この相場では、「視認性」の高い銘柄を狙え

億り人緊急座談会/ 井村 俊哉テスタ日興フロッギー編集部

億の大台をはるかに超える利益をこれまでにあげているテスタさんと井村俊哉さん。おふたりの対談もいよいよ終盤。最終回となる今回は、このような激動相場での注意点に加え、井村さんがツイッターで構想を明かしていたファンドの立ち上げについてお伺いました。”井村ファンド”が立ち上がったとき、テスタさんは……?
第2回「円安・インフレで環境激変! 億り人の注目セクターは?」を読む

個人投資家の提言で会社が変わる


少し僕の想いを伝えてもいいですか? 個人投資家といえども、会社にとっていいと思うことは、思い切って提案してみてもいいかなって思うんです。僕は改善案を資料にまとめ、ご提案させていただいたりもしています。


そこまでなさっているんですか! どのようなことを提案するんですか?


経営のことには口を出さず、IR活動の充実につながるご提案をしています。基本的なところだと、個人向け説明会の開催、説明会動画の公開、質疑応答集の開示、手始めにご案内するのがこの3つ。もう一歩踏み込むと、説明資料の記載内容やKPI(重要業績評価指標)のグラフ化など、見せ方のご提案を差し上げたりもします。


三井松島HD 」にもなにかご提案したんですか?


前述の内容に加え、決算発表時間の変更と中間配当の実施もお願いしました。


決算発表の時間は会社によってマチマチですよね。前々回詳しく話していただいた「 川崎汽船 」の決算発表は東証の昼休みである11:30でした。三井松島HDは16:00です。


じつは三井松島は以前、場中の14:00に決算を発表していたんです。


なんと! 14:00だと後場取引の真っ最中ですから、慌ただしいですね。


場中の決算発表だと内容を精査する時間はありませんよね。そんな中で「決算が出たら(どんな内容であっても)売り」と考える空売り勢がいるとしたら、開示とともに売りを浴びせてくる。「下がったから悪い決算だったんだ、自分も売らなきゃ」と思ってしまう人もいて、売りが売りを呼んでしまう。無用なボラティリティ(価格変動)を抑え、決算をしっかり分析したい投資家や中長期で会社を応援している投資家のためにも、発表は引け後のほうがいいです――こう提案したんです。


どちらへ提案なさったんですか?


三井松島のIR担当者や経営陣です。中間配当の実施についても、期末一括配当だと権利日前後にボラティリティが大きくなってしまう弊害をご説明したところ、いずれも理解を示し、すぐに対応してくれました。声が届いたんだと感動したものです。


個人投資家の声で会社が動くこともあるんですね!

株主提案が急増! 高まるアクティビストの存在感


じつは個人投資家とコミュニケーションを取りたいと思っている企業もある。株主だけでなく企業や取引先にも配慮したご提案で、かつ、全方位的にWinな内容なら企業も耳を傾けてくれます。


アクティビストとか、「モノ言う株主」みたいなこと?


アクティビストよりもマイルドな「エンゲージメント」でしょうか。「発行体の企業価値向上のお手伝いをする伴走者」「働く株主」です。

※アクティビスト、モノ言う株主……投資先の経営に対して積極的に関与し、株価向上を目指す投資家
※エンゲージメント……株主と企業の「目的を持った対話」


インサイダー取引をしたり踏み外したらダメだけど、コーポレートガバナンス(企業経営を監視する仕組み)を整備したり、株主や企業のためになることならいい活動だよね。


アクティビストにも存在意義があると思っています。企業に適度な緊張感を与え、ガバナンスの強化や株主還元を含めた最適資本配分を再考するきっかけにもなると。今年は株主提案が増えていて、存在感も増しています。


6月に多く開催される株主総会に向けた株主提案ですね。


過去最高だった2020年の55社を大きく超え、6月14日時点で77社に株主提案が出されています(※取材日5/27のあとデータ更新)。これまでにない傾向としては、個人投資家からの提案も目立ちます。


注目している株主提案はありますか?


地銀への株主還元強化の提案です。そもそも、東証再編で流通株式時価総額などの基準が明確化されたことで還元策を強化する流れがある。とくに地銀では、4月には「 北國フィナンシャルHD 」が「地銀最高水準のPBRまでの自社株買い」を示しました。

※東証再編…2022年4月4日、これまでの4つの市場(東証一部、二部、マザーズ、JASDAQ)は3つの市場(プライム、スタンダード、グロース)に再編されました。各区分には流通株式時価総額などの基準があります。これらの基準を満たすため、例えば、株主還元策を強化し、株価を上昇させ、時価総額の上昇を目指す企業などがあります。

出所:北國フィナンシャルHD 2022年4月28日 中長期経営戦略のアップデートおよび株主還元方針の変更に関するお知らせ


数年来地銀に投資をしているとあるアクティビストは、今年初めて特別配当を求める株主提案を出しました。また、国内で抜群の知名度を誇る別のアクティビストが、先日、地銀株を初めて保有していることが明らかになりました。右にならえの性質がある地銀がどう動くのか、興味深く観察しています。

カエルメモ

・個人投資家といえども、会社にとってもいいことなら提案してみてもよいかも
・井村さんが注目している株主提案は「地銀への株主還元強化」

三井松島の決算で決意! 5年越しの夢を実現へ


井村くん、最近、ファンドのことが話題になっていたよね?


私もツイッターで見ました!

出所:井村俊哉さんのツイート


ファンドの構想は5年前くらいからずっと持っていました。ただ、ベンチャーキャピタルの方など何人かの大人にご相談したところ、やりたいだけでできるものではないよなと。その後、YouTubeチャンネルを運営したり、IR支援事業を立ち上げたり全力で取り組んできたんですが、向いていなかったんでしょうね。挫折して、原点である投資に打ち込むことにしました。心には、次に何かをするならファンドしかないと思いつつも、やっぱり人様のお金を預かるなんて怖い。正直、踏ん切りがつかなかったんですが、5月の三井松島の決算を見て決意しました。やらなきゃいけないよな、と。


仲間に入れてよー!


