大口取引先が値上げ受け入れ 「合成ゴム」関連株が上昇

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株式市場で「合成ゴム」関連銘柄が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は2.9%と、米金融政策への過度な警戒感が後退し3週ぶりに反発した東証株価指数(TOPIX、1.8%上昇)を上回りました(9月9日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!

採算改善を狙う合成ゴムメーカー

9月3日付の日本経済新聞朝刊が「主に自動車に使う合成ゴムの8〜10月の国内大口価格が、7月までに比べ2〜3割上がった」と報じました。ロシアによるウクライナ侵攻に伴う原油価格の上昇や円安で、原料のナフサ(粗製ガソリン)やブタジエン(不飽和炭化水素)の価格が上昇。採算改善を狙ったメーカーの値上げを大口の買い手が受け入れたようです。こうした状況を好感し、合成ゴム関連銘柄が買われています。

ゴムはタイヤを筆頭に自動車エンジン向けの耐熱ゴム、ホースやパッキン、靴底など幅広い分野で使われています。ゴム産業は天然ゴムを原料として発展してきましたが、原料の生産量に限界があったことなどから石油化学原料の合成ゴムが戦時下で開発されました。

日本で初めて合成ゴムを生産【日本ゼオン】

上昇率1位の「 日本ゼオン 」は、合成樹脂の製造販売を目的に1950年に設立されました。59年に日本で初めて合成ゴムの生産を始めたパイオニアです。耐油性や耐熱性、耐摩耗性などに優れ、自動車に欠かせない「水素化ニトリルゴム」を世界に先駆けて開発しました。国産ナフサ価格の上昇を受けて価格改定を進め、2023年3月期の第1四半期は前四半期比で増収増益となっています。

オフィス機器向けの特殊ゴムが好調【大阪ソーダ】

上昇率2位の「 大阪ソーダ 」は、苛性ソーダの製造販売を目的に1915年に設立されました。71年には、独自開発した耐熱性、耐油性などに優れた特殊合成ゴム「エピクロルヒドリンゴム」の生産を始めました。自動車の高性能化と環境規制に対応できる高機能素材として使用されています。また、デジタルカラー複合機の帯電・転写・現像ロールといったオフィス機器にも採用されています。2023年3月期第1四半期は、自動車生産台数の減少で自動車向けは悪影響を受けたものの、オフィス機器向けのシェアが伸びて、「エピクロルヒドリンゴム」の売上高は伸びました。全体の業績についても、各段階利益は過去最高を大幅に更新しました。

9月から合成ゴムの価格を値上げ【UBE】

上昇率3位の「 UBE 」は、宇部セメント製造など4社が合併して1942年に宇部興産として発足しました。傘下のUBEエラストマーが合成ゴム事業を手掛けています。同社は8月19日に合成ゴム製品の価格を1キログラムあたり80円値上げすると発表しました。原燃料価格の高騰で、製造コストが自助努力の範囲を大幅に超えたのが理由です。9月1日出荷分から実施しています。

EPDMの国産化に初めて成功【三井化学】

上昇率4位は総合化学メーカーの「 三井化学 」でした。合成ゴム事業では加工性や耐熱性、耐寒性、電気特性に優れた「エチレン・プロピレン・ゴム(EPDM)」の国産化に初めて成功しました。自動車部品や土木建築資材、電線ケーブル、工業薬品など幅広い分野で利用されています。

4月から合成ゴム価格を値上げ【旭化成】

上昇率5位は総合化学メーカーの「 旭化成 」でした。合成ゴム事業では日本で初めて「溶液重合法」という製法によって合成ゴムの製造・販売を始めました。自動車用タイヤや工業用品で使用されています。原燃料価格や物流費の高騰を受け、4月1日出荷分から合成ゴム製品の価格を1キログラムあたり40円以上値上げすると3月25日に発表しました。発表資料では「今後の社会情勢次第では再度改定する可能性がある」としています。

価格上昇による消費減退には警戒も

大口需要家との価格改定交渉が成功したことで、関連各社は合成ゴム事業の採算悪化を防ぐことができそうです。問題は、合成ゴムの買い手が消費者に販売する自動車やタイヤ、靴などを値上げするかどうかです。原材料価格や物流費の高騰といった条件は自動車やタイヤメーカーなども変わらず、企業努力だけではコスト上昇を吸収できない可能性があります。すでに食品などで相次いでいる値上げが、自動車やタイヤといったゴム製品にも波及すれば消費減退につながりかねません。小売売上高などの経済指標から個人消費が変調をきたしていないかどうかにも目配りしていきたいですね。