5月の残業は大損!? 手取りが減る社会保険の㊙︎カラクリ

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉

みなさんこんにちは! 公認会計士・税理士の山田真哉です。「4月から6月に残業すると損をする」という話、会社員の方なら聞いたことがあるかもしれません。今回は、なぜ残業をすると損するのか、その理由を分かりやすくお話したいと思います。

例として、今回は「会計事務所に勤務する3年目の会社員」のケースで見ていきましょう。

この会計事務所は末締め、翌月払い制で、普段は額面20万円のお給料です。なので、給与明細は3月分となっていますが、実際は2月にした仕事のお給料になります。3月の基本給が20万円、通勤手当が8000円で、総支給金額は20万8000円です。

控除の方は、まず健康保険料が9810円、厚生年金保険料が1万8300円、そして雇用保険料が624円。この3つが「社会保険料」と呼ばれているものです。それに加えて所得税が3770円、住民税が毎月1万円で、控除合計額は4万2504円になります。

よって、総支給金額から控除合計額を引いた差引支給額、つまり手取り金額は16万5496円です。

健康保険料と厚生年金保険料がポイント

この方は、普段毎月16万くらいの手取りだったんですが、3月から5月にかけて残業をしました。3月から5月にかけて、だいたいの会計事務所は繁忙期に入るんですね。3月は確定申告、4~5月は3月決算の会社(日本で一番多いです)の決算と申告があるので、どこの会計事務所も3~5月は繁忙期というところが多いです。

この繁忙期の間は、残業代が毎月だいたい10万円入ってきました。そうすると、3月から5月の給与明細はどうなるかというと、こちら。

4月分の給与明細は、3月にした仕事の分なので、時間外手当として10万2000円が追加されています。ところが、控除はあんまり変わっていないんですよ。増えているのは、雇用保険料が924円、所得税が7280円で、前月に比べると、ちょっとしか増えていないです。

お給料が増えると、その分社会保険料も増えるんじゃないか、と思う方もいるかもしれませんが、じつは社会保険料のうち、大半を占めている健康保険料と厚生年金保険料については、1年間固定なんです。多少例外はありますが、だいたい1年間同じ金額になります。

では、1年間固定される健康保険料と厚生年金保険料はいつ決まるのかと言うと、じつは4月から6月の給与支給額がもとになっているんです。

4月から6月までの3ヵ月分の給与支給額を3で割った数字を「報酬月額」と言います。この報酬月額を経理や人事の人が集計して「算定基礎届」という形にして、年金事務所に送っているんですね。そして年金事務所が保険料率を計算します。具体的には、報酬月額ごとに等級があって、その等級によって保険料が決まる仕組みになっています。

今回の会計事務所勤務3年目の方は、支給額が通勤手当を含めて20万8000円だったので、「17等級」の料金でした。ところが、4月から6月の収入をもとに保険料の計算をするので、この時期に残業した結果、4月から6月の支給額が増え、等級も上がっちゃうんですね。等級が上がるということは、保険料が上がるということです。

つまり、4~6月(働いた月でいうと3~5月)は毎月の支給額が31万円だったので、31万円×3ヵ月÷3で、31万円が報酬月額になり、等級は「23等級」になるというわけです。

この新しい等級は、10月の支払い分から変更になります。そして、翌年の8月分(実際は9月支払い分)まで、その等級が続きます。今回のケースでは、23等級で1年間続く、ということになります。

4月~6月の残業が損するワケ

では実際にどれくらい社会保険料の負担が増えるのかを見ていきましょう。まずは9月分です。このときは残業もなく、まだ昨年の等級のままです。ですから、手取りは大体16万円くらいですね。

これが、新しい等級に切り替わる10月分の給与明細はどうなるかというと……

なんと、社会保険料が爆上がりしています! 健康保険料が1万5696円、そして厚生年金保険料が2万9280円になっています。基本給や通勤手当は変わらず、残業代が0円のままだとすると、手取り金額は14万9280円です。

9月から10月になって、総支給金額は変わっていないのに、控除額だけ増えるので、手取りが1万6216円も減少します。これが1年間続くわけですから、単純計算すると、年間で19万円ぐらい、手取りが減少してしまうということが起きるんです。

ちなみに、厚生年金保険料の金額が上がると、将来もらえる年金は多少増えます。そういう意味では、長い目で見て、お得といえばお得、と言えるかも知れません。ただ、目先のことだけで言うと、確実に手取りが減ります。

というわけで、4月から6月(給料・残業代が翌月払いの場合は3月から5月)に残業をすると損する理由は、ズバリ社会保険料の負担が増えて、手取りが減るからなんです。ようは「4月から6月に支払われる給料」、これが大事だということなんですね。

まとめ

別の視点から今回のお話を解説すると、どうすれば社会保険料が節約できるか、ということでした。健康保険料や厚生年金保険料は、1年間金額が原則固定です。そして保険料の計算は、4月から6月に支払われるお給料がもとになります。なので、節約の観点から言うと、残業するなら、4~6以外の月にするのが有利だ、ということでした。残業する時期をずらせるかどうかはさておき、社会保険のカラクリは、知っていて損はないと思います。

それでは、今回はこの辺で! またお会いしましょう~!

※健康保険料については、加入の保険組合によって異なります。