「やる気を出してもらう」って、難しいですよね。
今年で29歳になる筆者も、チームマネジメントをする機会が年次を重ねるごとに増えているのですが、「チームメンバーのやる気を引き出し、高いパフォーマンスを発揮させる」って、もうほんっとうに難しいです。
褒めに徹してみたり、ときに本音でぶつかってみたり……いろんなトライをしてきたものの、「部下のやる気スイッチの入れ方」、正直まったく正解がわからんというのが本音……
そこで今回取材をさせていただいたのが、ベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の著者、坪田信貴さん。
私塾・坪田塾で子ども達を個別指導し、1300人以上の生徒の偏差値を短期間で急激に上げてきたほか、吉本興業ホールディングス社外取締役として“YouTube・カジサック”を生みだした実績も持つなど、言わば「人に結果を出させる天才」。
「部下の“やる気スイッチの入れ方”を教えてください」からスタートとしたこの取材、金言の数々を見逃すことなかれ!
〈聞き手=サノトモキ〉
記事提供:新R25
やる気スイッチの押し方を教えてもらいたいんですが……
新R25さんは素晴らしく面白いメディアなんですけど、どの記事も取材対象者をうっすらいじってる傾向があると思っていて(笑)。
いやいやいや!
今回はどんなふうにいじられるのかなと期待しつつ、むしろ僕がいじってやろうと思って来ました。
さっそくですが、今日は「やる気スイッチの押し方」を教えていただきたいんです。
ビリギャルさん、カジサックさん……“人に圧倒的な結果を出させてきた”坪田先生に、部下にやる気を出させるコツを伺いたいなと。
「やる気スイッチの押し方」ね。これ本当によく聞かれるんですけど……
一つ言えるのは、そもそも「やる気スイッチ」を探そうとしていること自体がもう間違いってことで。
人間って、「やる気」で動いてるわけじゃないので。
「やる気」なんて、出たとしてもすぐ消えちゃうじゃないですか。
「やる気を出した瞬間」って、みなさんも今までめちゃくちゃあったと思うんですよ。「よし、勉強するぞ!」って問題集一気に3冊買うみたいな。でも、結局やらないじゃないですか。
「やる気」の力なんてそんなもんなんですよ。
ぐうの音も出ねえ。
やる気スイッチを探しても仕方ないというのは、そういうことで。
部下が頑張れない状態を「やる気の問題」と捉えている限り、人に結果を出させることはできません。
これが今日の授業のスタートラインなんですが……大丈夫そうですか?(笑)
……とりあえず、用意してきた質問案を閉じようと思います。
坪田式・人が動き出す3つのステップ①:「“素直さ”を引き出せ」
「やる気」の問題じゃないとすれば……
いったいどうすれば「主体的に頑張ってもらう」ことができるのでしょうか?
「やりたくないことがやりたいことに変わっていくプロセス」には、大きく3つのステップがあるんですよ。
「①素直になる」→「②協力する」→「③憧れる」。
この「素直さ」「協力」「憧れ」の3つのを順番に引き出していくことが、マネージャーの仕事です。
まず着手すべきは、相手の「素直さ」を引き出すこと。
これは大前提として押さえておいてほしいんですけど、「素直じゃない人」には何を言ったって届かないんですよ。
「コイツの言うことなんて聞きたくない」状態になってる頭には、何も入っていかない。
わかる気がします。反抗期のときとか、まさにそうだったかも。
だから、「素直な人が伸びる」とよく言いますけどこれって大正解で。『ビリギャル』のさやかちゃんが急激に成長できたのも、彼女が素直だったから。これは間違いありません。
ただ講演で今の話をすると、「うちの子/部下はさやかちゃんみたいな『素直さ』がないんですが、 “素直じゃない人”はどう伸ばせばいいんでしょうか?」みたいな質問をよく受けるんです。
みなさん、ここを勘違いされている。素直さって“性格”じゃないんですよ。
さやかちゃんは、たしかに僕やお母さんには素直でしたよ。でも、お父さんや学校の先生にはめちゃくちゃ反抗的でしたからね?
