Q. ビズリーチのユーザー単価が他社を圧倒しているのはナゼ?

フロッギー版 決算が読めるようになるノート/ シバタ ナオキ

カエル先生の一言

シバタナオキさんによる「決算が読めるようになるノート」のフロッギー版第15回。今回取り上げるのは、乱立する国内の転職・求人サービスの中でも、1ユーザーあたりの売上が圧倒的なビズリーチを運営するビジョナルです。競合と比較しながら、その強みを紐解いていきます。

ビジョナル株式会社 2022年7月期第2四半期決算説明資料
株式会社アトラエ 2022年9月期第1四半期決算説明資料
※同社は2022年5月13日に「2022年9月期 第2四半期決算説明資料」を公開しています。
ウォンテッドリー株式会社 2022年8月期Q2決算説明

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、ビジョナル株式会社 2022年7月期第2四半期決算説明資料より引用しています。比較する企業のデータは、株式会社アトラエ 2022年9月期第1四半期決算説明資料、ウォンテッドリー株式会社 2022年8月期Q2決算説明より引用しています。

ヒント:以下の3つが理由です。
・理由#1:●●を組み込んだビジネスモデル
・理由#2:●●としてのブランディング
・理由#3:企業だけでなく●●へも開放

本日は、転職・求人サービスを展開するビズリーチの親会社のビジョナルについて、1ユーザーあたりの売上が他社を圧倒している理由を解説します。

読者の皆さんもご存知の通り、国内の転職・求人サービスは、

・ビズリーチやGreenなどの企業と求職者をマッチングするプラットフォーム
・リクルートエージェントなどの転職エージェントを介したサービス
・ジョブメドレーなどの業界に特化したサービス

など、乱立しています。

その中で、今回は転職・求人サービスを運営する国内上場企業のビジョナル(ビズリーチ運営)と「 アトラエ 」(Green運営)、「 ウォンテッドリー 」(Wantedly運営)に絞って比較しています。

一般的に、事業領域が類似した企業のKPIは横並びになると思われがちですが、ビジョナルのユーザー単価が競合他社を圧倒している理由とは何なのでしょうか?

KPI:Key Performance Indicatorの略。重要業績評価指標

転職・求人サービスはいずれも高い成長率

冒頭で記載したとおり、人材領域に関連した事業を展開する国内上場企業はかなり多いため、この記事では、転職・求人サービスを運営するアトラエ、ビジョナル、ウォンテッドリーの3社に絞って、売上と売上成長率を整理します。

・アトラエ:IT/Web業界の求人・採用情報に特化した「Green」を運営する企業
・ビジョナル:国内最大級のハイクラス転職サイト「ビズリーチ」を運営する株式会社ビズリーチの親会社
・ウォンテッドリー:スタートアップ企業を中心に、新卒・中途採用等の人材募集に加え、企業概要や求人情報等を発信できるビジネスSNSサービス「Wantedly」を運営する企業

アトエラ、ビジョナル、ウォンテッドリーの3社の決算資料をもとに著者シバタナオキが作成

各社の売上を見ると、ビジョナルが101億円で最も高く、次いでアトラエが15.05億円、ウォンテッドリーが11.18億円です。

次に、売上成長率を見ると、アトラエがYoY+69.6%で最も成長しており、次いでビジョナルがYoY+66.0%、ウォンテッドリーがYoY+30.1%です。

YoY:year over yearの略。前年比

アトエラ、ビジョナル、ウォンテッドリーの3社の決算資料をもとに著者シバタナオキが作成

決算タイミングの都合上、1月ずつのズレが発生していますが、過去の推移を見ても、各社の売上の傾向は類似しています。

コロナが流行した2020年時点では、人材の流動性が低下したことや予算縮小等の影響で人材業界全体の売上が一時停滞したものの、その後IT業界を中心とした採用ニーズの高まりを受けて、各社の売上成長率は高い水準に回復しました。

1企業あたりの売上を比較すると?

