みなさんこんにちは! 公認会計士・税理士の山田真哉です。働き方改革の推進で、じわじわ浸透しつつある「副業」ですが、2022年(令和4年分)の確定申告から、副業収入が300万円以下だと大増税になる可能性が出てきています。今回は、現在会計業界や副業界隈で話題騒然となっている大増税問題について、分かりやすくお伝えしたいと思います。
どれくらい増税になるの?
まずは、2021年までと比較して、どれくらい増税になるかの具体例を見てみましょう。
たとえば、会社からの給与収入が500万円、そして副業所得が200万円だったとしましょう(副業の場合は売上などの収入から経費を引いた部分で計算します)。そうすると合計700万円になりますね。この場合の税金(所得税+住民税)は、2021年まで、ざっくり年間70万円でした。
これは、副業所得が「事業所得」という扱いで、青色申告の「65万円控除」が使えたので、だいたい70万円くらいの税金というわけです(青色申告は、確定申告の種類の1つで、申告の要件によって色々な特典があります)。
ところが、給与収入と副業所得が同じ金額のまま、2022年以降どうなるかと言うと、なんと税金は90万円になるんです。プラス20万円です。原因は、副業収入が「事業所得」ではなく、「雑所得(業務)」という扱いになって、「65万円控除」が使えないからなんです。
では、具体例をもう1つ。
会社からの給与収入が500万円で、副業所得がマイナス100万円の場合はどうでしょう? 2021年までは、給与収入から副業の赤字を引くことができたので、合計400万円となり、税金はざっくり年間21万円でした。
それが、2022年からは給与収入500万円と、副業の赤字100万円を足すことができなくなります。副業の赤字は赤字のまま放置となります。よって、この場合は500万円に対して税金がかかり、ざっくり39万円となります。つまり、副業の赤字とがっちゃんこ(損益通算)できなくなった結果、税金が21万円から39万円と、ほぼ2倍に増えるんです! これは大増税ですよね。
副業の節税メリットがなくなる!?
そもそも副業のメリットは沢山あるんですが、代表的なものを挙げると、
②副業収入を「事業所得」にすると税金が安くなる
この2つがあります。通常、給与が増えると社会保険料も増えるんですが、副業では健康保険料、厚生年金保険料が増えません。そして、副業を「事業所得」にすると青色申告のメリットがあります。65万円もしくは10万円の青色申告特別控除が使えます。さらに副業が赤字ならば、給与所得と損益通算できるメリットもあります。
ところが、今年制度改正が行われると、300万円以下の副業収入は「事業所得」ではなく、ほぼ「雑所得(業務)」の扱いになってしまうんです。この基準となる300万円は経費を引いた利益ではなく、売上などの収入で判断します。
さらに、雑所得には青色申告の制度がないので、青色申告の控除は使えなくなり、赤字と相殺する損益通算もできなくなります。これまでの節税ができなくなる、という意味で大増税になるんです。
これは、まだ案の段階ではありますが、国税庁の通達で案が出て、それがひっくり返ることは滅多にないので、ほぼこれは確定だと思って大丈夫です。
新ルールの「3つのポイント」
今回の新ルールはポイントが3つあります。
※ただし給与収入<副業収入なら、「事業所得」でOK
②給与収入>副業収入(300万円以上)は、「事業所得」にできるかも
③給与収入と副業の赤字は相殺できない
まず、売上などの収入が300万円以下だった時点で、「雑所得(業務)」となります。ただし、会社からのお給料より副業収入の方が多い場合は「事業所得」で問題ありません。要は副業の方がメインになっていますからね。
それから2つ目は、給与の方が多いけど、副業収入が300万円超だった場合は「事業所得」にできるかもしれないという点です。ただ、あくまで社会通念上、事業所得と言えるのかどうかが大前提なので、たとえば給与収入が1000万円で、アフィリエイトで300万円超稼いでいるような場合は、やっぱりアフィリエイトは副業だよね、となってしまいます。
「社会通念上」という言葉は、よく税務用語で出てくるんですが、ざっくり言えば「常識」という意味です。でも常識って、人それぞれ違いますよね。