つまり、「素直な人」がいるんじゃなくて、誰しもに「素直になれる相手/なれない相手」がいるだけなんですよ。
「素直さ」とは、関係性がつくりだす“状態”のひとつ。このことに気づかなきゃいけない。
たしかにそうかも……!
では、どんな人相手にだったら人は素直になれるんでしょうか?
「自分のことを理解してくれている人」。あるいは「本気で理解しようとしてくれている人」。
こういう人に対して、人は素直になるんです。
もし相手が素直に動いてくれないとしたら、それは相手にとってあなたが「自分のことをまるでわかろうともしないのに一方的に要望を押し付けてくる人」になってる可能性を考えたほうがいいかもしれない。
人は、そういう存在に対して強く反発するので。
これは……恥ずかしながら反省すべきところがありそうです。
相手の理解者になり、“素直さ”を引き出す。
これがマネジメントの出発点であり、マネージャーとはときに本人以上にその人のことを理解しにいかなければならない仕事です。
このステップなしには、本質的に人をモチベートすることはできません。
坪田式・人が動き出す3つのステップ②:「お土産理論で“協力”を引き出せ」
では、ステップ②「協力を引き出す」はどんなフェーズなのでしょうか?
ここは、本人のなかに「行動のきっかけ」をつくるフェーズです。
仕事とか勉強って、たいていは上司とか親に「指示されてやる」ところから始まるじゃないですか。
だから当然、はじめはマネジメントする側が「行動のきっかけ」をデザインしてあげなくちゃいけないんです。
「行動のきっかけ」をデザインする、か……
たとえば、「相手にとってのメリットを伝える」とかですか?
それみなさんやりがちなんですけど、メリットで人を動かすってじつはめちゃくちゃよくないんですよ。
「メリットがあるからやる」は基本“ご褒美のために嫌なことを頑張る”って構造なので、行為そのものへのモチベートにはなってない。
引き出せたとしても、瞬間的な「やる気」の範疇なんですよね。
ではどうすればいいのでしょうか?
「ふたりの目標」を持ってください。
与える目標を「ふたりの共同プロジェクト」として提示して、その人に“協力”を求めてください。
たとえば、梶原(カジサック)さんに「YouTubeで世界的スターになりましょう」と提案したとき……
YouTubeは本気で始めたいとご本人が決意していましたが、「世界的なスター」の部分にはピンときていなかったんですよ(笑)。
というのも梶原さんって当時、“iPhoneXが出てる時代にiPhone4を使ってる”くらい機械音痴だったので。
そんな感じだったんですか!?
ただ、僕はそこから①吉本の大崎会長に「吉本のDXをどうにかしてくれ」とミッションを与えられていること、②そして僕が「絶対スターになれる」と信じているのがカジサックさんであることを、本気でお伝えしたんです。
プレゼン資料を用意して、目標や計画も詳しく伝えて、梶原さんの力をどうしても貸してほしいと。
そこではじめて「あっ、この人本気なんや」と伝わって、「世界的なスター」への挑戦を決断してくれたんですね。
会社にしても、本来上司と部下ってチームとして同じ目標に向かっている“並列関係”じゃないですか。
なのに、一方的にやらせて結果を評価するだけの“上下関係”で捉えてる人ってけっこう多くて。
だから、「何やってるかはよくわかんないけど、目標は絶対達成しといて」「なんで達成できてないの?」みたいな言葉が出ちゃう。これで頑張ろうと思えます?