アトエラ、ビジョナル、ウォンテッドリーの3社の決算資料をもとに著者シバタナオキが作成

一般的に、転職・求人サービスは、「人材を採用したい企業と、企業に就職したい求職者をマッチングするプラットフォーム」のため、主にサービスに登録している「1企業あたりの売上」と「1ユーザー(求職者)あたりの売上」がKPIになります。

そこで、まずは1企業あたりの売上を比較します。

【注意事項】
・上図は、各社の転職・求人サービスの売上のうち、採用企業以外からの売上が含まれる場合は除外して記載しています。
・本来は契約中の企業数で比較するべきですが、各社が共通して開示している指標が累計企業数だったため、この記事では累計企業数で比較しています。

累計企業あたりの売上を比較すると、ビジョナルが28.1万円、アトラエが16.9万円、ウォンテッドリーが2.6万円です。

前述の通り、ここでは累計企業数で計算しているため、一概に比較することはできませんが、ビジョナルやアトラエと、ウォンテッドリーの間には大きな差があることが分かります。

1ユーザーあたりの売上を比較すると?

次に、求職者(ユーザー)あたりの売上を比較してみます。

アトエラ、ビジョナル、ウォンテッドリーの3社の決算資料をもとに著者シバタナオキが作成

1ユーザーあたりの売上を比較すると、ビジョナルが5,679円で最も高く、次いでアトラエが1,532円、ウォンテッドリーが329円です。

まとめると、「累計企業あたりの売上」と「1ユーザーあたりの売上」の双方でビジョナルが最も高く、特に1ユーザーあたりの売上では、ビジョナルがアトラエやウォンテッドリーを圧倒していることが分かります。

同じ転職・求人サービスを運営する企業であるにも関わらず、このような差が生まれている理由は何なのでしょうか?

Q. ビズリーチのユーザー単価が他社を圧倒しているのはナゼ? の答え

ビズリーチのユーザー単価が他社を圧倒している理由は以下の3つ。
・理由#1:成果報酬型を組み込んだビジネスモデル
・理由#2:ハイクラス転職サービスとしてのブランディング
・理由#3:企業だけでなく人材紹介会社(ヘッドハンター)へも開放

次項からは、それぞれの理由を詳細に見ていきます。

理由#1:成果報酬型を組み込んだビジネスモデル

ここで、各社が運営する転職・求人サービスの料金体系を見てみましょう。

アトエラ、ビジョナル、ウォンテッドリーの3社の決算資料をもとに著者シバタナオキが作成

ビズリーチの特徴は、「固定費用型に加えて、成果報酬型を組み込んでビジネスモデルを設計していること」です。

固定費用とは、採用したい企業が、ビズリーチというプラットフォームを利用するための費用に加え、求職者に対してプラチナスカウトという特別なスカウトを送るための費用が該当します。

成果報酬とは、採用が成功した際に発生する報酬のことで、一般的に「採用に成功した求職者の理論年収×エージェントフィー」で算出されます。このエージェントフィーは30%〜35%程度が平均値ですが、高いと100%近くになることもあります。

ビジョナル決算説明資料資料より

FY:fiscal year略。会計年度

ビズリーチの売上構成を見ると、求職者がプラットフォームを利用するための課金売上も含めた固定売上(リカーリング売上)が31%で、採用成功に応じた成果報酬(パフォーマンス売上)が69%と、成果報酬の割合が売上の大半を占めていることが分かります。

企業側としては採用が成功しないリスクもあるため、高い費用を払うのであれば成果報酬のほうが望ましいです。また、他サービスを利用しても採用にかかるコストは高いため、相対比較で高い費用でも採用が成功するならば、高い報酬でも正当化されやすいことで、このようなビジネスモデルが成立していると思われます。

理由#2:ハイクラス転職サービスとしてのブランディング

ビズリーチはサービスリリース当初から、「ハイクラス転職サービス」としてのブランディングを進めており、TVCMなど積極的な広告投資を継続しています。

前述したように、人材紹介の報酬は理論年収×エージェントフィーで決定することが一般的です。このため、年収の低い若手人材よりも年収の高いハイクラス人材の転職を成功させるほうが、1採用あたりの成約単価(人材紹介の報酬額)が高くなります。