もともと、「事業所得」なのか「雑所得(業務)」なのかっていう判定は、基準がたくさんあったんです。たとえば営利性があるか、反復継続しているか、事業的規模があるか、ちゃんと独立しているか……などなど。いろんな項目があるんですが、大雑把に言うと、社会通念上、独立した事業だったら「事業所得」だし、事業じゃなかったら「雑所得」、そういう判断でした。
だから、今まで非常にふわっとしていたんです。仮に副業収入が50万とか30万でも、「いやこれは、これから伸びる事業だから事業なんです。今は売上が少ないかもしれないけど、こういう理由で私は事業だと思います」と言うと、「事業所得」として通ったりしていたんですね。
でも、そうやって税務調査官によって判断が異なるのは良くないということで、新たにできたルールが今回の300万円基準です。なので「雑所得(業務)」と言われて反論する場合は、その納税者に立証責任があります。
たとえば、「コロナの影響で売上が250万に下がっただけなんですよ」と言えばセーフかもしれません。でも特に理由がなければダメです。「これから伸びるんです」だけだったら多分ダメでしょうね。
そして3つ目は、給与所得と事業の赤字を損益通算することができなくなります。これは令和4年分以後の所得税に適用されるということで、今年(2022年1月1日~12月31日)の分は、もう新ルールが適用されてしまうんですね。
新ルール適用の原因
なぜ急にこんな話になったかと言うと、原因は「シェアリングエコノミー」の増加です。シェアリングエコノミーは、いわゆる個人のスキルや時間をシェアする新しい経済の動きや、そうした形態のサービスを指します。
たとえばウーバーイーツの配達員とか、ユーチューバーや動画編集、転売、せどり、個人バイヤー、ハンドメイド、アフィリエイト、さらにコンサルタント、講師、デザイナー、ライターなど、クラウドソーシングサイトを通して請け負うような仕事は大体該当します。
そういった仕事が増えて、青色申告や損益通算といった「副業節税」をガンガン使う方が増えたことで、こういう仕事は本来やっぱり雑所得じゃないの?、という話になったんです。
さらに、コロナ禍になって助成金の不正受給のニュースもありましたよね。雑所得だったら助成金はもらえませんが、事業所得だったらもらえるので、事業所得で申告する方が非常に増えたんだと思います。
そうなると、真面目に副業収入を「雑所得」にしている方にとっては、不公平感が出てしまいますよね。こうした背景から、今回規制がかかったと思われます。
なお、令和4年分の確定申告からは、給与の方が多くて副業収入が300万円以下なのに、副業収入を「事業所得」で確定申告をしている方々には、おそらく「お尋ね文書」が届くのではないかと思います。つまり、税務署から「具体的な仕事を書きなさい、それが事業だという証拠を出しなさい」といった文書が来ると思われます。
もしくは3年間泳がせて、3年後に税務調査が来て3年分の税金をガサッと取るかも知れません。まあ、どれが選択されるか分かりませんが、「雑所得(業務)」とすべき副業収入を「事業所得」で確定申告をするのは、かなり勇気がいることだと思います。
対策はあるの?
最後に、どのように対策すれば良いかをお話ししましょう。まず、「事業所得」で続けたいなら、シンプルに副業収入が300万円を超える工夫や努力をする必要があると思います。
あとは発想を変えて、副業収入を20万円以下にして確定申告しない方法もありますね。ただ、これまでやってきたような副業節税ではなくなるので、もはや節税を諦めるという方も出てくるんじゃないかと思います。
国としては、副業を非常に推進している時期ではあるので、副業をする人のメリットがあるようなこと、たとえば「所得が〇〇万円以下だったら確定申告は不要」とか、今後そういった副業推進策は出てきてほしいと個人的には思っております。
というわけで、今回は、2022年8月23日時点の情報を解説いたしました。副業収入300万円以下の増税問題は、今後さらに動きがあるかもしれないので、国税庁のHPや私のYouTubeやTwitterをご確認いただければと思います。それでは、今後ともご贔屓に! ば~いば~い!