前にお声がけしたとき、バッチリ断ったじゃないですか!(笑)


どんなファンドを目指すんですか?


投資の世界は甘くないです。投資の普及啓蒙をしていたときもあったのですが、諦めてしまいました。こんなにも難しい投資を勉強しなさいだなんて、仕事があり家庭があり時間が限られる中で求めるのは酷だよなと。じゃなくて、「みんなは仕事に精を出し、趣味に家庭に楽しんでください。命を懸けて、αは僕らが探します」、これが理想郷だよなと。これまで個人で出してきた利益を自らのファンドに投じ、投資してくれた人にはリターンでお返しができるファンドにしたい。これが、自分ができる最大の社会貢献と思っています。


社会への貢献まで意識されているのですね。


好きな投資を突き詰めたい、という気持ちも大きいです。それを社会にとっても意味のあることにしたい。個人で運用しているだけでは、自分のお金が増えるだけなので、自分だけではなく誰かのために投資ができたら素敵だよなと。


「ポンジ・スキーム」(新規資金を原資に配当を繰り返す自転車操業の詐欺的商法)も多いから「お金を人に預けるのはダメ」っていつも言ってるけど、井村くんがやるんだったら「これは例外」って(ツイッターに)書くよ。


おおお……涙が出そう……


テスタさんは詐欺撲滅に加え、児童養護施設への支援もなさっていますよね。児童養護施設へ支援をなさるテスタさん、社会貢献も意識してファンド設立を目指す井村さん。おふたりを拝見していると、「投資家の可能性」「株式投資の可能性」について新しい発見がたくさんあります……!


井村さんが設立を目指すファンドは、私たちのような個人投資家も購入できますか?


一般の人も買える「公募ファンド」の実現はまだまだ先になってしまいますが、まずは機関投資家や大口投資家を対象とした「プロ向けファンド」の立ち上げに奔走しています。


投資させてよー!


本当ですか? 全力で買い上げて下さい(笑)

カエルメモ

・井村さんは投資の難しさも知っているからこそ、ファンド設立を目指している
・テスタさんも井村さんも、自分の利益だけでなく社会貢献も意識している

どんな時代でも勝てるやり方はある!


おふたりの話をずっとお聞きしていたいのですが、お時間が迫っています。最後に、円安やインフレ、資源価格の高騰など、さまざまな変化が起きている今年の株式市場について。今後、どのように向き合っていけばいいですか?


自分自身、毎年やってることは違う。「こうしたほうがいいな」と思ったことは毎日改良しているし。環境が変わるのは今年にかぎった話ではないし、新しい環境に応じて投資アイディアを浮かべていくことだと思います。


そう、いつだってチャンスはある。「いまは難しい」と思考停止するのではなく、チャンスを探すということ。どんな環境であれ、利益を出す方法はある。その方法は、前にお伝えしたとおり「自分だけのαを探す」ということに尽きます。

カエルメモ

環境が変わるのは今年に限ったことではない。「いまは難しい」と思考停止しない。環境に合わせながら、自分のだけのαを探そう

大事なのは「不透明要素」が少ないこと


今年の株式市場で気をつけるべきことはありますか?


「ビジビリティ」ですね。


ビジビリティ……? どんな意味でしょうか。


最近のアナリストレポートにちらほらと出てくる言葉なんですが、「業績のビジビリティが高い」なんて使われます。視認性、見通しやすいかどうか、ですね。僕はビジビリティにかなり気をつけています。


それはなぜですか?


今年は、僕が経験した中でもダントツで外部環境の変化が激しい。中国のロックダウンが長引けば売上の中国比率が高い会社や製造拠点が中国にある会社は一気に減収となってしまうし、原材料費の高騰を価格転嫁できない会社は赤字になってしまう……。輸送費やエネルギーコストの高騰、金利上昇に為替のリスク……、これらの外部環境の影響を精査し、増益に対する不透明要素が少なく、ビジビリティが高い銘柄を意識して選んでいます


原材料高、輸送費高、エネルギーコスト高、資材の調達難、為替の影響……様々な不透明要素がありますもんね。


IR窓口にこれらの懸念についてヒアリングするのもいいと思います。懸念を払しょくできれば、それはビジビリティが高い銘柄です。「ロックダウンの影響なし、為替もポジティブ、原材料高は価格転嫁できている。受注残は豊富で数量増で営業利益率の上昇もあるかもしれない。利益が上振れて増配まで見える。なのにPER6〜8倍程度で配当利回り3〜5%」という銘柄を探すんです。そしてこれがまあまああるんです!


そうなんですね! 希望が湧いてきます!


あれ? テスタさん、クルマ乗ってる?(※先ほどまで自室にいたテスタさんが、いつの間にかクルマで移動中) どこ行くの?!


ご飯や!


気がつけばもう夕食の時間ですね。本日も長時間ありがとうございました! 具体的な銘柄を元にしたおふたりの考え方や、これからの注目セクター、さらに井村さんのファンドへの想いまでお聞きすることができ、充実した時間でした! またぜひよろしくお願いします!

カエルメモ

外部環境の変化が激しいため、井村さんはビジビリティ(視認性、見通しやすいかどうか)を非常に重視

※三井松島(1518)は記事執筆時点で証券金融会社の注意喚起銘柄に指定されています。
※記事の内容は、取材日時点のものです(一部執筆時点で情報更新)。最新の情報については、皆様ご自身でのご確認をお願いいたします。