛けたウェルネットは、かなり儲かってそう。どういうきっかけでサービスを始めたの?


実は、もともとは札幌のガス会社なんだ。


ガスからIT?! まったく畑違いね。


ウェルネットは、札幌でLPガスを販売する「一高たかはし」(現・いちたかガスワン)のグループ会社だった。1996年、新規事業を担う社内ベンチャーとして経営を刷新した。そのときに「コンビニ収納代行システム」を企画したのが、後に社長として会社を引っ張る、宮澤一洋氏。コンピューターのサーバーって、熱くなるから空調で温度を下げなきゃいけないでしょ? 北海道は気温が低いから、少し安く済む。人件費も土地代も安い。実はITの実験に向いてるんだよね。


そっかあ。意外な北海道の強みね。


コンビニ決済は便利なものとしてあっという間に広まり、ウェルネットはどんどん成長した。2010年には親会社から独立して、決済システム関連に投資を集中することを決断。決済代行という事業の柱に加えて、プリペイド型電子マネーや電子チケットといったサービスにも積極的に乗り出し、フィンテックの波に乗ろうとしているよ。


挑戦をやめない姿勢は、さっきの開拓民の歴史を思い出すわ。“どさんこ”会社は、守りになんて入らないのね。


ニッチ分野で世界一の会社もあるよ。「 日本製鋼所 」は1907年(明治40年)、北海道の室蘭で、国家事業だった兵器の国産化を目指してつくられた会社だ。戦艦の材料や防弾鋼板などを製造しながら、素形材と機械製品の技術を磨く。戦後は民需転換して、良質の鋼をつくる技術と、産業機械の技術を両輪に幅広いものづくりを手掛けている。発電用のシャフトや天然ガスパイプライン用の鋼管、プラスチック用の産業機械などで高いシェアを誇り、2014年には経産省の「グローバルニッチトップ企業100選」にも選ばれているよ。僕がとくに好きなのは、競馬で馬が出走時に入るときのゲートを、国内で唯一つくっているところ。目のつけどころがいいよね~!


タカシ君好みの超ニッチ会社。


まあ、日本製鋼所は早くに本社を東京に移して、あっという間に全国区になったけどね。雪印やウェルネットも、本社は東京に移っている。


なーんだ。ずっと北海道にいるわけじゃないのね。ここで挑戦した後に、結局出て行っちゃうなんて、寂しいわね。


そ、そんなことないよ! 東京に出ても、北海道生まれの“どさんこ”精神は持ち続けているよ!


なんでフォローするの?


うん、僕、両親が北海道出身なんだよね!

今回のテーマで取り上げた上場企業

雪印メグミルク
和弘食品
ダイイチ
ウェルネット
日本製鋼所

本サイトは、原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。