FIREするには、どれくらいのお金が必要?

目指せFIRE!おけいどん式 資産形成術/ 桶井 道(おけいどん)西田ヒロコ

「47歳でFIRE達成! おけいどん式資産形成術とは」を読む

FIRE(=経済的自立と早期退職)するためには、お金がどのくらい必要なのか? これはよく議論され、またよく質問されることです。しかし、一律に1億円とか、7000万円とか、5000万円とか、定型で語ることはできず、人それぞれで異なります。

私は総資産7000万円でも不安だった

私は会社員として働いていた42歳のとき、総資産が7000万円ありましたが、その時点でのFIREは不安でした。シニアマンションに入居することを人生の目標としながら、さらに人生には想定外の「まさか」が起こると考えていたからです。想定外に備えて、FIRE前に、さらに2000万円は欲しいと考えました。

でも実際には、2020年の秋に47歳で資産1億円に到達してからFIREしました。9000万円に到達したとき、「もう少し欲しい」という気持ちと”金額”という数字だけで割り切って退職できない気持ちが芽生えて、退職時期が伸びたからです(このあたりのメンタル面の話はまた別の機会にしましょう)。

経済的自立をするために必要な「3つの設計」

そんな会社員時代の私が、経済的自立に向けて考えたことは3つあります。
1つ目は、人生の目標を明確にして、それに必要なお金を浮き彫りにすること。つまり”ゴールベースで考える”ということです。

2つ目は、株式からの配当金(=不労所得)を含めて目標達成に必要な資産額を設計すること。毎月配当金が入れば、資産額のハードルを下げられます。

そして3つ目は、楽観的な計画ではなく、「まさか」を想定した悲観的な計画を作ることです。実際に私は、阪神淡路大震災での被災や親の介護という「まさか」を経験しています。人生には「まさか」は付き物で、多くの場合、解決にはお金を要します。

私の人生の目標は、60歳を目途にシニアマンションに入居することです。なので、まずシニアマンションについて調べたところ、入居費用に5000万円、生活費として月額30万円が必要だということが分かりました。

それから私の場合は、もらえる年金が月々約10万円(退職が早いので年金額も少なくなります)の試算だったので、月額30万円かかる生活費から年金分を引き、残り20万円を配当金でカバーしようと考えました。そこで、年間240万円(20万円×12ヵ月)の配当金を作るために、7000万円を3.5%程度の利回りで運用しようと考えました。

よって、入居費用5000万円と運用資金7000万円、そして「まさか」のときに備える現金として3000万円、合計1億5000万円の資産が必要であると考えました。「まさか用」に現金3000万円を用意する根拠は、全てを投資に充てると評価額が日々動いて不安になるということと、シニアマンションが被災して引越しを要する「まさか」が起こった際に新居に充てる費用です。

人生のゴール……60歳でシニアマンションに入居
資産運用のゴール……資産1億5000万円、配当金年間240万円

この目標を見据えつつ、私は1億円を「経済的自立」とみなしてFIREしました。1億円のうち、7000万円を投資に充てて(3000万円は現金および日本国債などで保有)、毎年3~4%程度で複利運用し、多少は非正規で労働すれば、60歳で1億5000万円の試算が成り立つと考えたからです。

よって退職後の今も、1億5000万円に向けて運用を続けています。1億5000万円で人生の目標(=理想の老後)を手に入れる……という設計なのです。

「まさか」を想定しながら、収入の選択肢を増やす日々

万が一、FIRE直後にリーマン・ショック級の下落相場が再来して、投資資産が半減してしまったら……という最も悲観的な想定もしました。この場合、投資資産7000万円は3500万円に、現金および日本国債などは3000万円、資産合計は6500万円になります。このケースに陥った場合は、株式投資を継続しながらも非正規で労働するか、シニアマンションのグレードを下げれば、逃げ切れると判断しました。

私は、この逆算をしたうえでFIREに至りました。人生設計も資産計画もゴールベースで考える、そこに「まさか」も想定しておくことが大切だと思います。

2020年の秋にFIREしてから2年弱が経過しましたが、進捗状況はどうなったのか? FIRE時とは想定外に人生が進み、単行本を出版したり、連載を持ったり、原稿の依頼があったり、取材を受けたりと執筆業が順調で、それなりの収入となっています。

配当金およびその他収入とも合計すると月収40万円程度となり、想定よりも投資額を増やせています。資産額は1億2000万円、配当金は180万円まで成長しました。ゴールに向けて極めて順調です。

ところで、老後のお金の話となると、いわゆる「老後2000万円問題」のことが思い出されます。私は、シニアマンションに入居しなくとも、老後生活が2000万円で足りるとは思っていません。老後2000万円では無謀な試算だと認識しています。

「老後2000万円」では全然足りないと思う理由

老後は2000万円が不足する……そこから逆算する形で、老後の2000万円は確保して、退職から年金がもらえる65歳までいくら必要か? と、考えてFIREに必要な金額を算出する方もいるかもしれません。しかし、私はそもそものスタートから間違っていると考えます。理由は2つ。元から試算の前提に無理があること、それから、FIREすれば年金受給額が減るからです。

