第2回 初心者はデイトレしちゃダメ?

だれでもできる株式投資入門/ 藤野 英人下窓 まめ子

ファンドマネージャーをしている叔父と話したことで、株式投資への興味がわいてきた28歳会社員のユリコ。より詳しく話を聞こうと、東京の叔父の会社を訪れたユリコは「デイトレがやりたい!」と意気込んだものの、叔父に「初心者は長期投資にしたほうがいい」と止められて……。

※この連載は、ひふみ投信のファンドマネージャー藤野英人さんによる投資入門です。投資ファンドの運用担当をしている「叔父」が、姪の「ユリコ」に、投資について、物語形式で教えていきます。

「第1回 株式投資って、こわくない?」を読む

ファンドマネージャーって何をやってるの?

ユリコ 叔父さん、今日は時間とってくれてありがとうございます。叔父さんって「ファンドマネージャー」をやってるんでしたよね。この間、株式投資のことはちょっとわかった気になったんですけど、ファンドマネージャーって何をやっているんでしょうか? 普通の投資家とは違うんですか?

叔父 普通は「投資家」っていうのは、自分のお金を使って自分の責任の範囲内で投資を行う人のことを指すんだけど、ファンドマネージャーはそうした投資家からお金を集めて、彼らの代わりに投資を行うんだ。ユリコちゃんも、たとえば髪を切るときに自分で切ることもできるけど、美容院に行くことが多いよね。それと同じで、投資はしてみたいけど、自分ではうまくできなそう……と心細い人や、投資にかける時間がない人の代わりに運用を引き受ける「お金の運用のプロ」なんだよ。

ユリコ すごい! しかも、ものすごい大きな金額を動かしているってことですよね。

叔父 そうだね。いろいろな人に預けてもらったお金をひとつの資金としてまとめて、株式や債券といった金融商品に投資し、成果を上げて、個々の投資家に還元するということをしているんだ。それが「投資信託」。さらに、投資信託にお金を預けると、プロに運用してもらえるということ以外にもう一つメリットがある。何だと思う?

ユリコ うーーーん……。

叔父 「投資信託」にお金を預けると、全体の金額が大きいので、ユリコちゃんの50万円だけでは買えない金額の大きな銘柄に投資ができるし、分散していろんな銘柄に投資することもできるから、集中投資するよりもリスクを減らしてリターンを得ることができるんだよ。

ユリコ そっか! ということは、自分で株式投資の勉強をするより、この50万円を叔父さんに預けたほうがラクに儲けられるってことですか?

叔父 まあ、ファンドマネージャーという立場からすると投資信託のメリットをアピールしたいところだけど(笑)、今ユリコちゃんがせっかくやる気になってるなら、自分で個別の株に投資してみるのもいいと思うんだよね。自分で投資をすることで手に入るものがたくさんあるから。

ユリコ それはそうですね。今日もいろいろ聞かなくちゃ!

デイトレと長期投資、どっちがいいの?

ユリコ ちょっと自分でも調べたんですけど、株式投資って、トレードのスタイルがいろいろあるんですよね。1日の株価の動きで値幅をとる「デイトレード」とか、数日~数週間で売買をすませる「スイングトレード」とか。「配当」や「株主優待」を求めて株を買う人もいるだろうけど、手っ取り早く儲けるには、デイトレードがいいんでしょうか? ただ、ちょっと怖いなとは思ってるんですけど……。

叔父 基本的に、初心者はデイトレードやスイングよりも長期投資をしたほうがいいと、ぼくは思うよ。原則として、1つの株を半年以上は持つ、くらいの気持ちで。

ユリコ たしかにデイトレードって「マネーゲーム」という感じがして、あんまり良くなさそうだなと思ってました。

叔父 誤解しないでほしいんだけど、別にぼくはデイトレやスイングが悪だから止めているわけじゃないよ。ユリコちゃんがやりたければやればいい。投資には手法がいろいろあって、絶対的な優劣があるわけじゃないんだ。さまざまな投資家がさまざまな考えで売買するから、マーケットは厚みを増して、みんなが売買できるものになるわけだしね。

ユリコ でも、デイトレやスイングって「投機的」だって言われることも多いんですよね。「行き当たりばったり」とか「ギャンブル」って感じがすごくします……。

叔父 たしかに、世間ではそういうイメージかもしれない。でも「投機」って、もともとは禅の言葉なんだよ。

ユリコ え、禅宗の禅ですか?

叔父 そう。「師匠と弟子の言葉のやりとり」のことを投機っていうんだ。

ユリコ つまり禅問答のこと?

叔父 そのとおり。禅の世界では「人が生きることはなんぞや」「食べて食って寝ることだ」「食べて食って寝ることとは何か」……と師匠と弟子が無限のやりとりをしていくよね。「投機」ってあれをさした言葉なんだ。そして株式市場もまた、「売り手と買い手の無限の問いかけ」であるということで、投機という言葉が使われているんだよ。「この株をこの値段で買いたい」「この株をこれで売りたい」という人がわーっといて、その中で問答することで価格が決定する。そこには期間の長さにかかわらず深い思索があって、善も悪もない。マーケットっていうのはそういうものなんだよ。

ユリコ 問いをぶつけ合って、心や知恵とかをすり合わせていく過程が「投機」なんですね。それでも、ギャンブルっぽい感じも否めないけど……。

叔父 それを言えば、毎朝ぼくらが家を出るときに傘を持って行くかどうか、今日どんな道を使って会社に行くかどうか、といった日々の選択もある意味ギャンブルなんだよ。ぼくは、別にギャンブルが悪いとも思わないね。ルールをきちんと守っていて、そこに深い思索があるならば。

初心者は「時間を味方につける」ことが大事

ユリコ うーん。ということは、私もやっぱりデイトレしたほうがいいですか?