そのため、ビズリーチは年収の高いハイクラス人材を中心にサービス提供することで、1採用あたりの成約単価を高めていると考えられます。

理由#3:企業だけでなく人材紹介会社(ヘッドハンター)へも開放

ビジョナル決算説明資料資料より

ビズリーチは採用したい企業に加え、人材紹介会社(ヘッドハンター)にもプラットフォームを開放しています。ビズリーチの全体売上のうち、38%がヘッドハンターからの売上で構成されています。

これにより、固定費用であるプラットフォーム利用料等をヘッドハンターから得られます。ヘッドハンターがプラットフォームに登録することは求職者の採用機会の増加に繋がりこの結果、ヘッドハンターからのスカウトで人材が入社して成果報酬が発生する等、ビズリーチにとって売上機会が増えます。

ヘッドハンターがプラットフォームに介入することで、「ユーザー体験が損なわれる」という批判もあるかもしれません。しかし、ビズリーチの全体売上の約4割がヘッドハンターからの売上で構成されています。こうしたことから、ヘッドハンターのプラットフォームの使用は、ユーザーにとって受け入れられていると言えるのではないでしょうか。

(おまけ)今後の注目ポイント#1:各社のSaaSの成長

ビジョナル決算説明資料資料より

ビジョナルは、転職・求人サービスのビズリーチに加え、採用業務の管理・分析が一元管理できるSaaSの採用管理クラウドのHRMOS(ハーモス)を運営しています。HRMOSのARRは2022年7月期2Q時点で14.2億円と、単体のSaaSビジネスとしても注目に値する規模感にまで成長しています。

SaaS:Software as a Serviceの略。 クラウドで提供されるソフトウェアのこと
ARR:Annual Recurring Revenueの略。毎年決まって得ることができる売上のこと

この2つのサービスのデータ連携を進めることで、ビジョナルは中長期的に、HRMOSを軸とした人材配置や育成等の業務を一気通貫でサポートするエコシステムの構築に注力していくようです。

その取り組みの1つとして、2021年11月には勤怠管理クラウドのIEYASUの株式80.1%や、2022年3月に経費精算クラウド運営のイージーソフト社の株式100%を取得するといった積極的なM&Aを行っています

このように、エコシステムの構築が進むことでサービス間のシナジーが生まれ、利便性や顧客のアクティブ率の向上に繋がることが期待されます。

(おまけ)今後の注目ポイント#2:新たなプラットフォームの台頭

感覚的な話になりますが、以下の記事にもある通り、今後のビジネスパーソンのキャリア形成において、これまでの「企業to人」から「人to人」のようなプラットフォームサービスが台頭してきているように感じます

YOUTRUSTやMeetyは未上場企業のため、財務数値やKPI等の詳細情報は不明ですが、これらのサービスの導入企業数は増加傾向であり、今後の人材業界にどのような影響を与えるのか気になります。

まとめ

ここまで、記事の前半ではビジョナルとアトラエ、ウォンテッドリーについて、売上や売上成長率、累計企業あたりの売上や1ユーザーあたりの売上比較を行い、記事の後半ではビジョナルの1ユーザーあたりの売上が高い3つの理由と今後の注目ポイントを整理しました。

・アトラエやウォンテッドリーと比較して、ビジョナルは累計企業あたりの売上や1ユーザーあたりの売上が高い
・ビズリーチは、固定費用に加えて成果報酬型のビジネスモデルを組み込むことで、採用に成功した企業から成果報酬を獲得している
・ハイクラス転職サービスとしてのブランディングを進めることで、年収の高いハイクラス人材を中心に採用を成功させることで、成功報酬の単価を高めている
・企業だけではなくヘッドハンターにもプラットフォームを開放することで、ヘッドハンターからも売上を獲得している

ビズリーチの成約率やサービスの利用のしやすさ等は開示されていませんが、少なくともこの記事で紹介した3つの理由により、ビズリーチのユーザー単価が他社を圧倒していると言えるでしょう。

また、今後の注目ポイントとして記載したエコシステムの構築や、YOUTRUSTやMeetyのように「人to人」に特化したキャリア支援サービスの台頭がどのように進むのか、引き続き注目していきたいと思います。

ビジョナル