ここで、「老後2000万円問題」の前提をご紹介します。

(1)月の収入は夫婦で約20万9000円(うち年金などの社会保障給付が約19万2000円)
(2)夫65歳、妻60歳の時点で夫婦ともに無職
(3)30年間、夫95歳、妻90歳まで夫婦ともに健康である
(4)月の支出は夫婦で約26万4000円
(5)その間の家計収支が毎月5.5万円の赤字である

この条件のもと計算すると、老後30年間で約2000万円不足するというものです。

月5.5万円×12ヵ月×30年=1980万円

私は、この計算には無理があると思います。なぜなら、老後ずっと「健康」であることが前提条件になっているためです。

3人に1人は要介護or要支援の認定を受ける可能性も

内閣府発表の「令和3年版高齢社会白書」の統計データによると、平成30年度末時点で75歳以上の高齢者が要介護もしくは要支援の認定を受ける割合は31.8%です。つまり、夫婦で考えると、いずれかが要介護もしくは要支援になる確率はもっと高くなるわけです。

私の両親には、その「まさか」が起きました。父は80代前半で要介護認定を受けましたが、振り返るに70代から症状はありました。母は70代後半でがんサバイバーですし、以前にも要介護になった時期があります。治療や生活には、それだけプラスαのお金が必要です。具体的には、自宅のリフォーム、介護器具・介護サービス、通院・検査・薬などの費用です。

政府の統計(総論)、私の両親の「まさか」(各論)、両面から鑑みて、夫婦が健康で老後を終えられる前提の試算には無理があると、私は思います。老後は2000万円では足りないと考えるほうが自然なのです。

独身ではどうか? 初めに考えなければならないのは、独身なら年金支給額が減るということです。総務省の家計調査年報(2020年)によると、単身無職世帯の社会保障給付は11万3857円、高齢単身無職世帯(65歳以上対象)の消費支出は13万8542円です。不足する額は毎月約2万5000円となります。

2万5000円×12ヵ月×30年=900万円

生涯健康で終えられる前提なら、900万円で足ります。しかし、その考えでは無理があります。要介護もしくは要支援の確率は低くなく、独身なら、なおさら備える必要があると言えます。あらゆる「まさか」をお金で解決することになるからです。

介護に要する費用はどのくらいでしょうか。厚生労働省の「高額介護サービス費の負担限度額」によると、平均的な所得の場合で月額4万4400円(上限)です。75歳から100歳まで25年間要介護と、厳しめに仮定して試算しましょう。

4万4400円×12ヵ月×25年=1332万円

生活費で900万円不足、介護費用で1332万円必要、合計2232万円。やはり2000万円では不足します。人生には「まさか」が起きますから、余裕ある備えが必要です。

以上の試算から、既婚であれ、独身であれ、老後2000万円では足りないというのが私の持論です。ちなみに、国民年金ではもっと厳しい試算になることは言うまでもありません。年金支給額は月額6万4816円なのですから。

おけいどんの公的年金受給額の試算

そして、厚生年金であれ、FIREすれば年金受給額が減少することを忘れてはなりません。

47歳でFIREした私ですが、年金受給額をどのくらいで試算しているのか? 先ほど、月額約10万円と記述しましたが、月額10万9000円と想定しています。社労士さんに試算してもらい、ねんきんネットでも試算し、同じ額になりました。20~22歳は国民年金、22~47歳に厚生年金、47~60歳は国民年金・付加年金加入という条件です。

退職が早く、厚生年金の期間が短くなるだけ年金支給額も減ります。FIREするにあたっては、退職年齢が早ければ早いほど、年金受給額が減ることも頭に入れておく必要があります。

国民年金は払い損?

となると、年金なんて役に立たない! と思われる方もいるかもしれません。ですが、損益分岐点は意外と低く、払い損でもないのです。国民年金で試算してみましょう。

国民年金の保険料は月額1万6590円です。支払い年数は20~60歳の40年間です。

1万6590円×12ヵ月×40年=約796万円

生涯で納める必要がある年金保険料は約796万円です。

対して、支給額は月額6万4816円です。年額は約77万8000円です。

796万円÷77.8万円=10.23年

つまり65歳から受給したら約75歳以降はプラス、「貰い得」なのです。年金は使える制度です! 自分の老後のためにも国民年金には加入しましょう。

さて、色々と検証してきましたが、FIREするにはいったいいくら必要か? その答えは、人によって異なるということはお分かり頂けたと思います。

引退(脱サラ)年齢、老後の人生設計、家族構成、居住地、居住形態(持ち家、賃貸、実家有り無しなど)、価値観、食生活などに合わせて、試算してみましょう。その際、ゴールベースを意識することが大切です。試算には、資産額だけではなく、不労所得も考えに入れることで、資産額のハードルを下げることができます。その不労所得のなかには、年金の試算もお忘れなく!

今回のまとめ
・人生の目標から逆算して、FIREに必要な金額を考えよう
・「まさか」を想定すると、老後2000万円では足りない
・退職年齢が早いと年金額は減ることを頭に入れておこう

次回は10/31(月)配信予定です。