変化する日本のエネルギー政策 「原子力発電」関連株が上昇

直近の値動きから見るテーマ株/ QUICK

株式市場で「原子力発電」関連銘柄が買われています。QUICKが選定する25銘柄の平均上昇率は3.0%と、米金融政策の先行きを見極めたいとの様子見姿勢から4週ぶりに反落した東証株価指数(TOPIX、0.7%下落)に対して逆行高となりました(8月26日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!

GX実行会議、原発再稼働や次世代原発の開発検討へ

8月24日、環境を重視して社会構造を変革するGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議が行われ、政府は、原子力発電所の再稼働や、新型原発の開発・建設の検討方針を打ち出しました。政府は、世界情勢を踏まえ、エネルギー安全保障のため原子力の活用が不可欠と判断、これまでの「新設や建て替えは想定していない」との立場を転換したことになります。

先進国で広がる原発の新規建設

温暖化ガスの排出ゼロを目指すなか、先進国で原発を新規に建設する計画が広がっています。英国は2050年までに原発の発電割合を25%にする目標に向け1年に1基のペースで建設する計画のほか、フランスも50年に向け大型革新軽水炉14基の建設を検討しています。各国がエネルギー安全保障体制の強化に向けて原子力を見直しており、原発に使われるタービンなどの製造や運営、保守・点検などを手掛ける銘柄が注目されています。

世界60カ国の発電所に、100万台あまりのバルブを納入【岡野バルブ製造】

上昇率首位の「 岡野バルブ製造 」は、国内初の原子力発電所として1966年に操業開始した日本原子力発電東海発電所に蒸気用バルブを納入。あらゆる原発用の高温高圧バルブを製造可能としています。これまで60カ国の発電所に、100万台以上のバルブを納入しています。原子力小型モジュール炉(SMR)など新型原発にも対応しています。

歯車製造から原発バルブなどに事業拡大【日本ギア工業】

上昇率2位の「 日本ギア工業 」は歯車製造の専門会社として1938年に設立。歯車製造技術を基礎として米国メーカーとの技術提携で製品を多様化しました。原子力発電所向けにはバルブアクチュエータ(電動バルブの開閉操作をする駆動器)を手掛けています。日本の原発のバルブアクチュエータでは90%以上のシェアを占めています。

柏崎刈羽原発が再稼働の対象に【東京電力ホールディングス】

上昇率3位は「 東京電力ホールディングス 」。8月17日、稼働停止中の柏崎刈羽原子力発電所に関して、「特定重大事故等対処施設」(大規模損害発生時の破損防止施設など)の設置申請が、原子力規制委員会から許可されました。政府のGX実行会議は柏崎刈羽原発も再稼働の対象としており、地元の理解確保に向けた取り組みなどを進めていく方針です。

新規制基準対応の関連工事などに取り組み【東京エネシス】

上昇率4位の「 東京エネシス 」は1947年の創業以来、電力会社の電源開発に伴い水力発電所工事や変電所工事を中心に事業を展開。1970年からは原子力発電所工事に進出し、原子力設備の建設や検査から長期にわたるメンテナンス、設備診断・検査まですべての工程に携わっています。近年では原子力施設における新規制基準対応の関連工事や耐震評価などに取り組んでいます。

脱炭素社会の実現へ原子力の利用促す【三菱重工業】

上昇率5位は「 三菱重工業 」。原子力事業では事業戦略の立案のほかプラント設計や主要機器の設計・製造、原子力タービンの設計・製造など幅広い領域を手掛けています。2020年には「脱炭素に向けた原子力事業の取組み」を発表。「カーボンフリーの大規模・安定電源」として既設の原子力プラントの再稼働を進め、次世代軽水炉などの研究開発を推進する方針を示しています。

国内原発は地元の理解が再稼働のカギに

福島第1原発事故を受け、一時は「脱原発」に傾きつつあった先進国のエネルギー政策。脱炭素の推進と、ロシアのウクライナ侵攻を発端とするエネルギー安保への関心の高まりから、再び原発の活用へと舵を切りつつあります。日本政府も新型原発の開発・新設を明言しており、折に触れて関連銘柄への物色は広がりそうです。もっとも、原発事故を経験した日本での再稼働や新設には、地元の理解や協力がカギを握ることになります。原発が主要電源のひとつに返り咲けるのか、注意深く見守りたいですね。