絶対思えないですね。
一方で、 “よき理解者”から本気で必要とされたら、嫌でも当事者意識って芽生えるんですよ。
普段自分と本気で向き合ってくれる人に助けを求められたら、自分もちゃんとやって応えなきゃって気持ちになるので。
ある種、恩義を返す気持ちというか。
そう。まずは受けた恩をお返しする“お土産理論”から始めればいいんです。
「その人の目標」として押しつけるんじゃなく、「ふたりの目標」として提示して協力してもらう。
自分自身が本気で「並列関係」として部下との関係を捉えられるようになったら、「この人の力にならなくちゃ」と必ず応えてくれますから。それが、行動のきっかけになる。
坪田式・人が動き出す3つのステップ③:「“憧れ”を引き出せ」
そして最後は、本人のなかに「憧れ」をつくる。
このステップが、マネージャーの最重要ミッションと言えます。
冒頭で、人は「やる気」で動いているわけじゃないと言いましたけど……
動けないでいる人というのは、「やる気」がないんじゃなくて「やる理由」がないんです。
「やる理由」。
『ビリギャル』のさやかさんも、もともとは勉強を頑張る気なんてまったくなかった。
高校2年生で「strong」の意味がわからないくらい偏差値も低かったし、それくらい勉強をやってこなかった子だったんですけど、それは「やる理由」がなかったからなんですね。
でも、映画『ビリギャル』のなかで、ビリギャル役の有村架純ちゃんが「私、夢ができた。坪田先生みたいに、“誰かのために一生懸命になれる人”になりたい」っていうシーンがありまして。
ほう。
あのころの僕は、「なんでそこまでやんの」ってまわりに言われながらも、生徒さんのために自分の時間を削ってめっちゃ一生懸命やってた時期なんです。
彼女はその姿を見て、「この人みたいになりたい」と思ってくれたそうなんですね。
「慶應に行けばこんな人がたくさんいると思ったら、頑張れた」って。
でも、これが全てなんですよ。
「一生懸命頑張る姿を見せる」。その姿を見て、「憧れ」が萌芽する。
これが、人のなかに「やる理由」が生まれる瞬間なんです。
……!
親御さんからもよく、「坪田先生はどんな教育をされるんですか?」って聞かれるんですよ。「どんな学校選ぶんですか?」「幼児教育は?」「家ではどう勉強させるんですか?」って。
「自分が最高だと思う人生を一生懸命歩む。その姿を見て、子どもがどう思うか」。僕は、これが親にできることだと思う。
「憧れ」なんです。教育の本質とは、「憧れの萌芽(ほうが)」なんです。
「頑張れ」と言っている本人が、まず一生懸命に何かを頑張っていること。
あなた自身がまず、目標に向かって必死に頑張る姿を見せてください。
そこを本気で見せつづけられたら、“あなたに協力するため”に動き出したはずの部下は、いつのまにか“自分のため”に頑張るようになってますから。
走り出したら、上司の仕事は「マル6バツ4の教材選定」のみ
「素直さ」「協力」「憧れ」の3ステップで人は動き出す。ものすごい納得感の連続でした……
最後に、「走り出した人をサポートするコツ」も教えてもらえたりしますか?
「“マル6バツ4”の教材選定」ですね。
部下が走り出したあとは、これが上司や教師の仕事の100%といっても過言じゃないです。
頑張ってても伸びない子って、基本やってる教材の難易度が間違っているケースがほとんどなんです。
仕事も同じで、重要なのはつねに「10問中マルが6、バツが4くらいになる難易度」のミッションを与えつづけることなんですよ。
マルが6バツが4。その心は……?
「半分以上はできる」という難易度が、最も前のめりにモチベーションを維持できるからです。
それ以上バツが多いと「自分には無理」と折れてしまうし、それ以上マルが多いと「わざわざ挑戦するほどでもないな」と舐めちゃって続かない。
だから、力がついてマルが増えてきたら難易度を再設定してまた6:4になるようにする。ここを徹していれば基本は大丈夫だと思います。
今日はありがとうございました……学んだことをいかして、部下のパフォーマンスを引き出せる良きリーダーを目指したいと思います!
いえいえ、こちらこそ楽しかったです。
寝起きみたいな格好なのに、インタビュー力が高い!
「やる気スイッチなんてものはない」という衝撃の言葉から始まったインタビュー。
相手を本気で理解すること。向かい合うのではなく、同じ方向を向いて目標を追いかけること。そして何より、まずは自分が一生懸命な姿を見せること。この3点を意識して、明日から気持ちを新たに頑張ろうと思います。
ほんで次取材させていただくときは、服装でも“マル”もらえるように頑張ります。(これもしかして、「マル6バツ4教材選定」戦法の術中……?)
〈取材・編集=サノトモキ(@mlby_sns)/文=ケイ・ライターズクラブ/撮影=森カズシゲ〉