叔父 ただね、デイトレードで儲けるのはそんな簡単なことじゃないんだよ。1日の値動きですべてが決まるわけだから、ずっとマーケットに張り付いていないといけない。会社にいる間もそわそわするだろうし、デートの時間も落ち着かないし、他のことをやる余裕がなくなっちゃうかもしれないよ。デイトレを続けて100万円を1億円にする人ももちろんいるけれど、そういう人は専業投資家として生きるためにものすごい知識をたくわえたり、努力をしたりしているからね。どの方法が善でどの方法が悪とは言わないけれど、投資以外の生活もある人は売ったり買ったりを頻繁にするのではなくて、長い目でみて成長しそうな株を年単位で保有する「長期投資」のスタイルにしたほうがいいと思うな。

ユリコ なるほど……。

叔父 それに長期投資っていうのは、たんに日常生活とのバランスがとれるというだけでなく、時間を味方につける方法でもある。

ユリコ どういうことでしょう?

叔父 これはうちの会社のセミナーでよくする話なんだけど、昔の日本では、女の子が生まれると桐の苗木を植える習慣があったんだ。

ユリコ 急に桐の木の話をされても……。

叔父 この桐の木、女の子が20歳になるころにはどうなると思う?

ユリコ 大きな桐の木になる、ってことですか?

叔父 そうそう。大きくて立派な桐の木が育ったら、それを材料にして桐ダンスをつくって、女の子の嫁入り道具にしていたんだ。これって、女の子が大きくなったときに大きな桐の木を買ったり桐ダンスを買うよりもお得だよね? 株もこれといっしょなんだよ。

ユリコ ああ。時間をかけることで、資産が自然と成長するということですね。

叔父 そう。それが「時間を味方につける」ということ。ただ、ちゃんとメンテナンスをして見守る必要もあるんだ。実際に、桐の木も枯れてしまうことがあるから、最初に2本植えていて、1本がダメになっても大丈夫なようにリスクヘッジをしていたそうだよ。株も同じように、時間が経つにしたがってどんどん衰退してしまう会社もあるから、そこはしっかり見ておかなくちゃいけない。

ユリコ 長期投資とはいえ、ほったらかしもダメということですね。

叔父 あと株価はたえず変動しているから、一気にまとめて買ってまとめて売るよりは、なるべくタイミングを分散するといい。買うタイミングをずらしながら少しずつ買っていくと、納得できる水準まで均(なら)されることが多い。もちろん、やりたければギャンブル的にまとめて買ってもいいけど、無駄にリスクを取る必要もないからね。

知られざるオトク制度「iDeCO(個人型確定拠出年金)」

ユリコ そうか、時間をかけることで、「行き当たりばったり」さも軽減することができると。

叔父 うん。これがぼくがよく話す、「ゆっくり長く」の法則なんだ。そのうえで、ぼくは「小さく」というのもすすめている。

ユリコ それは投資金額の話ですか?

叔父 そう。その金額は人によって違うわけだけど、その人が「手に汗をかかない金額」にすることも大切だね。1回あたりの投資金額を小さくすることで、また時間が経ってから投資するためのお金が確保できるので「ゆっくり長く」も実現できるんだよね。

ユリコ 私は今使えるお金が50万円あるわけだけど、となるといきなり50万円まるまる使っちゃいけないということですよね。具体的にはどれくらいがいいんでしょう?

叔父 うーん。全資産300万円のうち100万円まで汗をかかないという人もいれば、10万円でも無理という人もいるので、これは人それぞれだね。毎日株価に一喜一憂しなくていい程度の金額ということで、考えてみて。

ユリコ うーーん、もし10万円のブランドバッグを買うなんてことになったら、1ヵ月くらい考えるもんなあ。海外旅行のために20万円使うとなったらなおさらだし……。ちょっと、考えてみます。

叔父 そうだ、ちょっと株式投資とは違う話になるけど、実は「税金を減らしながら投資できる」制度を、今日本政府が推進しているよ。iDeCO(個人型確定拠出年金)っていうんだけど。なんと、1)掛け金ぶんが所得から控除されて、2)利益が出ても課税されないうえに、3)将来年金を受け取るうえでも税金が優遇されるんだ。仮に年収400万円の会社員が毎月2万3000円を積み立てたら、1年で8万4000円も節税できるんだよ。

ユリコ ええっ! 知らなかった!

叔父 うん、本当に魅力的な制度なんだけど、知名度がまだまだ低いんだよね。ぼくの会社でも「ひふみ年金」というiDeCO専用の投資信託を用意しているんだけど、いろいろな会社がいろいろな商品を出しているから、そちらもぜひ調べてみるといいよ。

ユリコ はーい!

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